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籾井会長を突き動かしたもの 「悪いことしていない」退任会見全文
任期満了で退任するNHKの籾井勝人会長が1月19日、任期最後の記者会見を開きました。就任会見での発言から、何度も批判にさらされた3年の会長職でしたが「一度も辞めたいと思ったことはない」と強調。そのバイタリティーはどこからくるのか。歴代の会長でも、屈指の存在感を残した籾井氏が会見で語ったこととは?
ご承知のように、1月24日の任期満了日をもってNHK会長を退任します。従いましてこれが最後の定例会見になりますのでこの場を借りて退任のあいさつを申し上げます。
はじめに視聴者を始めNHKにご支援ご協力いただいた皆様に心からお礼を申し上げます。おかげさまで会長として3年間の任期を全うすることができた。
率直に感想を申し上げれば、放送というこれまでの縁のなかった世界でも、決断と実行を実践し、まっすぐな生き方を貫くことができました。NHK会長ならではの経験もたくさんさせていただきました。とてもハッピーだったと実感しています。
振り返ってみますと、今年度上半期ゴールデンタイムの平均視聴率が初めてトップに立つなど、NHKの番組はよく見られるようになりました。国際放送では、外国人向けのNHKワールドTVを刷新し、海外での視聴可能所帯の拡大に加えて国内のケーブルテレビへの流入も増えました。
新サービスの展開では、8K放送に加えて4K放送も行うことを決断しましたが、テレビ放送のインターネット常時同時配信の実現に向けて、検証実験を開始するなど、2020年のターゲットイヤーに向けて着実に駒を進めることができました。
放送センターの現在地での建て替えも大きな経営決断でした。将来の公共放送の礎を築くことができたと自負しています。
とりわけ印象に残ったのは去年のリオデジャネイロパラリンピックでの放送です。「録画から中継」「BSから地上波」の放送を増やすようにお願いいたしましたが、その結果パラリンピックの関係者はじめ多くの視聴者から好評をいただきました。
「ボッチャ」という競技は皆さん今やご存じだと思いますが、始まる前は全く知られていないスポーツであったと思います。使われる球は1個6千円するそうですが、12個1組が飛ぶように売れているそうであります。
一方、経営委員会が来年度予算の審議で値下げを認めなかったことは理解しがたいと思っています。現経営計画で放送センターの建て替え計画が具体化した段階で収支を見直すとしてきた約束と、これまで基本的に守ってきた収支均衡予算の原則を覆すほどの根拠があったのか。
財政的に余裕があれば視聴者に還元する、支払率が上がれば受信料の値下げにつながる、そうした実感を視聴者の皆様に得ていただく絶好の機会だっただけに、非常に残念でございます。近く公表される経営委員会の議事録をよく読んでみていただきたいと思います。
会長のバトンをタッチする上田さんには引き続き諸課題の取り組みや改革を推進してほしいと思います。
一方で、できるだけ早く、プロパーの方が会長を担えるようなNHKになることを期待しています。そのためには役職員が「われらのNHK」という意識を持つことが大事です。また、経営を担う人材には、組織全体をコーディネートできる力量を身につけてもらいたいと思います。
3年間の成果は、役職員が一丸となって取り組み、なによりも視聴者の皆さまが、NHKを指示してくださったということにつきます。重ねて感謝の意を表したいと思います。
これからも皆さまから支持されるNHK、見ていただけるNHKであり続けてほしいと思います。放送と通信の融合時代にふさわしい公共のメディア、世界に冠たる国際メディアへの進化を心からお願いし、私の退任のあいさつと致します。
――次期体制への期待感やかける言葉は?
ん?ぼくに質問? 質問は何? ほんと体調悪いものだから、集中力がほとんどないんですよ。
――次期上田新体制への期待感、かける言葉は?
まあ、今から引き継ぐわけですから、新たに会長になられる人に前任者の私がああだこうだ申し上げることは、ちょっとやっぱり差し控えるべきだと思います。ただ、NHKという組織、今言いましたようにプロパーの職員というものが、職員としてやっているわけで、そういう意味で、よく連携をとって、頑張っていかなきゃいけないと思います。
――17年度予算について、値下げも含めて、予算自体についての印象は?
