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ネットの話題

視聴率0.0%もSNSで話題に テレビが仕掛ける〝わかりにくさ〟

動画配信サービスが台頭している。※画像はイメージ
動画配信サービスが台頭している。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

昨年12月27日から3日連続で放送された『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(BSテレ東)が、いまだSNS上で話題となっている。BS放送にもかかわらず、なぜ年明け以降も話題が続くのか。番組の魅力や支持された背景、若手テレビ制作者がチャレンジできる環境について考える。(ライター・鈴木旭)
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バブル時代の深夜バラエティーと思いきや

年末に放送された『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(BSテレ東)の話題が絶えない。後述するような「バブル時代の深夜バラエティーを紹介する番組」かと思いきや、予想を裏切られた視聴者たちの声が上がり続けている。その理由の1つに動画配信サービスの利用が挙げられる。

現在でもテレビ東京の公式サイトやTVerなどで視聴できるため、SNS上の口コミを見て視聴するユーザーが多いのだろう。一般的なテレビ番組は、放送から1週間など一定期間でこうしたサービスから削除される。現在も視聴可能なこの番組は明らかに、「後から見られる」ことを狙ったものだと言える。

実際、『このテープ』はネットを中心とした口コミと動画視聴のサイクルによって、ジワジワと広まっていった。例えば、TwitterのまとめサービスTogetterには視聴者の感想ツイートを集めたまとめが複数あり、10万以上のページビューを集めているものもある。

番組内容を端的に説明すると、表向きは「テレビ局が失ってしまった過去の番組テープを視聴者から募集」「その貴重なVTR映像を紹介する」というものだ。“見届け人”は、いとうせいこう、井桁弘恵。筆者自身、タイトルから興味を持ったため、文字通り過去映像が流れる番組として眺めていた。

しかし、1985年に放送されていたという“生放送の深夜番組”『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』が紹介されたあたりで疑問を持った。

セクシーな女性がスタジオ後方のセットに座り、MC陣がセクハラまがいの発言をする。これはいかにもバブル時代の雰囲気だ。ただ、『東京イエローページ』(TBS系)で放送されていたクイズ番組のパロディーコント「クイズそっちの方がスゲェ~!」のような“きな臭さ”を感じたのである。

『東京イエローページ』は1989年~1990年の放送。出演者である竹中直人やきたろう、住田隆、ふせえりが参加した演劇ユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」の活動スタートは1985年だ。

1983年~1984年に放送された『どんぶり5656』(読売テレビ)のようなシュールなコント番組はあったが、当時リアルタイムで勢いづく深夜バラエティーをパロディー化する発想はなかったように思う。しかも、メイン司会者は坂谷一郎という得体の知れない人物である。長年、バラエティーを見続けてきた筆者は、この演者を知らなかった。

実際にあったお色気系の深夜バラエティーを振り返っても、1980年代中盤は『11PM』(日本テレビ系)や『オールナイトフジ』(フジテレビ系)などが放送されており、いずれも人気作家や勢いのあるタレントが番組の顔として起用されていた。

また、視聴者投稿とされるメッセージビデオは、映像が不自然に飛んだり、赤ちゃんの泣く乳母車が勝手に動き出したりするような謎めいたものだった。第一夜が終わるころ、ようやく「これはフィクションだ」と気付いた。

同じ演出家の番組『奥様ッソ!』は視聴率0.0%

後に、この番組の演出・プロデューサーが大森時生氏だったことに気付く。2021年末に同じBSテレ東で放送された『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』を手掛けており、こちらも物議を醸していた。

ちょうどコンビ揃って結婚していることが発覚したAマッソが、主婦向けのバラエティーに挑戦。と思いきや、VTR映像から流れる一般家庭の内実が明るみとなり不穏な空気が流れ始めて……という、サスペンスホラーチックな展開へと引きずり込む番組だった。

『奥様ッソ!』は4夜連続放送。『このテープ』と同じく、視聴者が徐々に違和感を抱き始めるような構成となっている。

前述の動画配信サービスでは「答え合わせ」とでも言うべき、各家庭の“後日談”がショッキングなニュース番組(もちろんこれもフィクション)として放送された。好き嫌いはありそうだが、ある意味でわかりやすいオチがついていた。

一方、『このテープ』は動画サービスでもホラーチックなおまけ映像を見られるにとどまり、よりわかりにくい演出になっている。

今年元日に放送された『あたらしいテレビ』(NHK総合)に出演した大森氏は、『奥様ッソ!』の視聴率が0.0%と苦汁を舐めたものの、SNS上での反響が大きかったと語る。

「『奥様ッソ!』はAマッソさんのお力もあって、Twitterとかでそれこそ話題になって。(中略)東野(幸治)さん、ひろゆきさんあたりが一応着火剤的にはなってましたね」

ドラマ考察が行われるSNS時代を意識

これまでも、フィクションをドキュメンタリー映像であるかのように演出するモキュメンタリー番組や作品は少なくない。

テレビの世界では、本当のドキュメンタリーであるかのごとく謎めいた架空の“ドラマ”を不定期で深夜に放送していた『放送禁止』(フジテレビ系)、特殊な事情を抱える人物に扮した芸人たちの生活を密着する『ぜんぶウソ』(日本テレビ)といった番組もあった。

