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ライブ決行で「ディスり合い」、はけ口になった「わかりやすいもの」
新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を防ぐための公演自粛の流れの中で、ライブの中止が相次いでいます。ツイッターなどでは、ミュージシャンたち本人が、今回の打撃によって音楽活動が続けられなくなる危機感をコメントしています。一方、公演を行ったことで、ネット上で非難された人たちもいます。自粛要請がさらに10日ほど延長され、音楽業界には危機感が増しています。世の中の閉塞感と先行きへの不安。今回の事態をどのように受け止めればいいのか。ミュージシャンたちの発言から考えます。(朝日新聞文化くらし報道部記者・坂本真子)
2月26日午後、衝撃が走りました。
政府は、新型コロナウイルスによる肺炎の対策本部で、スポーツ・文化イベントなどの開催を今後2週間自粛するよう要請すると決めたと発表。これを受けて、Perfumeの東京ドーム公演、EXILEの京セラドーム大阪公演が、開演の数時間前に急きょ中止されました。
米津玄師さん、星野源さん、福山雅治さん、LUNA SEA、ゴスペラーズ、DA PUMP、三浦大知さんらの公演も、中止や延期が次々に発表されました。この日の夜には、ソニー・ミュージックエンタテインメントが、同社のグループ各社が主催する3月11日までの全公演を中止か延期にすると発表。ラルクアンシエル、King Gnuなどの公演も中止になりました。
海外からの来日公演も、グリーン・デイ、アヴリル・ラヴィーン、A-HA、ニュー・オーダー、ゴー・ウエスト……と、次々に中止や延期が発表されています。
そんな中で、ライブの中止について、ミュージシャンたちが次々にツイッターでつぶやいています。
中でも注目されたのは、Non Stop Rabbit(通称ノンラビ)。3月1日に東京・豊洲PITで行う予定のライブ中止を発表した後、所属事務所の社長でギターの田口達也さんが「この規模のライブの中止で会社すら潰れかねない損失を受けます。音楽という仕事すら続けられなくなる可能性が中止の決断一つで出てしまうのです」「アーティストは本気でファンを守る決断をします」「だから政府も本気で対応してください」「感染せずとも何かを失った人がいるという事を分かって下さい」などとツイートしました。15日現在で4万5千以上リツイートされ、「いいね」は9万を超えています。
ノンラビは1日にYouTubeでライブ配信を行い、中止が決まってからの3日間で作ったという新曲「全部いい」を披露。田口さんは「また必ず、豊洲PITで会えたらいい」とツイートしました。
ライブを中止する事となりました。
— 田口 達也【ノンラビ】アルバムオリコン1位獲得👑 (@Ace8trriger) February 26, 2020
コロナウイルスに感染していなくとも、生活が困難になる事実を政府に届けたい。 pic.twitter.com/Xug29souav
西川貴教さんは「勘違いしてる人が多いので申し上げると、お金の問題よりもそれでなくてもコンサートインフラの問題は以前から叫ばれていて、延期にするにしてもどの会場も取り合いで日程が出せないのが一番の問題なんです。収支より楽しみにして下さってた方々の想いにどうお応え出来るかが最大の悩みです」とツイートしました。
また、RADWIMPSの野田洋次郎さんの、「自然災害等と違ってウイルスは興行の保険適用外となる。ドーム4カ所を含む今回のツアー、全部中止にした場合ウチのような個人事務所が生き残る可能性はどのくらいあるんだろうかと考える」「もし自己破産したらさぁ次は俺何して生きていこうかとほんの少し本気で考えてみたりもする」などの投稿は、衝撃をもって受け止められました。
自然災害等と違ってウィルスは興業の保険適用外となる。ドーム4カ所を含む今回のツアー、全部中止にした場合ウチのような個人事務所が生き残る可能性はどのくらいあるんだろうかと考える。安全、安心、リスク。あれこれ頭に巡らせながら毎日リハをしています。
— Yojiro Noda (@YojiNoda1) February 27, 2020
一方、椎名林檎さんらによる東京事変は、2月29日と3月1日の東京公演を予定通り行いました。チケットの払い戻しに対応すると発表した上で、ライブ当日はスタッフ全員がマスクと手袋を着用。会場入り口では、サーモグラフィーで観客の体温をチェックし、全員の手に除菌スプレーを吹きかけました。うがい薬と紙コップも用意されたそうです。
この公演に対し、ネット上では賛否の声が上がりました。
YOSHIKIさんは「コンサートをキャンセルすることが、どれだけ大変な事なのかを、多分自分は知ってる。だけど今の状況は、選択肢とかじゃないような気がする。命より大切なものなんてないと思う。だからこそ自分も含めて、冷静な判断が必要」などとツイートしました。
