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連載

#94 「きょうも回してる?」

「楽器のガチャ、売れるのか?」不安は杞憂に…調律の壁超え、再販も

カリンバ奏者とタッグ

「指で弾くピアノ カリンバ」の「お花のカリンバ」
「指で弾くピアノ カリンバ」の「お花のカリンバ」

目次

ガチャガチャを回してカプセルから出てきたのは、木や貝殻、花や星のかたちをした、手のひらサイズの楽器でした。これは指で弾くピアノ「カリンバ」です。ただのミニチュアかと思いきや、実際に音が鳴る本物の楽器として作られています。「体験型アイテム」として爆発的な人気を集めたガチャガチャの、製作の裏側を聞きました。

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ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」

アフリカ発祥の「親指ピアノ」

カリンバは、アフリカ発祥の「親指ピアノ」とも呼ばれる楽器で、鍵を弾くとやさしい音色が響きます。近年ではSNSやYouTubeでの人気も高く、癒し系の楽器として注目されています。ただ、カリンバは私の感覚では日本ではまだ馴染みが薄く、ガチャガチャとしても前例がありません。

「今までにない面白い商品を作り、売り場で差別化をはかりたい」――。

この商品を企画・販売したのは、自社ブランドではない製品を製造する「OEM製品」の開発で知られるHMA(エイチエムエー)です。このコラムでは、HMAのガチャガチャ「ha | za | ma ヒールパンプスコレクション」を紹介したことがあります。

HMAは、玩具の製造には豊富な経験を持つ企業ですが、「音が鳴る楽器」として成立させるガチャガチャを手がけるのは、これが初めての試みでした。

担当者によると、企画の初期段階からさまざまな課題があったそうです。最初に直面したのは、「どうやってチューニング(調律)をするか」という問題でした。

カリンバはただの置き物ではなく“楽器”です。音階が正しくなければ、意味がない。けれど、大量生産のラインで1個ずつ音を合わせるのは、現実的ではありません。

QRコード入れ、動画で調律方法を紹介

そこで担当者は、YouTubeなどで活躍するカリンバ奏者・鈴蘭小道さん(鈴蘭小道さんのYouTubeチャンネル)とタッグを組み、「調律方法を動画で紹介し、QRコードをカプセルに入れる」という仕組みで対応しました。

購入者が自分の手で調律することで、初めてでも演奏を楽しめるように工夫されたこの仕掛けは、「ただのガチャガチャ」で終わらせない、大きな一歩となりました。

さらに商品の開発過程も興味深いものとなっています。

「まずは曲を選定し、それに合うアクリルのデザインを決めました」(担当者)とのことで、星の形のカリンバには「きらきら星」、花の形には「アマリリス」、貝殻には「聖者の行進」、木の形には「大きな栗の木で」の楽譜が同封されています。デザインと楽譜が連動しています。

このカリンバは、直径65㎜程度の手のひらサイズで、8音で弾けます。

担当者は初めてサンプルを手に取ったとき、「素直に可愛いと感じましたが、一人でこのカリンバを弾いている姿を想像したらシュールですよね」(担当者)。確かに夜一人でこのカリンバを弾いている自分の姿を想像したら笑ってしまいます。

4種類の「指で弾くピアノ カリンバ」
4種類の「指で弾くピアノ カリンバ」

SNS投稿「起きたらえらいことに」

販売は2024年3月にスタート。HMAの公式SNSアカウントで軽く告知をしたら通知が鳴り止まない事態に。

「本当にびっくりしたんです。X(旧Twitter)で投稿してから寝て、起きたらえらいことになって。今までうちで出したオリジナル商品でこんな反応を見たことがなかった」

そのポストは97万インプレッション、1.7万いいねを獲得。コメント欄には、「実際に音が鳴る!」「見た目もかわいい」「楽譜付きなのが嬉しい」などといった声がありました。

担当者は、最初からここまでの反響を予想していたわけではなかったそうです。むしろ、「楽器というニッチなジャンルの商品がガチャガチャで本当に売れるのか?」という不安の方が大きかったのですが、これは完全に杞憂となりました。店頭では再販を求める声が殺到し、HMAの問い合わせ窓口にも届いたそうです。

その熱量に応える形で、8月に再販が決定。その際も大きな盛り上がりを見せました。

YouTubeでカリンバ演奏動画を上げているMisaさんが、このカリンバを弾いている動画をXで投稿したところ、インプレッション429万、8.1万いいねを記録するほどの反響になりました。

今回のカリンバは、単なるフィギュアやアクセサリーではありません。「実際に弾ける」「学べる」「演奏できる」という体験が詰まったガチャガチャです。

ガチャガチャという枠を超えた新しい価値を生み出した点で、多くの人にとって“体験型アイテム”として記憶に残る存在になったのではないでしょうか。

ガチャガチャは「自分で楽しむ道具」に

今後は、ガチャガチャの売り場でカリンバ奏者による演奏イベントなどのリアルイベントも構想されており、担当者は「イベントを開催することで、売り場の集客に繋がれば、売り場の人やお客様も喜びますよね」と話します。ガチャガチャから広がるコミュニケーションの形が変わりつつあることを感じさせます。

たかがガチャガチャ、されどガチャガチャ。担当者はカリンバの販売を通じて「今回、本当にたくさんの人がガチャガチャというものに、こんなにも思い入れを持ってくれていることに驚きました」と語っていました。

カプセルの中に入っているのは、たった数センチの小さな楽器です。しかしその中には、演奏の喜び、創造の楽しさ、SNSを通じたつながり、そして日常に寄り添う癒しの音色が、しっかりと詰め込まれています。ガチャガチャがただの“おまけ”ではなく、「自分で楽しむ道具」になりつつある時代。

「指で弾くピアノ カリンバ」は、その最前線で、今日も静かに美しい音を奏でています。

     ◇
「指で弾くピアノ カリンバ」は、星のカリンバ、貝殻のカリンバ、お花のカリンバ、木のカリンバの4種類。1回400円。

この連載は、20年以上業界を取材しトレンドをチェックしているおまつさんが注目するガチャガチャを紹介していきます。

     ◇
ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。
ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」

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