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女性アスリートへ「新しい生理の選択肢を」選手が作った新商品

「試合のため…」無理をした葛藤

「生理に悩むすべての人に選択肢を提示したい」という思いで商品開発をしたという下山田志帆さん
「生理に悩むすべての人に選択肢を提示したい」という思いで商品開発をしたという下山田志帆さん

目次

雨の日も風の日も、重要な商談がある仕事の日も、楽しみにしていた旅行の日にも、毎月お構いなくやってくる「生理」。コンディションにかかわらず、常に高いパフォーマンスを発揮しなければいけないアスリートにとっても、「生理」は頭を悩ませる問題だ。女子サッカー選手としてドイツでプレーし、現在、なでしこリーグ2部のスフィーダ世田谷FCで活動する下山田志帆さんは、「生理との向き合い方」に長く葛藤してきた一人だ。自身の悩みを解決するプロダクトを作ろうと、2021年4月に自らの手で企画・開発を手掛け発売にこぎつけたのが「吸収型ボクサーパンツOPT(オプト)」だ。「生理に悩むすべての人に選択肢を提示したい」と話す、その思いを語ってもらった。(取材・文/田中瑠子)

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下山田志帆(しもやまだ・しほ)
1994年12月生まれ、茨城県出身。つくばFCレディース、十文字高等学校、慶應義塾大学でプレー。2015年ユニバーシアード大会の日本女子代表候補。17~19年、ドイツ女子2部リーグのSVメッペンに所属。19年7月からなでしこリーグ2部のスフィーダ世田谷FCでプレー。2019年春に同性のパートナーがいることを現役選手として初めて公表。10月に元女子サッカー選手・内山穂南さんとの共同代表で『株式会社Rebolt(レボルト)』を設立。アスリートの経験や視点を生かしたプロダクト開発を手掛け、2021年4月5日にアスリート発「吸収型ボクサーパンツOPT(オプト)」をリリース。個人として「スポーツとLGBT」をテーマに問題発信を行っている。クラウドファンディングサイトはこちら
 

新しい生理の選択肢、想像もしていなかった

猛暑の日には汗だくに、雨の日にはずぶ濡れになりながらも、試合に出なくてはいけない――。試合日と生理が重なるたびに、その煩わしさに憂鬱になります。

汗や雨で水分をたっぷり吸った生理用ナプキンは、肥大化しておむつのようになり、気持ち悪いし、重くて動きにくい。運動量が多く、足の可動域が広いサッカーのプレー中は、ナプキンがパンツからズレてくることもあります。

ある試合中には、スライディングしたときに、粘着力がなくなった生理用ナプキンが落ちてしまい、グラウンドに置き去りになったことがありました。試合は止まらないのでその後も走り続けましたが、チームメイトから『ナプキン、落としてたよ』と言われてしまった。仕方ないじゃないかと思う気持ちと、恥ずかしい気持ちと、何とも複雑な心境でしたね。

生理のときはナプキンをつけるのが当たり前だと思っていたので、ほかの選択肢があるとは想像もしていませんでした。
考えが変わったのは、2019年頭に、あるブランドが出した吸収型パンツを目にしてから。液体を吸収し、抗菌・消臭、漏れ防止機能が備わった特殊加工のパンツに「このパンツが、私の悩みを軽減してくれる!」と驚きました。

ないなら、自分たちで作るしかない

では、なぜ、すでに出ている商品を使うのではなく、わざわざ自ら「吸収型ボクサーパンツOPT」を開発しようと思ったのか。私には、その吸収型パンツブランドを選べない理由がありました。

デザインがすべてショーツタイプだったからです。

私は普段から“かっこいい”ものに惹かれ、社会が規定する“女性らしさ”に違和感を抱いてきました。下着はメンズのボクサータイプのパンツを着用しています。生理用品に関して長年我慢してきたことが、吸収型パンツ1枚あれば解消されるのに、ただ唯一、デザインが違うだけで選べない。ないのだったら、自分たちで作るしかないと考えました。

性的マイノリティの方の中には、生理用品に対して、機能面の煩わしさ以外に心理的な障壁を感じている方もいます。そもそも生理用品という存在が葛藤の種であり、薬局の「生理用品コーナー」にいることや、生理用品を購入することに抵抗感があったり、生理用品を持ってトイレに行くのを友達やチームメイトに見られたくなかったり。生理中であることを、誰にも知られたくないという方も少なからずいます。

「吸収型ボクサーパンツOPT」の企画・開発の背景には、生理用品の機能面と心理面、両方で悩む声を多く聞いてきたことが大きかったでしょう。アスリートの激しい動きに耐えられる生地の伸縮性や着心地、吸収力や防水加工の機能面、そしてジェンダーにとらわれないデザイン性。そのすべてを考慮した商品を作ることができれば、生理の向き合い方に、新しい選択肢を示すことができると考えました。