大きく括れば、バカリズムがOLになりすまして架空の日常をつづったブログから派生し、ドラマ・映画まで制作された『架空OL日記』も根底の部分では同じ類のものだろう。

大森氏が手掛ける番組もこうした路線にあると言えるが、あまりに手が込んでいて感心してしまう。たとえば『このテープ』に『ミッドナイトパラダイス』のテープを送ったとされる埼玉県在住の投稿者・隠戊宏光(おんぼひろみつ)は、実際にTikTokアカウントが存在する。

また、ネット検索をすれば「ニコニコ大百科」に『ミッドナイトパラダイス』の番組概要・コーナー企画・出演者・スタッフといった情報が公開されており、司会者の坂谷一郎ほか出演陣の本名や経歴が書かれた個別情報まで確認できる徹底ぶりだ。「やはり実在の番組なのか」と混乱した視聴者もいるのではないか。

最初から単に番組を見て楽しむだけでなく、現実世界でも深追いできるマニア向けの内容になっている。この点は、SNS上でドラマ考察やネタ分析が行われる今の時代を意識した作りと言えるだろう。

音楽やバラエティーのトレンドともリンク

別の部分でもトレンドとリンクしている。昨今、アパレルブランド「セーラーズ」が注目を浴び、竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」といったシティーポップがSNS上で驚異的な再生回数を記録するなど、1980年代リバイバルの流行が続く。

また、昨年8月に放送された『ダウンタウン vs Z世代 ヤバイ昭和あり?なし?』(日本テレビ系)の好評を受け、その後「昭和 vs 平成・令和」の構造や過去のVTR映像を見てクイズを出題するようなバラエティー特番も増え始めた。

これに加えて、バイきんぐ・小峠英二が特設の仕切りによって左右の体半分ずつを隣接したスタジオに露出させ2番組の同時収録に臨むなど、突飛な企画をメインとする深夜バラエティー『ここにタイトルを入力』(フジテレビ系)といった番組も2021年からスタートしている。この番組などは、まさにタイトルから狙いが効いたものだ。

『このテープ』は、こうした文脈の中で作られたバラエティーとしても違和感がないのである。

マルチタレント・いとうせいこうの説得力

いとうせいこうさん=2020年3月17日撮影
いとうせいこうさん=2020年3月17日撮影 出典: 朝日新聞社
1980年代のサブカルチャーをけん引したマルチタレント・いとうせいこうが出演している点も見逃せない。

大学在学中にピン芸人のような活動をスタートし、『タモリのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でADを務めるなどもしている。また卒業後は、出版社の雑誌編集を務める一方で、ヒップホップMCとしての道も開拓していく。

前述のラジカル・ガジベリビンバ・システムの舞台にも参加。また、本格的に芸能活動をスタートしてから発表した小説『ノーライフキング』が三島由紀夫賞の候補作になるなど、それぞれの分野で高い評価を得る第一人者となった。

バラエティーにおいては、2000年代に『虎の門』(テレビ朝日)の「いとうせいこうナイト」で若手芸人の新たな一面を発掘し、2010年代に『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)でラップバトルの審査員を担当。ここ最近でも、新進気鋭の8人組・ダウ90000と先輩1組によるライブ「+90000」を企画し番組が放送されるなど、それぞれの時代で存在感を示してきた。

そもそも編集者という仕事に携わっていたからか、いとうはどんな分野であれ“見出し”で目を引く力 に長けている。これに見識の広さが加わることで妙な説得力を持ち、その含蓄のあるトークに視聴者は魅了されてしまうのだ。

『このテープ』においても、あるはずのない番組『ミッドナイトパラダイス』について「中堅の放送作家からこの番組の名前が出た」「カルト的には人気だった」と事前に紹介しリアリティーを持たせていた。まさに番組には、うってつけの人物だったと言える。

若い番組ディレクターは「根性が違う」

現状、YouTubeなどのSNS、動画配信サービス、ライブ配信の勢いが増し、以前よりもテレビの影響力は減少傾向にある。

ネットコンテンツでは、再生回数、チケット枚数、男女比などがはっきりと数字になって表れるため、視聴者のニーズに合った企画が生まれやすい。しかし、その半面で「何だ、これは?」と記憶にこびりつくような番組は生まれにくくなっている。そこに一石を投じているのが『このテープ』をはじめとするバラエティーではないだろうか。

わかりやすいエンタメが主流だからこそ、わかりにくさがカウンターとなりSNSを中心に口コミで話題になりやすい側面もあるだろう。

元テレビ東京プロデューサー・佐久間宣行氏は、前述の『あたらしいテレビ』の中で「20代(筆者注:中盤)から後半ぐらいのディレクターたちがまた面白くなってきてるのは、やっぱり“テレビが明確に元気じゃなくなった時代”にあえて入ってきた人たちだから。根性が違う」と語っている。

また、同番組で『このテープ』の演出を務めた大森氏は、「個人的にテレビが今一番ハードルが低いので面白くなりやすいと思ってますね。基本ベース、YouTubeとかNetflixとかのほうが面白いと思われてるので、テレビでちょっと面白いことやると『すごく面白い』と思われやすい」と率直な思いを口にしていた。

衰退していると思われがちなメディアだからこそ、逆にハードルは下がりテレビで面白いものが作りやすいという逆転現象が起きているのかもしれない。若いディレクターがどんな番組を生み出していくのか。今後も見守っていきたい。

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