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発達障がいの息子、振り回される娘…我が子をドラマ化 脚本家の葛藤
「怖さもあるが…」

脚本家として活躍する夫と、夫のために事務所を設立し社長を務める妻が、イライラしがちな長女と発達障がいの長男に翻弄されるーー。ABCテレビで放送中の『こんばんは、朝山家です。』は、脚本家・足立紳さん一家の日常を描くホームドラマです。ネット上で多様な反応が飛び交う時代、我が子を作品に描くことにどんな思いがあったのでしょうか。足立夫妻に率直な心境を伺いました。
エッセイやドキュメンタリーで、作家や監督が自身の家族を描く作品は珍しくありません。SNSの普及にともない、実名・匿名問わず家族の話を発信するケースが増えています。
足立紳さん・晃子さん夫妻が2020年から5年間続けたwebサイトの連載日記にも、反抗期の長女や発達障がいの長男のエピソードが描かれています。この日記が、ドラマ『こんばんは、朝山家です。』の原案になりました。
日記では、紳さんが妻・晃子さんや子どもたちの様子にも触れながら日常をつづっています。挿絵は晃子さんが担当。日記には時折「妻より」として晃子さんのツッコミも書かれています。
親が子どもを描く場合、のちに親子関係の悪化やトラブルにつながるケースもあります。SNSで簡単に考えを発信できるため、作品に描かれてきた側が「実は嫌だった」と声を上げることも考えられます。
だからこそ足立夫妻は、「子どもには『この話書くけど、いい?』とちゃんと聞こう」と決めました。
一方で紳さんは「娘に『読んでみて』とお願いしましたが『興味ない』と言われてしまったので、許可を得ていたのかというと……」と難しさも語ります。
「子どもたちが傷つかないように気をつけてはいますが、結局我々で作っているので正直わからないところはあります」
それでも発信するのは、リアルな親子模様を描く作品に共感したり、救われたりする読者や視聴者がいるからです。
特に、発達障がいがある長男と家族のやりとりや、療育施設や塾などで支えてくれる人たちとの関係は、当事者だからこそ伝えられる生々しさがあります。
足立夫妻には「発達障がいは珍しいことではないと知ってもらいたい」という思いもありました。
紳さんは「映画やドラマでは、発達障がいのある人が何か秀でた能力を持っているギフテッドな面が描かれることが多い気がします」と話します。
「ですが、特に何も秀でたものを持っていない人のほうがきっと多いと思いますし、発達障がいなどをテーマにしていなくても、日常の中に普通にいる作品にできないかと思いました」
「楽観的かも知れませんが、『発達障がいがある』ということが、例えば『僕は左利きです』みたいに、数は少ないけど誰も珍しがらない世の中になるといいなと思っています。そうすればもっと理解が広がると思います」
足立夫妻はドラマのなかで、発達障がいのある家族やパートナーに振り回された人が心身に不調をきたす「カサンドラ症候群」の様子も表現しました。
「発達障がいがある子のきょうだいや家族が抱えるつらさや苦しみもあります。ドラマでは姉が弟にひどい言葉をぶつけるシーンもありますが、それは否定的に描いているのではなく、当事者も周りも両方に苦しみがあるということを描きたいと思いました」
「ただ……」と紳さんはいいます。「やっぱり『息子をネタにしている』と言う人もたくさんいると思うんですよ」
「発達障がいについてみんなあまりにも知らなさすぎて、『面倒くさい人』『残念な人』と片付けてしまっている。そうならないでほしいと思って作っていますが、『息子をネタにしている』と言われたら返す言葉はありません」と語ります。
「もしかしたら息子が成長したときに何か言ってくるかもしれないという怖さもあります。これは覚悟ができるものでもないし、その覚悟が必要なのかもわかりません」
足立夫妻が長女と長男と一緒にドラマを見たのは、7月の放送開始前。夫妻は子どもたちがどんな反応をするか緊張していましたが、ふたりとも「すごく面白い」と言ってケタケタ笑っていたといいます。
「ネタにしているけど私たちは真剣にこの作品を作っているんだよ、とちゃんと伝えたくて撮影現場にも子どもたちを何回か連れていきました」と晃子さんは話します。
自分たちの日常が描かれることについて筆者が長女にインタビューすると、「面白ければいいなと思っていました」と話し、長男は「なんの感情もない」とはにかみながら答えてくれました。
長男が「発達障がいかもしれない」と気づいてから数年、足立夫妻は専門書や当事者の手記などを読み、専門機関のカウンセリングを受けるなどしてきました。
しかし、家族であっても「想像以上にわかり合えない場面がある」と痛感しているといいます。
晃子さんは、「子育ては本当に試行錯誤で……。でも、多分これからもずっと試行錯誤を続けていく気がします。子どもたちが30代40代になったらまた別の問題が出てくると思うんですけど、そのつど私たちは慌てふためいてパニックになりながら対応するような気がします」と笑います。
紳さんは、「僕は療育の先生のような寄り添い方は多分できないけど、自分たちがモデルになっているドラマを作ったり、一緒に見たりすることはできる。何をするのがいいのかわかりませんが、それも一つの関わり方なのかなと思っています」と話していました。
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