IT・科学
「やせたら付き合う」と言われ…摂食障害に苦しんだ過去から思うこと
食べても食べても「心がすいていた」 吉野なおさん
プラスサイズモデルとして活躍する吉野なおさんは、ふつうに食べられない摂食障害に悩んでいた過去があります。当時は「やせて自信をつけなきゃ」と考え、「自分なんてどうせ…」とネガティブに考えていたと振り返ります。「見た目」に悩む人たちに心地よく生きるためのヒントを見つけてほしいと、ティーン向けに執筆した本に込めた思いを聞きました。(withnews編集部・水野梓)
プラスサイズモデルとして活動し、摂食障害に悩んだ自身の体験もコラムなどで発信しているなおさん。
10代の頃、気になっていた彼から「やせたら付き合う」と言われ、ストイックな食生活とハードな運動を続け、数十キロも体重を落としました。
周囲は「かわいい」「やせたね」と褒めてくれて、それまでのぽっちゃりした体型をからかってきた人たちを見返せるような達成感・優越感があったといいます。
それでも、まだ自分の体が太っているように感じ、付き合い始めた彼氏からも「あと3キロ落として」などと言われて終わりがありませんでした。彼と一緒の食事では「サラダしか食べちゃだめ」と制限されるなど、精神的に傷つけられるモラル・ハラスメント状態でした。
でも、当時は自信がなく、「この人と別れたら、ほかに付き合ってくれる人なんていない」と思い込んでいたというなおさん。どんどん食事量を減らして、固形物を食べることさえ怖くなったといいます。
YouTubeなどでも、体型コンプレックスをあおる広告では「太っている」という理由でパートナーに振られ、「やせて見返してやる!」と思い立つというダイエットサプリのストーリーがよく見られます。
なおさんは「一時的な食べ過ぎを心配してくれる、といったケースなら分かりますが、『やせろ』『また太った?』など、体型に言及してくる相手とはサヨナラした方がいいと今では思います」と話します。
でも、「高校生の頃から『ダイエットが続かないのは、自分の意志が弱いからだ』と考えてしまってたんです。だから、彼氏に厳しくされればダイエットがうまくいくとも思ってしまっていました」。
しかし、モラハラ彼氏と別れたあと、「そのままでいいよ」と理解してくれた彼氏に出会っても、「やせないと愛されない」と考え、「太ってしまうから優しくしないでほしい」とさえ感じていたといいます。
当時のなおさんは、出来事をネガティブにとらえる「自分なんてどうせメガネ」をかけていたと振り返ります。
過酷なダイエットの「絶食状態」だったなおさん。仕事のストレスから、糸がぷつんと切れたように、一気に食べてしまう「過食」へ転じます。我慢していた甘い物やジャンクフードを詰め込みました。
食べても食べても満たされない、何かを埋めたい――。「お腹がすいていたのではなく、心がすいていたんだと思います」と言います。
回復していくきっかけになったのは20代半ば、会社員として働いている中で、さまざまな人の「プロフィール写真」を仕分ける作業をしていたときでした。
いろいろな人の笑顔の写真を見たことで、顔も体型もさまざまな人がいるという〝当たり前のこと〟に気づかされた時でした。
それまで、ぽっちゃりした人には、「ダイエットのビフォー」の暗くて不幸そうなイメージか、イジられるお笑い芸人のイメージしかありませんでした。
この心が動いた「気づき」から、「やせなきゃいけない」という考えを手放し、ダイエット思考でただカロリーの低い食べものを選ぼうとするよりも、自分の気持ちが満たされる食べものが何なのかなど、心や体の声を聞くようにしていったといいます。
摂食障害から回復し、10年前にプラスサイズモデルとして活動を始めたなおさん。イベント時やSNSなどで、摂食障害や体型に悩む人たちから「どうやって治ったんですか?」とよく聞かれるそうです。
「複合的な理由で回復へ向かっていったので、答えるのが難しい」と感じるそうです。
「ただ、大事だったのは『治すためのヒント』を探していたことかな、と思います。症状がひどかった頃は受け入れられなかった言葉や本の情報も、心のどこかで積み重なって糧になっていたのかもしれません」
なおさんは6月末、これまでの体験を振り返り、見た目に悩んでいるティーンに向けた本『コンプレックスをひっくり返す』(旬報社)を出版しました。
本のなかでは、「あなたが無理をせず、心地よく生きるためのヒントは、きっとどこかにある」と呼びかけています。
摂食障害で苦しんでいることを両親には相談できなかったというなおさんですが、祖母には「太っていく自分が嫌いで、生きている価値がないと思うほどつらい」と打ち明けたことがあり、本のあとがきでそのエピソードを紹介しました。
祖母は「何も恥ずかしいことはない。胸張って生きなさい」と励ましてくれましたが、その言葉を受け取っても、すぐに治ることはありませんでした。
今そんな風に、自分の体験を思い返しています。
「誰かから『そのままでいいよ』と言われても、なかなかすぐには変われません。でも、自分の内側で〝気づき〟を得ると、少しずつ変わっていける感じがします。この本がその気づきのひとつになれればいいなと思います」
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