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「かいじ君には、絶対、勝つ!」愛知から宣戦布告、「女神」の自信
今春の選抜高校野球大会では、福井工大福井(通称・工大福井)のスタンドで選手と一緒に応援する「ちびっ子応援団」の東島海人(かいじ)君(小2)が話題になりました。小さなからだでキレッキレのダンスを踊る姿が人気を呼んでいます。「ちびっ子応援団」は、愛知県にもいます。応援した試合は負けなしの女の子で、「勝利の女神」と呼ばれています。(朝日新聞名古屋報道センター・寺田実穂子、井上昇)
「愛知のちびっ子応援団」は、工大福井と同じく選抜高校野球大会に出場した至学館のスタンドにいました。記者が見つけたのは、4月30日。場所は、愛知県高校優勝野球大会の準決勝があった岡崎市民球場でした。
試合前、至学館のスタンドで、野球部員のお兄さんやチアリーダーのお姉さんに囲まれている小さな女の子の姿が。至学館のシンボルカラーの青色のユニホーム、チアリーダーとおそろいの黄色いリボンを着けて、手には黄色いポンポンを持っています。
気になった記者がチアのお姉さんに「あの子は誰ですか?」と聞くと、こんな言葉が返ってきました。「ウチの勝利の女神。今日も絶対勝ちますよ」
「勝利の女神」の名前は、小学校1年生の林那奈夏(ななか)さん(7)。至学館の野球部員・林和輝君(高3)の妹です。
那奈夏さんは4人きょうだいの末っ子。お母さんの由里子さん(46)は、中学時代から和輝君の試合には、ほぼ毎試合応援に行っており、「那奈夏は生まれる前からの筋金入りの応援団」(母)なのだそうです。
「がんばれー!」「いけいけ、おせおせ!」
試合が始まると、大きな声で全力で応援する那奈夏さん。121センチのからだを一生懸命動かし、チアのお姉さんと同じ振り付けのダンスを息ぴったりに踊る姿は、とってもキュートです。
この日の試合は、8―1で至学館が勝利。さらに、5月3日の決勝戦では全国大会優勝経験もある強豪・東邦を9―3で下し、至学館は春の県大会で見事初優勝を果たしました。「勝利の女神」の力は、本物でした。
勝利の女神・那奈夏さんをもっと知りたいと、お家にお邪魔しました。
「どうぞ。入ってー」
家のチャイムを押すと、那奈夏さんが玄関まで走ってきて、笑顔で出迎えてくれました。
「早く早く。入ってよ」
とても元気で人なつっこい那奈夏さんは、記者の服の裾をつかんで、自分の部屋に招き入れてくれました。
那奈夏さんは、机に置いてあった新聞の切り抜きや、チアのお姉さんや野球部員たちと一緒に撮った写真をたくさん見せてくれました。どうやら、取材の約束をしてから記者がお邪魔するまでの約1週間、那奈夏さんはとても楽しみにして、準備してくれていたようです。
記者に物おじすることもなく、楽しそうにインタビューに答えてくれました。
――なんで踊ろうと思ったの?
「チアのお姉さんたちがかわいかったから。自分もあんな風に踊りたいって思って応援を見てたら、覚えちゃった」
――練習はどこでやっているの?
「家で、自分で曲を歌いながら練習するよ。お母さんが撮ってくれた動画を見て、手が反対とか、もっと手を伸ばさないとかっこ悪いとか、研究もしてるんだ」
――チアのお姉さんとも仲良しだよね
「みんな優しいから大好き。本当のお姉ちゃんみたい。みんなダンスがメッチャ上手で憧れるなぁ」
――野球のルールは分かるの?
「もちろん。バッターとピッチャーがいて、バッターが打ったら走る。その人が遅くて、グローブ持ってる人がとっちゃったら、走っていた人は帰るよ」
――それはつまり?
「アウト!見てたら覚えたよ」
――すごいね。自分も野球をやりたいって思うことある?
「野球もやってみたい。でも、かっくん(兄・和輝君)がいる間は、応援を続けたい」
那奈夏さんが着ている青いユニホームは、お母さんが内緒で買って、県大会準々決勝の前日の4月28日にサプライズで手渡したそうです。
――ユニホーム、似合ってるね
「本当?うれしい」
――チアのお姉ちゃんたちは何て言ってる?
「なっちゃんも本当のチアになったねって。これを着てると、もっとかわいく踊らなきゃって思う」
那奈夏さんがユニホームを着て応援し始めてから、チームは3連勝で県大会で優勝し、5月26日から三重県である東海大会に出場を決めました。野球部員やチアの間で、那奈夏さんはいつしか「勝利の女神」と呼ばれるようになりました。
――「勝利の女神」って言われてるね。知ってる?
「知ってるけど、恥ずかしい。小学校の友達に見られたら、照れちゃう。でも、最近は夢に女神さまが出てくるようになったよ」
――夢に女神さまが?何か話しかけてくるの?
「試合の前の日とか試合が終わった後に夢の中に出てくる。優勝した日は、女神さまが『応援ありがとう』『あなたがいたから勝てたのよ』って言ってくれてメッチャうれしかった」
東海大会は5月26日に開幕しますが、26、27日は学校があるため那奈夏さんは決勝戦の28日しか応援に行けません。
――東海大会も毎試合、応援に行きたい?
「行きたい。だって、ウチが行かないと負けちゃうもん」
――勝利の女神だもんね
「うん。だから、決勝まで勝てますように、って女神さまにお願いしたよ」
最後に、工大福井のかいじ君についても聞いてみました。
――かいじくんのことは知ってる?
「テレビで見て、かわいいと思った。踊りが上手」
――一緒に踊ってみたい?
「うん。かっくんの学校が、かいじ君の学校と対戦出来たらいいかな」
――対戦したら、どっちが勝つかな?
「それは、絶対かっくんの所(至学館)だよ。だって、ウチが応援するんだもん」
夏の選手権大会を目指し、白球を追う球児たち。それに負けじと、「ちびっ子応援団」も一生懸命です。夏には、ちびっ子同士の応援対決が実現するかもしれません。
この夏は、「ちびっ子応援団」に注目して高校野球を見るのもおもしろいかもしれませんね。
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