連載
#6 はたらく年末年始
餅つき「楽しかった」けど寂しさも… 外国人ヘルパーが見た年末年始
「いまは近藤さんと予定があるので、大丈夫です」
生活のサポートが必要な人のくらしを支える「ヘルパー」。年末年始もその仕事に従事する人たちがいます。バングラデシュから来日し、自動車整備の勉強をしつつ、重い障害のある人のヘルパーをする男性が、日本で過ごした年末年始に感じたことは……。
3年前、日本語や自動車整備の勉強をするために来日したアリ・MD・ヤクブさん(23)は、生活費や学費を得るため、名古屋市でヘルパーの仕事をしています。
当初は医療機関やコンビニでのアルバイトをしていました。友人からヘルパーの仕事を紹介され、「人のお世話をするのが好き」という思いから、重度訪問介護従業者の資格を取得。2022年春からは、重い障害のある近藤佑次さんの自宅を訪れ、ヘルパーの仕事をしています。
24時間の介護が必要な近藤さん宅ではヘルパーは交代制で、ヤクブさんは現在、週1日、夜勤の時間帯に働いています。
現在、自動車整備を学ぶために通っている短期大学での授業が終わった夕方、ヤクブさんは自宅から自転車と電車を乗り継ぎ2時間ほどかけて近藤さん宅にたどり着きます。人工肛門を造設している近藤さんの「パウチ」をチェックしたり、食事の介助をしたり。近藤さんの呼び出しに対応しながら、すき間時間に勉強をしつつ朝まで待機します。
近藤さんは、ヘルパーの仕事内容やサポートが必要な自身の生活を知ってもらおうと、ヘルパーと自身の生活をユーモラスにショート動画などで発信していて、ヤクブさんも登場します。その動画撮影を夜勤の時間帯にすることも。「楽しい」と話すヤクブさんは「最初はやり方がわからなくて大変だったけどいまは好き」と顔をほころばせます。
2022年の末から2023年の年始にかけて、ヤクブさんは複数回、日勤に入りました。
特に印象的だったのは、12月30日のこと。
普段通り、近藤さんの入浴や着衣の介助をして、この日は近藤さん宅近くのお寺に向かいました。
そこで「めちゃくちゃおもしろかった」と、目をキラキラさせながら振り返るのが、餅つきです。
ヤクブさんが餅つきの風景を見たのはこの日が初めてでした。
「自分でも餅つきをしたけど、ハンマーみたいなものを使いました」と、「杵」に驚いた様子。「たくさんの人がいてびっくりしたし、ハンマーみたいなのをやる人とひっくり返す人がいて、こわかった」と笑います。
そこで食べたお餅は「すごくおいしかった」。
楽しかった思い出の反面で「ちょっと寂しかった」とも語ります。
バングラデシュの暦で年末にあたる時期には、お祭りがあったり、買い物をしたりして、多くの人は家族と過ごすそう。
バングラデシュでは多くがイスラム教徒ですが、ヒンドゥー教や仏教などを信仰する人もいます。とはいえ、ヤクブさんいわく「このときは宗教は関係ない。みんな同じバングラデシュ人であるという心をもって、同じことをします」。
母国で温かな年末年始を過ごしてきたヤクブさんにとっては、お寺での餅つきが楽しかった一方、家族と離ればなれの寂しさも感じたようです。
「たくさんの人が集まっていて、家族と一緒に来ている人もいました。でも私はそれができないので、家族や友だちのことを思い出しました」
そこから1年が経ち、ヤクブさんは「いまは慣れました。(年末年始にも)近藤さんと一緒に色んな予定があるので、大丈夫です」とニコニコと話します。
来日してすぐの頃は日本語学校に通っていたヤクブさんですが、「(日本語学校で)日本の文化を教えてもらいましたが、わかりませんでした」。
しかしその後、近藤さんのヘルパーとして日本文化の中で働く中でで知ることがたくさんあったそう。
例えば、バングラデシュでは、複数で食事をしたときには持ち回りで食事代を負担することが普通でも、日本では個々人で払うことが多いこと。自宅で暮らしていても近所の迷惑になるような音を出さないようにすること――。
「近藤さんと色んなところに出かけられるのもよかったと思っています」
そんなヤクブさんは、短期大学を卒業したら日本の会社で働くのが目標だといいます。
日本とバングラデシュの間で、車の部品の流通事業を立ち上げ、「日本で働いている間にたくさんの人に会って、ビジネスを進めたい」と夢を語ってくれました。
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