連載
#14 ナカムラクニオの美術放浪記
自然に宿る「神(カムイ)」を敬う 北海道で感じたアイヌ文化の魅力
ナカムラクニオの美術放浪記
ひさしぶりに北海道を一周してきた。テレビの仕事で旅番組を担当していた頃は、年に何度も取材に訪れていたので、どの街に行っても思い出が蘇る。
北海道には「セイコーマート」という素晴らしいコンビニエンスストアがあるので、車の旅でも困ることがない。おにぎりが、とにかく美味しいのだ。まだ行ったことがない人は、とりあえず「セイコーマート」に立ち寄ってほしい。
北海道は、大自然が生んだ絶景だけでなく、伝統文化と手仕事が魅力的だ。
まずは新千歳空港でレンタカーを借りて、2020年に誕生した新名所の「ウポポイ」へ向かった。
「ウポポイ(民族共生象徴空間)」は、白老町にあるアイヌ文化をテーマとしたナショナルセンター。アイヌ文化復興のための拠点だ。
「ウポポイ」とは、アイヌ語で「(大勢で)歌うこと」を意味している。
エントランスを抜けると、森に囲まれたポロト湖が見えてきた。神聖な湖の佇まいが残されている。
アイヌの伝統楽器「ムックリ(竹製の口琴)」の演奏で迎えてくれ、展示室には独特の刺繍などがずらりと並び、壮観だ。
北海道が舞台になった漫画『ゴールデンカムイ』(作:野田サトル)の人気もあって、会場はとても賑っていた。
続いて、登別まで移動し、「知里幸恵 銀のしずく記念館」に立ち寄った。
知里幸恵は、アイヌの文化を伝える口承文学を記録し、ユーカラ(英雄叙事詩)を『アイヌ神謡集』としてまとめた女性だ。アイヌの物語を初めてローマ字によって文字化したことで知られている。
言語学者である金田一京助の支援で翻訳作業を続けたが、『アイヌ神謡集』が完成した日の夜、心臓発作のため19歳で亡くなっていたのが驚きだった。
フクロウのカムイ(神)の物語にある「銀の滴降る降るまはりに、金の滴降る降るまはりに」という一節の透明感が強く印象に残った。
続いて、日高地方の平取町(びらとりちょう)にある集落、二風谷(にぶたに)コタンへ向かった。
二風谷は、人口の過半数をアイヌが占めており、北海道内でアイヌ住民の比率が最も高い地域と言われている。コタンとは、アイヌの「集落」のことだ。
ここでアトリエ「北の工房つとむ」の貝澤徹さんを訪ね、伝統的な「マキリ(短刀)」「イタ(お盆)」を見せて頂いた。
貝澤さんといえばアイヌ木彫の名工だが、伝統的なものだけでなく、かなり自由な創作の木彫を作っているのが印象的だった。作風はシュルレアリスムの影響も受けていた。
アイヌ文様は、モレウ(渦巻き文様)、アイウシ(棘文様)、シク(菱形文様)を組み合わせ線で結んでいく。
どこかアイルランドのケルト文様にも似ている。自然を信仰し、輪廻転成の思想を持つと、必然的に表現する文様が似てくるのかもしれない。
実は、北海道で最も印象に残った場所は「萱野茂二風谷アイヌ資料館」だった。
萱野茂さんといえば、アイヌ初の国会議員となった方。資料館には萱野さんが40年にわたって収集した作品がずらりと並んでおり、驚かされる。
一見すると、個人のコレクションを集めた小さな資料館という感じだが、内容がとにかく充実している。
アイヌ民族関係の所蔵品だけではなく、世界各地の先住民族、少数民族の工芸資料が数多く陳列されていた。
現在は、二代目館長の萱野志朗さんが運営しているが、展示している資料を丁寧に解説してくれた。
隣には孫の萱野公裕さんが運営する「ゲストハウス二風谷ヤント(アイヌ語で宿の意味)」という素敵な宿もあった。
北海道は山や湖などを巡るのもいいが、ぜひ二風谷を訪ねてみてほしい。自然こそ「神(カムイ)」が宿るものとして敬ったアイヌ文化を体感すれば、きっと現代人が忘れてしまった大切な何かを発見できると思う。
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