エンタメ
「石原さとみの香り」を現実化! 4D映画、進化とこだわりの制作現場
大ヒット映画「シン・ゴジラ」をめぐり、ある噂がネットを駆け巡りました。座席が動いたり、水しぶきが飛んだりする体感型の「4D上映」を見ると石原さとみさんの登場シーンで「いい香りがする」というのです。実はこの噂がきっかけで、本当に「美女が出たらいい香り」を実現した映画がありました。広まりつつある4D上映の制作現場を取材しました。
オフィスの一室に、映画館と同じ4D上映用のいすが4つ並んでいました。背もたれには「MX4D(R)」の文字。
目の前の大型ディスプレイに巨大ダコが現れ、潜水艦にからみついた瞬間、激しくいすが震えました。まるで自分が潜水艦の中にいるような臨場感です。
見ると、一番奥の席に男性プログラマーが座り、パソコンを操作しています。「プログラマー自身が体感しながら、座席の動きを調整しています。2時間の映画なら、完成までに100回は観ますね」。ダイナモアミューズメントの小川直樹・企画営業部長が言います。
4D映画は米企業が開発した「MX4D」と、韓国企業が開発した「4DX」の2方式が普及しています。ダイナモアミューズメントは、MX4Dの国内販売総代理店であるソニービジネスソリューションから、演出を委託された日本唯一の企業です。
「シン・ゴジラ」や「ONE PIECE FILM GOLD」など邦画作品のMX4D版を演出してきました。
同社は10年以上前から、遊園地向け体感シアターの演出を手がけてきました。ただ、体感シアターの上映は10分程度。座席を揺らし続けても観客は楽しめます。一方で映画は2時間ほどあり、演出には別のノウハウが必要でした。
小川さんは「大事なのはメリハリ。それが最も生きたのがシン・ゴジラだった」と振り返ります。シン・ゴジラは、会議シーンと戦闘シーンが交互に登場します。そこで小川さんたちは配給会社の東宝に、4D上映でも「静と動」を生かすことを提案したといいます。
「会議のシーンは何が起きても、ほぼ座席を動かしませんでした」。その代わり、ゴジラの登場シーンでは、攻撃に合わせ座席を激しく動かしました。ゴジラの周りを自衛隊のヘリが旋回するシーンでは、座席の向きを微妙に変えていくなど、映画のリアルさに負けないよう細部にもこだわりました。
MX4Dはほこりや土のような香りを出したり、ミスト、ストロボ、煙などを使うことも可能です。
ただ、これらは印象に残る分、使いどころが難しいといいます。その中で新たな使い方を生んだのが「石原さとみの香り」の噂でした。
実際には石原さとみのシーンで香りは流していません。しかし、小川さんは「そんなに求められているならと、その後の映画では女性キャラの登場シーンで良い香りを流すことを採用しました」と明かします。
2016年秋に4D上映を始めた「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」では、人気キャラの「ブラック・マジシャン・ガール」が登場した瞬間にローズの香りを流しています。ツイッターなどで一気に情報が広がり、話題を呼びました。
細かいノウハウも蓄積しています。集団の戦闘シーンでは、味方が攻撃されたときだけ座席を揺らします。「敵が攻撃を受けたときも揺らしてしまうと『主観』がぶれて、観客が感情移入できなくなることが分かってきました」。
小川さんは「4D上映の演出は映画の内容をなぞるだけではありません。工夫のしがいがたくさんあるんです」と話します。
こうして地道に演出をつけるには、約1カ月半が必要です。しかし邦画は完成がギリギリの場合が多く、1カ月程度しか時間がないことも多いといいます。
そこで、新たに期待されているのが過去の名作の4D上映です。時間が確保でき、作り込んだ激しい演出も可能。今月20日からは最初の作品として「ルパン三世 カリオストロの城」MX4D版の上映が始まります。
新作映画が数カ月後には家庭で見られるようになった今、映画館は新たな魅力作りを迫られています。MX4Dを導入しているTOHOシネマズの担当者は「4D上映で、映画館でしか体験できない価値を提供していきたい」としています。
1/9枚