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ドラマ「silent」で話題の手話に〝禁じられた過去〟があった

聞こえない人、聞こえにくい人のコミュニケーション手段である「手話」は、生活のさまざまな場面で目にします(画像はイメージです)
聞こえない人、聞こえにくい人のコミュニケーション手段である「手話」は、生活のさまざまな場面で目にします(画像はイメージです) 出典: Getty Images

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聞こえない人、聞こえにくい人のコミュニケーション手段である「手話」は、生活のさまざまな場面で目にします。きょう(22日)最終回を迎えるドラマ「silent(サイレント)」(フジテレビ)にも登場。SNSでドラマ内の手話が話題になるなど、関心が集まっています。ただ、そんな手話にも、禁じられていた過去がありました。

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ドラマで手話が重要な役割

「silent」は、川口春奈さん演じる主人公の「青羽紬(つむぎ)」と、目黒蓮さん(Snow Man)演じる「佐倉想(そう)」のラブストーリー。想は聴力を失った設定で、「音のない世界で出会い直す」とうたわれています。

そんなドラマで重要な役割を果たすのが手話です。

「プリン」の手話が出た時は、片手をお皿に見立て、もう一方の手で指を広げて「プリン」の形に似せ、フルフルと揺らすしぐさに、インターネットでも「かわいい!」と話題になりました。

「口話」の妨げに

ところが手話は、教育現場によっては、十数年前まで厳しく禁じられていました。

元々は手話が使われていたものの、次第に「口話」と呼ばれるコミュニケーション方法が教育現場で重視されるようになったからです。100年ほど前のことでした。「口話」は、話し相手の唇の動きなどから言葉を読み取り、自分も声を出して話すように訓練します。

手話を使うと「口話」の技術獲得の妨げになると考えられました。教育現場で手話を禁じたことには、そんな背景があったのです。さまざまな働きかけなどを経て、手話が〝復権〟するまで、その傾向は続きました。

厳しかった「口話」の訓練

大阪府東大阪市の安藤美紀さん(53)は、手話が禁じられていた過去を思い出します。

生まれつき耳が聞こえず、母親には「健常児」のように生きていけるよう厳しく育てられました。

「口話」の獲得もその一つでした。

幼い時から、ものの名前を声に出して話す訓練を繰り返しました。そのため、机や椅子など、家中にものの名前を書いた紙が貼られていたそうです。安藤さんには自分の発した音が聞こえません。うまく発音できず、泣きながら練習することも珍しくなったそうです。

幼い時から、ものの名前を声に出して話す訓練を繰り返しました。そのため、机や椅子など、家中にものの名前を書いた紙が貼られていたそうです=安藤さん提供
幼い時から、ものの名前を声に出して話す訓練を繰り返しました。そのため、机や椅子など、家中にものの名前を書いた紙が貼られていたそうです=安藤さん提供

手話を使ったら竹刀で…

そんな安藤さんは、九州のろう学校に通っていました。

ろう学校の幼稚部だった時の光景を今でも覚えています。「昼休みに遊びに来てくれた高校生くらいのお兄ちゃんが手話を使って、私に声をかけてくれました。私も手話を覚えようとしたら、学校の先生に阻止されました」

当時、先生に隠れて子ども同士で手話を使うことはあったと言われています。

「その後です。学校の先生は、そのお兄ちゃんを剣道に使う竹刀で殴ったのです。血まみれでした。そんな姿を見て、『手話を使ったらああなるんだ』と思いました」

ドラマで手話への見方が変化

安藤さんはろう学校の幼稚部を出た後、一般の小中高校に通い卒業しました。得意の漫画で生きようと九州から上京し、東京の短大で美術を学ぶことにしました。

手話を習い始めたのは、20歳を過ぎた頃です。「silent」のように、ドラマの流行がきっかけでした。

当時は、豊川悦司さん、常盤貴子さんが主演した「愛していると言ってくれ」(TBS)が大ヒット中。豊川さんが聴覚に障害のある青年を演じ、作中にも手話が登場することで、注目されていました。

「耳の聞こえる友人が、『手話を教えて』と頼んでくるのですが、手話にはあまりよくないイメージがあり、知らなかったのです。でも、ドラマの影響で、手話に対する感情が自分の中でも変化していきました」

安藤さんは「silent」や「愛していると言ってくれ」のようなドラマには、物事の見方を変える力があるのだと話します。

安藤美紀さん。聴覚障害がある人の生活を支える「聴導犬」の普及に努めています。写真は、安藤さん自身の聴導犬「アーミ」=安藤さん提供
安藤美紀さん。聴覚障害がある人の生活を支える「聴導犬」の普及に努めています。写真は、安藤さん自身の聴導犬「アーミ」=安藤さん提供

二つの手話

ただ、実際に手話を学ぶ際には、戸惑いもあったそう。

原因は、手話の種類です。

日本で使われている手話には、大きく二つあります。

一つが「日本語対応手話」。単語ごとに手の動きを当てはめる手話で、日本語を話しながら使うものです。「口話」のできる安藤さんにとっては、「日本語対応手話」の方が、発話の感覚に近いものでした。

ところが、実際に習おうとしたのは、「日本手話」です。日本語とは異なる独自の文法体系を持ち、生まれつき耳の聞こえない人たちの間でもコミュニケーション手段となっています。「silent」でも頻繁に登場します。

こうした違いもあって、手話の習得には苦労を重ねたそうです。

聞こえないことを隠して生きる

安藤さんは、聴覚障害がある人の生活を支える「聴導犬」の普及に努める一方、耳の聞こえない子どもたちの教育支援をするNPO法人「Mamie(マミー)」(http://mamie.jp/about.html)の代表としても活動しています。

そんな安藤さんも欠かさず「silent」を観てきました。最終回を楽しみに待つ1人です。

「私はかつて、聴者と聴覚障害者が、相いれずに分断された社会だと感じていました。だからこそ、聞こえないことを隠して生きる、という思いがありました」

そして、こんなふうに話します。

「苦しいと感じるものを、私はうまく避けて避けて、明るく逃げてきたんですね。大阪なら、『笑ってなんぼ』という文化があったので、そこで生きることにしたんです。辛いことがあっても、『大阪のおばちゃん』として生きる道を選んだんです。人生はひとつしかないから」

ドラマ「silent」から感じ取れる重みや切なさは、安藤さんが笑い飛ばすことで避けてきた現実だと感じています。

「ドラマを通じて、なぜ、聴覚障害者が孤立するのか、と考えるきっかけになると思います。知ってもらえることで、分かり合えるようになるのではないかと思っています」

取材を終えて

「手話が禁じられた時代があった」。5年ほど前、筆者は初めてその事実を知りました。当たり前のように目にする手話の過去を知り、自分の無知を恥じると同時に、驚きました。

耳の聞こえ方やその方の特性によって、さまざまなコミュニケーション手段があるのだと思います。その意味では、手話はもちろん、この記事で触れた「口話」も否定されるものではないと思います。

ただ、「口話」が普及した根底には、「健常児と同じように」という考えがありました。その思いは善意なのでしょう。それでも、それは、優劣をつけることにもつながり、結果として、差別や分断を助長するリスクを抱えることも、否めないと思います。

だからこそ、手話が言語として認められたことは、耳の聞こえない人、耳が聞こえづらい人の言語もまた大切にするという点で、とても意義深いことだと考えました。

ドラマ「silent」は、そんなことも考えさせてくれました。

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