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「抑え」大谷、またやる気? 栗山監督「今年だけは、ここだけは」
16日のクライマックスシリーズ・最終ステージ第5戦。3番・指名打者で出場していた大谷翔平投手(22)が、九回に抑え投手としてマウンドに上がりました。自身のプロ野球最高記録を更新する165キロの豪速球を3球投げるなど、ソフトバンク打線を圧倒し、日本シリーズ出場を決めました。抑え・大谷の決断にはどんな理由があったのか。日本シリーズでも同じ起用はあるのか。関係者の証言で探ってみました。(朝日新聞スポーツ部記者・山下弘展)
リリーフ陣の大黒柱、宮西は「あれ?」と思ったそうです。「四回か五回やったかな。点が入ったんで、ロッカールームで翔平と喜んでいたんです。そしたら、厚沢さん(厚沢ベンチコーチ)が来て」
厚沢コーチの記憶はもっと鮮明でした。「(杉谷)拳士のタイムリーで2―4になった後です。四回表。ロッカールームにいた翔平に、もし逆転したら九回にいけるかどうかを聞きに行きました。でも、あいつ、わかってたんです。僕が言う前に、『行きましょうか』って、言ってきた」
試合は、先発の加藤が一回にいきなり4点を失って始まりました。加藤は自ら失策をするなど、明らかに動揺していました。そこで栗山監督は二回からバースを送り出し、試合を立て直そうとします。
大谷は、この投手起用を見て気づいたそうです。抑えのマーティンは痛めている左足首の状態が悪く、ベンチから外れています。「最初から早めに投手を使っていましたし、勝ちパターンになれば終盤、人がいなくなるので、(リリーフが)あるんじゃないかなと思っていました」
栗山監督ら首脳陣には元々、大谷をリリーフで使うプランはありました。ただ、それは最後の第6戦までもつれたときの話です。「そうなればメンドーサ、増井、翔平のリレーでと考えていました」と厚沢コーチ。大谷には2日ほど前に、「最終戦はリリーフ起用があるかも」と、伝えていたそうです。
しかし四回。代打・岡の同点打と中島のスクイズで試合をひっくり返したことで状況が変わりました。「逆転したときに、決めた」と栗山監督。ソフトバンクに再逆転を許して負けると、最終ステージ自体の流れが相手へ傾きます。厚沢コーチは言い切ります。「逆転した時点で、この試合は勝つしかなかった」
厚沢コーチが打診にきてから、大谷は打席の合間をぬってキャッチボールを始めていました。普段、投げるときは試合前にダッシュなど瞬発系の練習をして体に刺激を与えますが、それは打った後のベースランニングで補いました。
打順の巡りにも恵まれました。七回、先頭打者で左飛に倒れたことで、ブルペンで捕手を座らせて投球練習する時間が確保できたのです。もし、八回に打席が回っていたら、投げ込む時間がなく、九回の登板は難しかったでしょう。
準備を終え、大谷がベンチに戻ってきました。栗山監督は視線を感じたそうです。「ずっとこっちを見てんだ。『行けますよ、僕、行きますよ』『チームのために、勝ちましょう』っていう感じで。大谷翔平の野球少年的な心、そこを止めてはいけないと思った」。九回表、球審に投手交代を告げました。
大谷は打者3人に対し、15球を投げました。自己最速の165キロ3球を含め、ストレート計8球の平均球速は164.1キロにもなっりました。151キロのフォークボールもありました。
150キロ台って、普通の投手なら豪速球です。それがフォーク。ガクンと落ちるのです。ソフトバンクのベンチでは、あんぐりと口を開けて大谷の投球を見つめる内川ら打撃陣の姿がありました。
次は、日本シリーズです。試合後、栗山監督に聞いてみました。これで、日本シリーズでもこんな使い方が……。質問を遮るように、監督は語気を強めました。
「二度と、二度とこれは起こらない。今年に関しては、今年のシーズンの勝ち方、今置かれている状況を考えたら、今年だけは、ここだけは抜けなきゃいけないと俺は思った。二度とこういう使い方は、来年もしない」
でも、監督、策士だからなぁ……。
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