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「閣議決定」で幽霊も議論? 「非公開の円卓」で決められていること
5月19日午前、安倍内閣は閣議を開いて、天皇陛下の退位を可能にする特例法案を「閣議決定」しました。そういえばこの「閣議決定」という政治用語、最近、よく目にしたり、耳にしたりしませんか? 例えば、安倍総理の妻昭恵さんは「公人ではなく私人であると認識」。戦前の教育方針とされた教育勅語を今、学校で使うことは「否定しない」。どちらも「閣議決定」され、公表されました。過去には「官邸に幽霊はいるか」が議論されたことも。「閣議決定」は、どれだけ大事なのか? 過去の重要な「閣議決定」を振り返りながら、その正体に迫ります。
答えるのは16年間、政界を取材してきた朝日新聞政治部の林尚行デスクです。
――「閣議決定」が話題です。
「長く政治記者をやっていますが、『閣議決定』がこれほど注目を集めたことは記憶にありません」
――そもそも「閣議決定」とは?
「まずは閣議の説明から始めますね」
「閣議とは、行政権の最高機関である内閣が行う会議のことを指します。内閣の『閣』と会議の『議』で閣議です。毎週火曜日と金曜日の午前中、首相官邸か国会で開かれています。原則として、全閣僚が集まる必要があります」
――テレビでは大臣がずらっと並んで椅子に座る映像をよく見ます。
「首相を中心としてコの字型に座っている、あのシーンでしょうか? あれは閣僚たちが閣議に臨む前に懇談している場面で、部屋の名前を閣僚応接室というんです。メディアに取材が許されるのはそこまで。奥の閣議室に移動して本番ですが、議論は非公開です。閣議室には大きな丸テーブルがあって、閣僚たちは輪になって座ります」
――閣議が重要だと言われる理由は?
「日本では、国を統治する姿として立法・行政・司法の三権分立が定められていますよね。この、行政のトップが内閣です。内閣にできることを定めた内閣法には『内閣がその職権を行うのは閣議によるものとする』と書かれていて、閣議は『行政権の最高の意思決定』と言えます。私たちの国のあり方を決める、重要な場なんです」
――具体的には何が決まるんでしょう。
「主なところでは、次に法案として何を提出するかを決めています。働き方を変えようとか、子育てしやすい環境にしようとか、政府が進めたい政策には、それぞれ関連して法があります。あるものを変えたり、新しく作ったりする前段階として、法案にするわけです」
「内閣が提出する法案のことを『閣法』といいます。それに対して国会議員が進めたいと考えて提出する法案が『議員立法』です。内閣としてこんな閣法を提出しましょうって閣議決定すると、国会に送って議員たちが審議するわけです」
――法案のほかには…
「国の予算案もそうですね。ほかに内閣としての意思決定をする時に、閣議決定をします。わかりやすい例として思い浮かぶのは、2014年に、集団的自衛権の行使を容認すると決めたことですね。それまでの内閣では、日本と関係の深い国が他国から武力攻撃を受けても、日本が反撃に加わるのは憲法の解釈上容認できない、としていました。でも、安倍政権がその解釈を180度変更することを閣議決定したのです」
――究極「黒と言ってきたものを白にできちゃう」という?
「だから、大事な会議なんです。内閣としての考え方を決めて、それに沿った法律が作られる。できた法律が世の中を動かす。実際に、この場合は翌2015年の9月、集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法の成立につながっていきました」
「戦後70年談話も、閣議決定を経ています。これは、先の戦争に対して、いま日本がどう考えているかを国内外に説明するベースになっています」
「一方で、時の政権に都合のいいことを閣議決定してしまうことができるんだ、ということも言えます。閣議決定されたことが常に正しいとは限りません。『既成事実化』を狙って閣議決定が行われる可能性があるんだという点を、私たちは忘れてはいけませんね」
――答弁書というのは?
「森友学園の一連の問題の中、安倍首相の妻である昭恵さんが『私人であると認識している』という閣議決定がされました。これは答弁書を閣議決定したものです」
――答弁っていうことは、だれが質問を?
「国会議員です。衆議院と参議院の議員は、政府に対して聞きたいことを『質問主意書』として衆参の議長宛てに出すことができます。国会での質疑を補完するような役割です」
「その質問主意書は内閣に送られて、内閣は、そこから1週間以内に見解を示す必要があります。見解を示した文書が『答弁書』で、関係する省庁が書いています。これを閣議にかけて、OKその通りだと閣議決定していきます」
「鈴木宗男元衆院議員は『ミスター質問主意書』とも言えるような人で、新党大地時代に約2千本の質問主意書を提出しました。国会での質問の機会の少ない小政党にとっては貴重な活動の場でもあるのです」
「関係を整理すると、国会議員が質問して、役人が答えを用意して、『それでよし』と決めるのが内閣。昭恵さんが私人であるという答弁書も、民進党の議員が質問したから、それに応じたものだったんです」
――どんなことを聞いてもいいのですか?
「議員には質問する権利が保障されているので、分野は限らず何を聞いても大丈夫です。実際に、一風変わった答弁書が閣議決定されたこともあります。何だと思いますか?」
――というと?
「2013年のことですが、総理公邸に幽霊は出るのか、という質問主意書が出されました。公邸とは総理が寝泊まりをする宿舎のことです」
――ウケ狙い?
「現在の首相官邸は、小泉総理の時代に新しく建てられたもので、その隣にある公邸の建物は、以前は官邸として使われていました。古いですからね、5.15事件、2.26事件など歴史的事件の舞台にもなりました。人が殺されていたり、事件によって無念の死を遂げた兵隊たちがいたりするわけで、幽霊が出るといううわさが絶えませんでした」
「幽霊の質問は、民主党の議員が、安倍首相がなかなか公邸に引っ越さない理由を聞くのに、幽霊のためかと質問に書いたのです。それに対する答弁書は『お尋ねの件については承知していない』、つまり、知りませんよというものでした。過去には『UFOは存在するのか』という質問もありましたね」
――幽霊の「閣議決定」って重要には思えませんが…
「大事ですとも! 先ほども言ったように、答弁書は閣議決定を経ています。行政権の最高の意思決定です。総理公邸に幽霊が出るか『承知していない』というやり取りは一見すると滑稽にも見えますが、この見解はその後変更しない限りは、永遠に『内閣の見解』になるのです」
「極端なことを言えば、『実は首相が幽霊を確認していた』なんてことが後から発覚したら、『ウソの見解を決めたのか』という、責任が問われかねない事態になることも考えられます。『幽霊はいる』なんていう決定がされれば、その後の内閣も、縛ります。だから、答弁書はものすごく重くて偉いのです」
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