かっこいい!を追求したOPTのデザイン。縫い代がなく、身体に合わせて立体的に編み込んでいくタイプの縫製方法により、吸収型パンツであっても“メンズボクサー”と同様の型を実現することができた
かっこいい!を追求したOPTのデザイン。縫い代がなく、身体に合わせて立体的に編み込んでいくタイプの縫製方法により、吸収型パンツであっても“メンズボクサー”と同様の型を実現することができた
出典:OPTのインスタグラムアカウント

女性アスリートの97%が不快感に悩んでいる

商品開発にあたって、アスリート554人に「競技と生理」に関してアンケートを実施したところ、97%が運動中の蒸れやズレ、漏れなど何かしらの悩みを抱えていました。悩みはないと答えた方は3%しかいませんでした。

回答したアスリートの競技は、サッカーやバレーボール、陸上、ラグビーなどさまざまです。陸上やバレーボール選手からは、ウェアが身体にフィットしたものゆえに、「競技中に生理用品がはみ出てしまうのではないか」という切実な悩みも寄せられました。試合中は、故意にお尻を狙って撮影されるケースもあとを絶たず、「生理用品が膨らみのあるタイプであれば、その部分まで撮られるのではないか」という不安もあるのだと知りました。

また、あるラグビー選手は、試合中に経血が漏れてしまっていることに気づきながらも、スクラムを組まねばならなかったエピソードを話してくれました。「生理なんて、今気にしている場合ではない。試合に集中しなければ…」と葛藤した気持ちや、「チームメイトは生理だから仕方ないと理解しているけれど、すごく気になるし気持ち悪い」という心境が、とてもよく理解できました。

一部のトップアスリートに関しては、ピル(低用量経口避妊薬)を服用し、生理の期間を短くして量を減らしているのかもしれませんが、一般アスリートにおいては、まだまだ広まっていないのが現状でしょう。

chooseではなくOPT

作りたかったのは、誰もが安心して着用でき、アスリートレベルの動作環境でも動きを制限しないパンツです。製作においては、繊維商社・株式会社ヤギさんと共同開発を進め、これまで6回の試作を繰り返しました。量が多い日に漏れてしまったり、雨に濡れてしみ出してしまったりしたこともあり、そのたびに改善点を話し合い、4層構造の特殊素材開発(吸水速乾素材・吸水素材・透湿防水ラミネート素材・ストレッチ性/フィット性に富んだ立体成型ニット)に至りました。

利用対象者をアスリートに限定したり、性的マイノリティ向けを意識したわけではありません。生理用品の機能面で悩んだ経験がある人、生理用品を使うことによる心理的な違和感に悩んだことがあるすべての人に、“新しい生理の選択肢”を提案したいと考えています。

OPTには「選択する」という意味があります。選ぶという英語には、choose以外にoptという動詞があり、choose よりも「自分で選んだ」という意味合いが強い言葉なんです。

自分の身体に合うもの、自分が身につけて心地よいと思えるものを、自分で選べる社会になってほしい。OPTにはそんな思いを込めています。(聞き手・田中瑠子)

生理をオープンに話せる社会へ――取材を終えて

アスリートに限らず、普段からスポーツを楽しむ女性にとって「生理をどう対処するか」は切実な問題だ。私は、平日はライター、土日はチアダンスのインストラクターのパラレルキャリアを12年ほど続けており、毎月生理になるたびに、踊っている間に生理用ナプキンがズレて漏れるんじゃないかという不安は尽きない(実際に、生理用ナプキンはいつもズレる)。アスリートたちは、重要な試合や大会で生理が重なったらどうしているのだろうと常々気になっていた。

OPTを最初に見たとき、「これは私向けのものだ」と感じた。生地の肌触り、伸び縮みのしやすさ、そして液体吸収部分の薄さ。生理用ナプキンをつけると、お尻がぽこっと浮いたように膨らんでしまうのが以前から気になっていたが、これなら普段の下着と見た目がほとんど変わらない。また、私は生理用ナプキンで肌荒れに悩むことも多く、デリケートゾーンのかゆみという形容しがたい不快感から解放されるならば、ぜひ試してみたいと思った。

取材で詳しく話を聞くまで、アスリートたちは、ピルの服用やタンポンの利用などによって、パフォーマンスに影響が出ない方法をそれぞれ実践しているのかと思っていた。しかし、よく考えれば、アスリートかどうかに関係なく、選択肢の幅はそう変わらない。下山田さんの話には共感することが多く、誰もが似た違和感を抱えているのだと知った。

一方、OPTのような商品が一般になじみがないのも事実だろう。色んな選択肢があることを知ってもらうには、生理の悩みをオープンに共有しながら、話せる環境が必要なのかもしれない。

吸収型ボクサーパンツOPTというプロダクトが、生理の新たな選択肢となることはもちろん、生理について気軽に話せる社会へ、小さな変化をもたらしてくれることを期待したい。

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