お金と仕事
金がない! 極貧の女性アーティストが売った「自分を差し出す」権利
アーティストのオーマ(Ouma)こと小俣知子さんは元獣医師で、2011年に獣医師を辞めアーティストとして活動しています。3月までのバルセロナに滞在中、お金がなくなり空腹でピンチに。そんな時、売り出したのが「自分を差し出す」権利です。「肉をOumaさんに食べさせる権利、2千円」「Oumaが海辺から絶叫するサービス、千円」。知恵と愛嬌で苦境を乗り切ったOumaさんは「人生、知恵を絞ればなんとかなる」と話しています。
Oumaさんがモチーフにするのは生命の最小単位である「細胞」です。「それ自体が1つの生命である細胞。それが37兆個ほど集まると、1人のヒトという生命になります」
今、取り組んでいるのは「SORA(空)」というプロジェクトです。うっすらと下絵が描かれたA4サイズの紙に、自由にぬり絵をしてもらい、できた絵をつなげると、下絵の線がつながって、1つの巨大な作品となります。「人種や国籍、言語、性別、身体的特徴、職業、年齢など、すべての背景を超えて、人の心に触れるものがつくれるんじゃないか」という思いで、小俣さんはSORAプロジェクトを2013年に始めました。
これまで、大人や子ども、重い障害のある人、入院中の子、タイの高校生たちが描いてきました。現在約400枚、幅11メートル29センチ、高さ2メートル10センチまで大きくなっているそうです。2016年2月にはSORAは、静岡のグランシップアートコンペ奨励賞も受賞しました。
そんなOumaさんは、海外でも積極的に活動をしています。3月末まではバルセロナで、4月にはロシア・サンクトペテルブルグ、5月にはドイツ・ホーエンシュタイン、2017年1月にはフィンランドに滞在する予定です。
ただ、海外で大変なのは資金だそうです。バルセロナでは、おなかがすいて一計を案じます。Oumaさんに○○をさせる権利を売ったのです。
肉をOumaさんに食べさせる権利、2千円。カフェに行かせる権利、千円。ウサギのお肉を食べさせる権利、3千円。バルセロナの海辺から絶叫するサービス、千円。
ものを売り買いできるサイトを使って、始めてみると計約7万円も売れました。友人や知人がおもしろがって買ってくれることが多かったといいます。
「カフェが4枚一気に売れたときは、一日に何度もカフェに行かなくてはならず大変でした。制作もしなきゃいけないし、胃がたっぷたっぷになったり。でも、お肉も食べられ栄養がつけられたので助かりました」とOumaさん。
Oumaさんは、「権利」チケットが売れるたびに、権利者にブログやSNSで報告していました。
知恵と愛嬌で乗り切ってきた海外アート制作生活。3月27日に開かれた帰国の報告会には約10人が集まりました。
「絶叫サービス」を買った男性は「奥さんに許してもらってこの権利だったらいいよと言われて、買いました。報告されたビデオを見ると、Oumaさんは風邪だったのに、かわいく息を飲みながら叫んでいました。それを見ると、バルセロナを一緒に旅している気分になれるのもよかったです」と話していました。
友人のゲームデザイナーの中村きりんさん(40)は「やりたいことを素直にいうから嫌みがない。自分の生活を差し出しているので信頼できるし、共感してもらいやすいのでしょうね」と話していました。
トラブルに巻き込まれず「自分を差し出す」権利を売るコツは?Oumaさんは「本心か本心でないかは、すぐにわかっちゃうので、自分が食べたいのだ、相手に何もメリットはないのだ、と素直に言いました。正直なのが良かったのだと思います」とアドバイスします。
成功した理由については「肉を食べてこいなど、命じたことをドラクエの主人公のように、おとなしくしたがって実行してくる。そんな、リアルゲームをはたから見ている楽しさがあるようです。そうやって関わることで、訪れていないバルセロナがより楽しく感じてもらえたみたいです」と振り返ります。
意表を突くアイデアで極貧生活を乗り切ってきたOumaさん。「SORA」プロジェクトは今もウガンダや横浜など国内外で続いています。今、取り組んでいるのは、これまでに集まった約420枚の絵を、スリランカの孤児院に運んで、子どもたちにも描いてもらい、さらに大きな作品にしようというもの。
Oumaさんは「世界に出ると、世界遺産が9個もある街中で制作できたり、思わぬ人に出会えたり。世界が広がりますよ」と話しています。
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【訂正】「ダリのコレクターがオープニングに来てくれたり。世界が広がりますよ」は、「思わぬ人に出会えたり、世界が広がりますよ」の間違いでした。ダリのコレクターが来ていたかどうかは不明です。配信後に修正しました。
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