年に100人前後が死亡している「着衣着火」。注意するべき状況について、行政が注意喚起をしています。特に、コロナ禍で消毒用アルコールが身近になったことで、これからの季節に警戒が必要な場所もあります。命に関わる事故を防ぐ方法をまとめました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
5月、福岡県でバーベキューの火に消毒用アルコールを注ぎ、立ち上った炎にまかれた専門学校生1人が死亡する事故が発生しました。
総務省消防庁『消防統計(火災統計)』によると、2015年から20年までの6年間に、火災による死者数(放火自殺者等を除く)は毎年約1200人で推移し、このうち着衣着火による死者数は100人前後で推移しています。
着衣着火とは、調理中のガスコンロの火や仏壇のろうそくの火などが「今着ている服」に移ってすぐに燃え上がる現象。
同庁『火災の実態』によると、2015年から19年までの5年間の着衣着火による死亡者数の内訳は、「その他火気取扱中及びその他」を除くと、「たき火中」の割合がもっとも多く、次いで「炊事中」となっています。
また、消費者庁・国民生活センターの医療機関ネットワーク事業を通じて、2010年から2021年10月までの約11年間に86件の着衣着火の事故情報が寄せられ、通院を必要とする事故が27件(32%)、入院を必要とする事故が50件(58%)、死亡事故も4件ありました。
このことを受けて、消費者庁は「調理中やたき火中など火を扱う際は、『火のそばにいる』ということを常に意識しましょう」「風のある日などは、着衣着火しやすく、着火するとすぐに燃え広がり大変危険ですので、屋外で火を扱うのは控えましょう」などと注意喚起しています。
消費者庁は、コロナ禍で身近になった「消毒用アルコール」についても着衣着火に関して注意喚起をしていました。
「消毒用アルコールには危険物に該当するものもあり、取り扱いを誤ると火災等を引き起こすおそれがあるので、十分な注意が必要です」「消毒用アルコールは火気により引火しやすいため、手指消毒等の際、アルコールが衣服に染み込んでしまうと、直後に火のそばに近づいた場合、衣服に着火する危険があります」
東京消防庁は『災害実態の分析・把握に関する技術改良・検証』で、エタノール/水の混合物について、エタノール濃度約40%の水溶液の引火点は26.4℃で、これは「常温(15~25℃)付近で引火する危険性がある」としています。
同庁は6月8日、SNSで「【注意!消毒用アルコールの危険性!】」として注意喚起。「消毒用アルコールは火気により引火しやすく、発生する可燃性の蒸気は空気より重く、低いところに滞留しやすい特性があるので取扱い時は注意が必要です」「また、燃えていても炎が見えにくいのも特徴です」と動画とともに訴えました。
この動画には「コンロの近くで消毒用アルコールを使いすぐに引火する様子」「引火した青い炎が見えにくい様子」などが収録されています。
同庁は「火気の近くでは使用しないようにしましょう」「詰め替えを行う場所では換気を行いましょう」「直射日光が当たる場所等、高温になる場所に保管しないようにしましょう」とし、「今後も消毒用アルコールを使用する機会があると思います。消毒用アルコールの適正な取り扱いを今一度ご確認ください」とコメント。
特に最後の「直射日光が当たる場所等、高温になる場所」は、これからの季節に警戒が必要です。
当てはまる場所の一つは車です。複数の自治体が下記のように呼びかけており、車内に消毒用アルコールを放置している人は、すぐに止めるようにしてください。
「気温が高くなる夏場の自動車内に消毒用アルコールを放置しておくと、密閉された空間で、かつ温度が高くなることから、アルコールから可燃性の蒸気が発生し、滞留しやすい状況になります」「そのまま車に乗り込み、ライターに火をつけてしまうと、蒸気となったアルコールに引火し、火災となる恐れがあります」