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〝旅人育成〟サービスがある理由 「行きたいけど不安」をサポート
「旅をあきらめさせない」

ひとりで海外を旅してみたいけど、不安。そんな人に向けた「旅人育成プログラム」が存在します。旅と言えば失敗しながら学んでいくというイメージもある中で、なぜこうしたサービスが生まれたのか。その目的は、行きたくても不安で立ち止まってしまう人に旅をあきらめさせないことでした。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
サービスの名前は「タビイク」。
「旅は人を育てる」という言葉からインスピレーションを受けたほか、「旅人を育てる」「旅に行く」の意味も込められています。
ホームページを見てみると、インドやタイ、カンボジアなどへのプランがずらりと並んでいます。
タビイクは、石田拓人さん(33)が代表を務める会社「Backpackers Production」が企画・運営し、旅行業としての法的業務などはTRAPOL株式会社が担っています。
石田さんに、設立の経緯やプランの内容について聞きました。
富山県出身の石田さんは大阪の大学へ進学。高校時代までは、続けていた水泳や受験勉強など目の前に常に目標がある環境でした。
しかし大学に入ると、「何かやりたいけど、何をしたらいいのか分からない」状態に。
それを知った先輩が経営者の講演会に連れて行ってくれたとき、耳にしたのが「若者は海外へ出ろ」という言葉でした。
「他の内容は覚えてないけど、その言葉だけ自分に響きました」
春休みには、友人と2人で初めての海外経験となるタイの旅へ。しかし、食事を決めるだけでも、2人で話し合っていると時間がかかってしまいました。
「一緒じゃ楽しめないから別行動にしよう。帰りの飛行機でまた会おう」。そう提案し、石田さんはひとりで行動し始めました。
ひとりだからこそ、人に話しかけられることも、人に話しかけることも多くありました。
旅先での出会いを通じてこの世に「バックパッカー」という旅人がいることを知りました。
「きのうはカンボジアに行ってきて、明日はラオスに行く」。そんな風に話す旅人に刺激を受け、自分もその足でラオスへ行ってみました。
「国境ってこんなに簡単に越えられるんだ…」
タイに行くまでは海外への恐怖心があった石田さん。しかしこの旅で、海外ひとり旅の魅力を知りました。
それと同時に思ったのは「自分と同じように、『行きたいけどこわい』と感じている人が多いのではないか」ということ。
2011年、2年生の秋にタビイクが始動しました。
プログラムの長さは1週間前後。
現地の空港でタビイクの引率スタッフや他の参加者と合流し、話し合って旅程を決め、行動していきます。
最終日は現地で解散。そこから先は参加者が自分の判断で旅を続けたり帰国したりします。
参加費は、7日間のインドプランで84000円。航空券代や滞在費は含まれていません。
出発前の準備などを学べるオンライン講座や、いつでも相談できるLINEサポート、参加者だけが加入できる旅人コミュニティの会員費などが含まれています。
これまで500回以上のプランを展開し、5,900人以上が利用してきたそうです。
現在は参加者を30歳以下に限定していて、7割が大学生。
しかし、近年は学生時代がコロナ禍で海外に行けなかったという社会人の参加も多いそうです。
女性の割合が多いのも特徴で、今シーズンの参加者の7割ほどが女性なのだそうです。
「たくさんの若者を見てきて思うのは、こういう風変わりな企画に参加するような肝がすわっている人には女性の方が多いですね」
旅は、失敗も含めて経験しながら成長していくもの。
では、なぜタビイクが必要なのでしょうか。
石田さんは「あくまで僕たちの目的は『旅に行きたいけど不安であきらめそうな人に手をさしのべ、旅をあきらめさせないこと』なんです」と言います。
ひとりでも旅ができる人や、そもそも旅に興味がない人ではなく、旅に行きたいけど不安を感じている人にきっかけを与えることを目指しているそうです。
「旅人は“小さな外交官”だと思うんです」。
石田さんはそう話します。
「旅先での出会いを通して世界中に大切な人ができれば、『他人事』が減って『自分事』が増える。遠い国のニュースでも『あの人は大丈夫かな』って心配になる」
「大切な人が増えることで、『友だちの国と戦争したくない』と思える相手も増えていく。そうなれば、世界はもっと平和に近づく。そのために、旅人を育て、増やしていきたいんです」
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