その後、東京事変は4日に、「東京公演の終了後、お伺いする予定でおりました今後の公演について、改めてメンバー全員とスタッフで考え、話し合いました。その結果、現在の国内の状況に鑑み、以下の5公演を中止することといたしました」として、6~21日の3都市5公演を中止すると発表しました。
こうした動きを受けて、ベテランのロックギタリスト、山本恭司さんは「この状況下に於いてライブを自粛するミュージシャンとそうでないミュージシャン、そしてそれぞれの立場を支持する人達の間に亀裂が生まれないことを祈ります」とツイートしました。
CDが売れなくなった今、音楽ビジネスは、ライブを中心に成り立っています。チケット代はもちろんですが、グッズの売り上げも大事な収入源です。今回のライブ中止は、感染症が原因のため、いわゆる興行保険は下りません。会場のキャンセル代を含む費用が、ミュージシャンと所属事務所に降りかかります。ドーム級の公演を当日中止にした場合は、億単位の損失が発生します。
また、ライブの音響や照明などのスタッフ、お弁当を納入する会社、警備など、多くの人たちの収入も絶たれます。フリーランスで働く人が多い業界なので、補償のない人も多く、まさに死活問題です。
コンサートプロモーターズ協会の中西健夫会長は、朝日新聞の取材に、次のように語っています。
「今回は全て、何もかもが損害。誰かに請求できることは一つもない。例えば2千人規模の会場のツアー20公演が直前に全て中止になると、作ってしまったステージセットやスタッフ、メンバーのギャラ補償で約5千万円、既に作ったグッズが約3千万円、その他宣伝費など諸経費を入れると計約1億円近くかかります。これを誰が払うのか、という話です。個人事務所だと本当に厳しいと思います」
「大勢の生活がかかっているので、早く終息して開催していくことしか解決の道はないと思います」
「ある程度の要請に関しては受け入れますが、出口をはっきり示して欲しい。3月末ぐらいまでが限界だと思います」
9日、プロ野球の開幕延期とJリーグの再開延期が発表されました。10日には、国内のスポーツ・文化イベントの開催自粛を10日間程度延長するように安倍首相が要請。11日には、選抜高校野球やフィギュアスケート世界選手権の中止が発表され、12日にはWHO(世界保健機関)が「パンデミック」と認定しました。日々、刻々と状況が変わる中で、世の中の閉塞感も増しているように感じます。
新型肺炎の感染拡大を防ぐため、感染の危険性がある集まりやイベントを一時的に自粛するという動きは仕方がないと思う一方、スポーツや音楽といった「わかりやすいもの」だけを中止することには違和感があります。
毎日の通勤電車は、まだまだ混雑しています。開店前のスーパーやドラッグストアの前には、今も行列ができます。
ギスギスした空気と、言いようのない不安。ミュージシャンたちの言葉から漂う「やるせなさ」は、西川さんが指摘するように、経済的な損失だけではないと思います。
3月1日、山下達郎さんはTOKYO FMなど全国38局で放送された番組「山下達郎のサンデー・ソングブック」の冒頭部分を録り直し、自らの2月29日と3月1日の公演延期を報告しました。
「まだ、コロナウイルスの正確な情報というものが明確でなく、多くがまだ推測でしかない現状です。自分の身は自分で守る以外は、防衛手段がありません。今回は少人数のライブハウスでのライブではありますけど、おいでになる半数の方々が関東圏外からいらっしゃいます。ライブ会場はもとより、交通機関等での感染も皆無とは言えません。観客のみなさんの健康、安全第一ということであります」
「イベントライブ、やったらディスる、やらなくてもディスられる。いつから世の中、こんな罵詈雑言の渦と化すようになったのか」
「今はまず健康のために何をするべきか。… …世評が何だろうと、自分の身は自分で守る、というわけで、今回の決定になりました」
14:00~[#山下達郎 の #sundaysongbook]
— TOKYO FM 80.0 & 86.6 (@tokyofm) March 1, 2020
本日は久しぶりの企画❗️「ひなまつり🎎ガールシンガー、ガールグループ特集」👭
“女の子のお祭り”を彩るステキなオールディーズソングを、最高の選曲と最高の音質でお届けします💕#tokyofm #radiko https://t.co/zVWOm99Vru
世の中に不安が蔓延すると、人々ははけ口を求め、ネット上で激しい言葉を発する人も増えます。出口の見えない閉塞感は、自分自身の力で考えることを難しくさせます。
災害や戦争などで人々が平常心でいられないような状況に陥ったとき、「芸事」は切り捨てられやすいものです。しかし、そんなときでも、音楽やスポーツに心を癒やされ、励まされる人がいることも、また事実です。
今、私たちは、ウイルスに立ち向かいながら、同時に、自分以外の人たちが置かれている状況を想像する力、思いやりを失わない努力が求められているのではないでしょうか。
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