ネットの話題
「牛乳パックに入ってるけど牛乳じゃない」 衝撃スイーツの正体は
商品名の羊羹ですらないとも……
見た目は500ミリリットルの牛乳パックなのに、中身は牛乳寒天――。新潟県見附市の一風変わった「ご当地スイーツ」がツイッターで話題になりました。その名も「スワ ミルクヨーカン」。なぜ牛乳パック? 羊羹との関係は? そんな疑問をぶつけると、高度成長期に牛乳の消費拡大に力を注いだ、開発者の思いが見えてきました。
「牛乳パックに入ってるけど牛乳じゃない」「商品名の羊羹ですらない」「原材料が牛乳と砂糖と寒天しかない」と衝撃だらけ、でもそこが愛しいこの商品、新潟県見附市にしか売られてないから行ったら必ず買う。中身出すときめちゃくちゃテンションあがるし味も素朴な甘さでとても美味しい。すき。 pic.twitter.com/WPH4QOSZw7
— ゆず (@yuzuyu_24) January 6, 2020
家庭配達や学校給食用の牛乳を手がけたり、スーパーなどに届けたりするのが本業ですが、ミルクヨーカンは諏訪乳業の第2の柱とも言える看板商品になっています。前身となる商品が誕生したのが1976年。開発したのは4年前に他界した、先代社長の諏訪重雄さんでした。
商品担当者によると、ミルクヨーカンは重雄さんにとって、父・菊蔵さんとの「思い出の味」。同じ地で酪農を始めた菊蔵さんは、砂糖と寒天を加えて作った牛乳寒天を、子どもたちに食べさせていたそうです。まだ牛乳の希少価値が高かった昭和初期、諏訪家の特別なおやつでした。
菊蔵さんの跡を継ぎ、諏訪乳業を1969年に立ち上げた重雄さん。当時、会社には二つの課題がありました。一つは、学校が夏休みなどに入った時の牛乳の扱い。学校給食用の牛乳は、長期休暇中の行き場がありません。牛乳の新たな活用に迫られていました。
もう一つが、競合の増加です。出店が進んだスーパーの棚には、大手メーカーの牛乳も並び、特売など価格競争が激しさを増していきました。
「もっと、付加価値のある商品を」。重雄さんは、牛乳を使ったヨーグルトやプリン、アイスなどの新商品開発に取り組みます。その中で生まれたのが、菊蔵さんとの思い出を再現したミルクヨーカンでした。
担当者によると、ミルクヨーカンは誕生した44年前とほぼ同じ製法を守っています。原材料は、牛乳と砂糖と寒天のみ。作れる数に限りがあっても、人の目が届く手作りにこだわっています。
ただ、当初は「諏訪牛乳ようかん」というネーミングでした。「牛乳を使っているので、洋生菓子の部類ですが、寒天が入っているので、和生菓子の水羊羹などにちなんだと聞いています」(担当者)。容器も牛乳パックではなく、プリンなどを入れる100グラムのカップだったそうです。
売上が大幅に増加するようなヒット商品とはなりませんでしたが、素朴な甘さが固定客に愛され、販売は続きました。次の転機は、発売から約10年後。牛乳の消費拡大につながる商品を考え続けていた重雄さんが、工場にある牛乳を紙パックに詰める機械を見て、パック詰めを思いつきました。
カップから容器が変わった以外、製法に変化はありません。原材料をタンクで煮溶かした後、そのままパックへ入れ、冷やし固めます。「ハイカラ」なイメージにしようと、カップ型とともにカタカナ名のミルクヨーカンに改めて、1987年に売り出し始めました。
シンプルながらも素材の良さを生かす味は変わらず、見た目のユニークさもあって、パック型は口コミで知られるように。見附市のご当地スイーツとして、親しまれていきました。
2000年代に入りブログが普及すると、ネット上でも紹介されるようになります。そして、地元テレビや雑誌などの取材も増えていた2009年、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」で紹介されると、一躍全国に広まりました。
SNS時代の今では、ツイッターやインスタグラムなどで、購入した写真や食べた感想などが日々アップされています。担当者は「注目して頂けるのは、本当にうれしいことで、ありがたく思っています」と話します。
東京・表参道にあるアンテナショップ「新潟館ネスパス」では、地場企業の飲料や乳製品を紹介する棚に、パック型(税込み432円、500グラム)とカップ型(税込み142円、100グラム)が並べられています。新潟県に住む40代男性は「牛乳パックの方をきょうだいで分けて食べていました。大きくなって、丸ごと自分で食べた時はうれしかったな」と思い出を語ってくれました。
私も食べてみました。切り取り線に沿って上部を開けると、普段の牛乳パックからは想像できないプルンとした白いフォルムに、テンションが上がります。スプーンを進めると、口当たりがよく、やさしい甘さが広がりました。
牛乳の消費拡大に生涯取り組んでいたという重雄さん。その根底には、「おいしい牛乳、製品を作れば、きっと支持してもらえる」という信念がありました。そう思うとまた、格別の味わいがしました。
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