かねて言っているように、お金が余ったら返すというのが原則ですから。いまやセンター建て替えのための積立金が200億~250億円くらい毎年あったのが、今後必要なくなる。この部分はキャッシュフロー上、あまっているのをやはり、還元という形で返すのが、ごく自然だと思う。
あれに(お金が)いるかも、これにお金がいるかもといえば、この世界ではなんぼでもありますよ。我々も責任もって予算案をつくったわけで、これが簡単にボツということにはならないのではないかと思っています。しかし、いずれにせよ経営委員会の議決事項ですから、経営委員会が決めたことは、それはそれで従わないといけないと思う。
――値下げなしで、4K8Kなども充実して国際放送も引き続き取り組むことについては?
そらー実際にあたってみれば、石炭の価格も一頃よりはずいぶん上がっていますし、鉄鉱石も下げ止まっている中で、当然、こういうことは業績に反映されるでしょうから。それが現実ではないかと思っている。
――不祥事の再発防止に努める中で、最終盤でも横浜と福島で起きてしまった。
そうですね、不祥事が起こるのは何かがおかしいと言うこと。たとえば社内における審査制度の不備、こういったものが犯罪の歴史になってきていると思う。
――視聴者の会を取材すると、最初の会見のことをまだおっしゃる人もいる。こうすればよかった、ああすればよかったということが3年間、あれば。もう1点、会長の立場で言えなかったこと、我慢していたことあると思うが、今なら言えることがあれば。
このことで週刊誌のことや新聞記事について物事を差し挟むとか、しないつもりですよ。もとより最初の記者会見でずいぶんとまぁ、私もご記憶の方がいらしたと思うが、コメントすることをやめたわけですね。
でもどうしてもと、えらいしつこかったんで、私見として申し上げたら、「私見はない」というご意見だった。ですから、記者会見で発言したことは全部、国会で取り消しております。したがって、それについては、皆さんから今「わあわあ」言われる筋合いではないと思っています。
――在任中、会長を辞めたいと思ったことは?
前も言ったと思うが、一度も辞めたいと思ったことはないです。
自分が置かれた立場がね、いろいろコメントしたことが、いろいろ言われたわけですね。それは国会で取り消したが、いまだにハイヤー問題とかおっしゃっているじゃないですか。どうしてだろうと私にはわかりません。フェアネスからいえばフェアではない。
――籾井さんを突き動かしたバイタリティー、原動力はどこから?
私は悪いことをしていないということですよ。
――会長としての立場を示す中で、政府が右というものを左というわけではないという発言は、今でもそういう考えか。今後の会長にもその考えは引き継いでいくつもりか?
みなさん今となってはご承知だと思います。NHKの国際放送の番組基準がある。その中に政府の方針はきちんと伝えないといけないと我々は定義されている。それを申し上げたにすぎない。
右とか左とかいうとメディア的にはキャッチフレーズとして言いやすいでしょ。だから皆さん使われたと思います。でも実際はそういうことではないです。NHKの国際放送番組基準のなかで、NHKの公式見解は明確に言わなければならないということになっているということです。
――横浜の受信料着服問題を知ったのはいつか?
正確には覚えていない。去年の11月だったかと。
――公表しないという判断をされたのはなぜか? 籾井さんは企業のトップを務められた。トップのガバナンスの考え方として、下がなんと言おうと発表するべきだと判断しなかった理由は?
あのですね、何でもかんでも発表すればいいわけではない。発表する基準はあります。そういうものを見極めたうえで発表するものはする、しないものはしないということですね。その時点では発表するには及ばずという判断だったとお思います。それは今でもそう変わっていないと思いますよ。
――先ほど受信料の値下げについて、「理解しがたい」との発言がありましたけども、議論の進め方について反省は?
私は早すぎたとは思わない。まあ、なんで早すぎると思うかわからないが、我々からすれば次年度は4月ですから、決して早すぎるとは思いません。
――経営委員会の方からも、再来年度以降の経営方針の検討が足りないんじゃないかとの意見があったが反省点は?
いま3カ年計画が進行している最中、終わらないと次に移行する時じゃないという理由はどこにもない。だから、お金を下げるというのはその時点から有効になってくるわけです。来年もそれが続くということですから。
私は別に、不手際あったとかそういうことは全然思っていません。この建て替え計画については色々議論して、経営委員の皆さんからも意見が出てきているわけです。経営委員長がブリーフィングでお読みになったそうですけれども、我々はその前に質問状を出しているわけですよ。だから議事録と経営員会の答えをよく見比べていただきたいと思います。
――先ほどの振り返りの話の中で、できるだけ早くプロパーの方に経営を担ってほしいとあったが、外部から来られて、民間出身だからできたこと、できなかったこと、なぜプロパーがいいと思ったのか?
