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「あなたの選択肢は世界」インターナショナルスクールへの期待と悩み
両親が日本人で、日本国内で育つ子どもを、インターナショナルスクールに通わせる親が増えています。もともとは駐在する外国人の受け皿だった「インター校」は増え続け、初・中・高等部合わせて100校を超えます。少子化のいまも毎年1~2校新設されています。なぜ日本でインター校を進学先に選ぶのか、現役で通う親子に話を聞くと、「英語の習得」だけではない令和ならではの事情が見えてきました。
都内のインド系インターナショナルスクールに通うスミレさん(8歳、仮名)は、1クラス20人ほどの教室で、日本人、インドやミャンマー、セネガルなど多国籍の子どもたちとともに、英語で学んでいます。
毎朝、日本国歌とともにヒンディー語のインド国歌を歌い、第2外国語でフランス語を習います。海外の大学進学も視野に入れた国際的な教育プログラムで、最近は自分の興味を深掘りして、レゴで「火星探査機」を自作しプレゼンをしたそうです。
スミレさんに将来の夢を聞くと「たくさんあるよ! 先生、エンジニア、アメリカ大統領、学童の先生、ハーバードにも行きたい」。
母で会社員のマリコさん(40、仮名)は、そんな娘を笑顔で見つめます。
母マリコさんの留学のため、スミレさんは公立保育園の年長だった夏から1年間、アメリカに滞在しました。アメリカでは9月から小学生として扱われる年齢だったため、地元の公立小に通いました。それまで英語に触れるのは幼児向けのアニメを英語音声で見る程度でしたが、人見知りをしない性格で、みるみる英語を習得し、クラスになじんだそうです。
先生はスペルミスがあっても、それを細かく注意するよりは、どんどん書かせるという方針。自ら気になることを調べて発表する授業も性に合ったのか、スミレさんは小学校をとても楽しんでいたそうです。
日本語を忘れ始めていたこともあり、スミレさんとも相談し、帰国後はインターに行くことを決めました。
一方で、マリコさんが心配したのは、日本語やアジア的な価値観がおざなりになってしまうことでした。
インド系の学校でアジアの価値観にも触れてほしい。放課後は、地元の放課後児童クラブで日本の友達と過ごし、学習塾では国語を習って日本語の本も読めるようになりました。「将来、どこに行っても、アジア人として誇りを持ってほしい」とマリコさんは期待します。
自営業のリカさん(36歳、仮名)は、9歳の長女を横浜の歴史あるインターに通わせ、5歳の長男も同校に入学する予定です。
日本の認可保育園に通っていた長女は2歳で「より教育的な要素を採り入れたい」と英語のプリスクールに通わせました。年中になると、周囲の保護者が話題にするのは、小学校受験するかインターに進学するか、ということ。
リカさん自身は地方出身で、小中高と公立校だったため、当初は公立校に行かせるつもりでした。リカさんは親の「これからの時代は英語を」という方針で、小学校から英語を習い、高校で1年間アメリカに留学するなど英語力を磨いたおかげで、日本で就職して行き詰まった時、外資系企業へ転職し、道を開けた経験がありました。
「子どもたちが大人になったときはさらに国際化が進んでいるはず。言語をバリアにせず、『あなたの選択肢は世界』と言ってあげたい」
公立校も見学しましたが、中学受験に向けて夜遅くまで塾に通う子どもたちを見ると、「今後も受験の心配をせずに過ごしてほしい」という気持ちが強まり、国際色豊かで高等部まであるインターを進学先に選んだそうです。
しかし学費はかさみます。長女と長男の学費となると年間600万円。年々値上がりしていると感じ、最近は「多様で質の高い教育は日本でなくても受けられる」と考えて、欧州への移住を検討し始めているそうです。
日本ではもともと、戦前から外国人の「民族学校」があり、戦後にインターナショナルという多国籍な考えに基づく学校が増えていきました。日本人に広く知られたのは、1990年代後半に宇多田ヒカルさんがデビューした時。「日本人でもインターナショナルスクールに通える」と知られ、「進学先」として選択肢に入れる人が増えたといいます。
現在、インターナショナルスクールは小中高合わせて108校あり、3万人(うち日本人は2万人)が通っています。保育・幼稚部ではさらに増えて全国で800園あり、5万人が通っています。
国際教育ジャーナリストの村田学さんは「英語ができる幼児が増えていることで、インターに行きたいという需要は伸びていく」と注目します。
これまで国内での進学先が狭まると懸念されていましたが、最近では国が、国内の大学に対して、国際的に通用する大学入学資格を与える教育プログラムの「国際バカロレア」などを活用した入学者選抜を推進しており、インター生にとっても国内の進学の門戸は格段に広がっています。
世界規模でインターに優秀な教師を集めるため競争が激化しており、円安の日本でも寮費を含めて年間1000万円かかる学校が現れるなど、全体として学費は値上がりしていますが、それでも「小学校からの塾通いで受験戦争を勝ち抜き有名大学」という既存の学歴の「うかいルート」としてインターを選ぶ人もいるといいます。
しかし、村田さんは「インターを出て英語ができても、社会で活躍できる、というわけではない」と、安易な選択には懸念も示します。インターからアメリカの大学に進学して日本社会との差にショックを受けてしまう人や、日本で就職して挫折する人も見てきたからです。
「この選択が良かったのか、常に悩んでいます」。そう話す神奈川県在住のマキコさん(46歳)は、今年、長男を自宅から1時間半以上かかる都内のインド系インター校に入れ、学校近くに母子で部屋を借りて週末は自宅に戻る、という生活を始めました。そうしてまでも通わせたい理由がありました。
算数が得意な長男でしたが、発達障害の傾向があるとして幼少期から療育を受けていました。マキコさんは地方の小学校でいじめにあい通えなくなった経験があり、「日本の学校だと人と違う、苦手な部分ばかりが注目されてしまう」と感じていました。小学校受験に失敗し、その思いは強まりました。
「多国籍の中なら、人とはちょっと変わっている息子も受け入れてもらえるかも」。長男が好きな算数に力を入れているインター校は、「勉強ができているなら問題ない」と言ってくれているそうです。
しかし、インターを選択したことが、今後の長男の成長や進学にとって吉と出るかは、まだ分かりません。インターは文科省の管轄ではないため、小学校の卒業資格もなく、授業も日本とは違う各校独自のやり方で教えます。そのため、中学受験に向けて小4ぐらいで日本の学校に転校して対策を始める、という人もいると聞きました。「得るものもあれば、失うものも多かったのかな」と考えています。
でも、マキコさんは「もしも、この先、日本の学校や会社や社会が合わなかったとしても、英語ができて何か特技があれば、世界のどこかにきっと息子が輝ける場所があるかもしれない」と希望をつないでいます。
※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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