まあね、直感的にお分かりだと思うんですよ。常に外からトップが来ている会社のモラルというのはどういうものか。そこには「俺たちなんぼ働いても外から来る」ということではよくならない。私の経験から言ってもね、私が(日本)ユニシスにいた時は、当時ずうっと50年間ずっと落下傘で社長が来ているわけですね。
だから私がいく時に、これからは生え抜きの方にやってもらいますよと言うことまで三井物産の社長に了解を取ってきているわけです。でもまあ、なかなか信用してくれないんですね。「ああ言ってるけど、どうせまたくるよ」って具合で。
けれども実際は、生え抜きの人が2代目になってるわけです。会社としては一段と基礎が固まってきた。NHKくらいの企業になりますとね、当然そういう動きはあってしかるべきだと思いますね。先ほども申し上げたと思うが、勉強してもらって経営を肌で感じられるような人を育てたいという気持ちが非常に強い。
――3年間を自己採点すると何点くらいですか?
さあねえ。僕が今まで何点って答えると、自分でそんなこと言うのかと言われるし、何を期待してそういうこと言ってるんですか?
――功罪両面ある3年間ではないかと思いますけれど、ご自身では精いっぱいやられたのかなというのがにじんだかと思いますが。
まあ、なかなかねえ、難しい問題ですよね。やっぱり原則は、生え抜きの人が会長をするのが一番だと私は思います。これだけの所帯でこれだけ職員がたくさんいればね。
――3年の中で、NHKと政治との関係について、会長の立場で自由な判断ができないということについて、感じたことは?
なかなか、難しいことを聞きますね。政治との距離というのは、我々、やっぱりNHKっていうのは、ある程度政治との……。どう言ったらいいですかね、癒着関係ではないですが、その辺も一つ二つあるわけですよ。そういうことを考えながら、本当にそれがNHKのためになるのであれば、それは聞くことは……。やぶさかではないというかね。
――3年の間に、政治の力、圧力受けることはなかったか?
それはなかったと思いますね。天地神明にかけて、たとえば安倍総理だとかに、放送についてこうしろああしろという指示はまったくありません。
――先ほどの、役職員が「われらのNHK」の意識を持つことが大事という発言は、職員が政府を見ているという問題意識では?
それは違いますね。「われらのNHK」って何だろうってよくよく考えてみると、NHKは政府の言いなりで動いているかと言えば、今までもそんなことなかったし、今後もそういうことはない。
――今日、大変お加減悪そうですが?
破裂しそうですよ。気分が悪い。風邪のようで、昨日からですね。
――今後どういったお仕事につかれるのか?
まあね、僕73でしょ。もうすぐ74。どれだけ生きるかっていったら、ヘタすればあと20年ぐらい生きる可能性だってある。20年間なんもしないでゴルフとね、小唄ばっかりやってるかって言ったらそうもいかないし、もうひとつ何かやってみたいなと思いますね。例えば、書道とか。催事で、字を墨で書くんですよ。なんと下手な字で書くかっていうね。そういうのをやってみたいなと思わないでもないです。
――仕事関係は
ああ、これはまったくわかりません。仕事するかどうかっていうことですか? 僕が今後? それはまったくわかりません。
――仕事はやりたい?
まあ、やりたくないと思わないですね。仕事をやるのは人間として普通だと思いますからね。
――アメリカで商社の社長をやられているので関心があると思うのですが、トランプ氏が次期大統領になります。ご自身と重なるというのは何かお感じになるか。トランプ氏とここが違うんだということがあれば、感想をお聞かせください。
就任式でまあ、新機軸が色々と出てくるんだと思いますが、今は何しろまだ分からないですよね。ほんとに、金利を上げた、そうすると、どうするんだと。アメリカの不法移民がいっぱいあると言うけれども、不法移民があるからこそアメリカの経済が伸びているとも言えなくもないんで。ほんとにその辺は難しいところですね。
メキシコから人が入ってくるからアメリカ人が職に就けないと、そういう部分もあると思います。しかしアメリカの経済をもたしているのはそういう低賃金の不法労働者ですよ。この人たちがいるから、アメリカの産業が間に合っているという風に私は理解しています。
まあトランプさんが色々、ワンマンで自分の考えをいろいろ申し述べられているが、それはそれとして、片っぽではアメリカ大統領という非常に重要な役割があるわけですから、トランプフォーメーションをうまくやられるんじゃないかと思っております。
――何か就任演説にはアドバイスみたいなものは?
僕が? いや、まあ、やめときますよ。しょせんね、言ったってせんなきことですし。すみませんどうも。調子悪くてほんとに。
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