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「THE W」天才ピアニストが強かったもの ファイナリストを分析

NHK上方漫才コンテストでも優勝した天才ピアニストの竹内知咲さん(左)とますみさん=2022年5月20日、大阪市中央区のNHK大阪ホール、照井琢見撮影
NHK上方漫才コンテストでも優勝した天才ピアニストの竹内知咲さん(左)とますみさん=2022年5月20日、大阪市中央区のNHK大阪ホール、照井琢見撮影 出典: 朝日新聞社

目次

今月10日、『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』(日本テレビ系)の決勝が放送され、天才ピアニストが第6代目女王となった。前年から審査員3人が入れ替わり、ファイナリストの組数が増え、対決ごとに視聴者が1票投じる「国民投票」が復活。変化の多い大会の中で勝ち上がった上位3組の魅力を中心に振り返る。(ライター・鈴木旭)
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対戦方式の特徴と前大会からの変化

「THE W」の対戦方式は、各ブロックに分かれ1ネタごとに暫定1位を決める「勝ち上がりノックアウト方式」だ。審査員6人と視聴者が対戦ごとに2組のネタ(最終決戦は3組のネタ)を比較し、面白いと感じたほうに投票することで勝者が決定する。

これにはメリットとデメリットがあり、7つの票によって勝敗が明確に決まる半面、採点システムのように微妙な優劣を示すことができない。とくに今大会では、審査員全員が一方の組に入れる「7票-0票」の結果が目立ったこともあり、敗者に対しフォローする審査員の配慮も見て取れた。

その審査員は、アンガールズ・田中卓志、笑い飯・哲夫、友近は昨年と変わらず。麒麟・川島明(第4回以来、2度目)、ドランクドラゴン・塚地武雅、マヂカルラブリー・野田クリスタルが新たに加わった。この顔触れも、後述するように、多少なり結果に影響したように思う。

ファイナリストは、Aマッソ、エルフ、河邑ミク、さとなかほがらか、スパイク、TEAM BANANA、天才ピアニスト、にぼしいわし、フタリシズカかりこる、紅しょうが、ヨネダ2000、爛々の12組。昨年の10組から2組追加され、A・B・C、3つのブロックに分かれて対戦が行われた。

各ブロックを制し、最終決戦へと勝ち進んだのは、ヨネダ2000、天才ピアニスト、紅しょうがだ。この上位3組を中心に、今大会を振り返ってみたい。
 

緻密な王道コントで優勝した天才ピアニスト

まずは、優勝した天才ピアニスト。後出しであることを承知のうえで言わせてもらえば、筆者が先月10日、11日に行われた準決勝の模様を生で観ていて、もっともネタの強さを感じたのが彼女たちだった。

2本ともに構造は同じだ。どちらも、ボケ・ますみがマイペースな行動を取り、途中までツッコミを入れていた竹内知咲まで同調してしまう展開となる。コントのパターンとしては王道の一つだが、設定や会話のディテールが非常に緻密だった。

例えば2本目の「亭主関白な父親に愛想を尽かし、“家族団らんVR”で現実逃避する母親と娘」を描いたコントでは、こんなやり取りがあった。

VRゴーグルをつけた母親(ますみ)が「コラッ、ジョニー。こんなところにおしっこしたらダメでしょ」と食卓のそばにある観葉植物とじゃれ合い始める。そして、誰もがジョニーを犬だと思った瞬間、「どうや? ホームステイ慣れてきたか」と続けるのだ。

さらには、その後、竹内が「ジョニー、犬違うたて!」「留学生やったって!」と驚きの声を上げ、少し遅れてサラリと「ほな、おしっこどういうこと?」と疑問の声を漏らす。その間も母親は、嬉々としてVRの世界に没入中というシーンだ。

老若男女問わず理解できるやり取りながら、言葉をズラしたり、現代的な小道具を使ったりと工夫が見られる。それだけではなく、ますみが得意とする“おばちゃんキャラ”、もう一つの持ち味である竹内のツッコミも存分に生きていた。

自分たちの素材を武器に状況設定と会話を練り上げ、奇をてらうことなく王道の構造に沿って作り込んでいったのだろう。2本ともに分厚い、優勝も納得のネタだった。
 

「やりたいことをやり切る」ヨネダ2000

ヨネダ2000の誠さん(左)と愛さん=2022年11月30日撮影
ヨネダ2000の誠さん(左)と愛さん=2022年11月30日撮影 出典: 朝日新聞社
昨年、「THE W」決勝に初めて進出し、「M-1グランプリ」準決勝でも存在感を示したヨネダ2000。そして今年、女性コンビとしては2009年のハリセンボン以来となるM-1ファイナリストの座を射止めた。その勢いは10日の「THE W」決勝でも見て取れた。

Aブロックで出場したファーストステージ。TEAM BANANAに続いて2番手で登場すると、「3票-4票」の僅差で勝利。次のさとなかほがらかに「7票-0票」で圧勝すると、最後のAマッソに「4票-3票」で競り勝ち、最終決戦に駒を進めた。

1本目は、人(誠)の体から出たうんこ(全身茶色のタイツを着た愛)が「いい形じゃない」と言われてショックを受け旅に出てしまうも、必死で捜索する“宿主”の姿に感銘を受けて元気を取り戻すコント。2本目は、とてつもなく大きなモヒカンのキャサリンが具合の悪い犬を治すコントだ。

どちらも最後にパラパラを踊るというもので、コントのまとまりよりも凸凹コンビのコミカルな芸風を押し出すネタだった。残念だったのは、2本目でキャサリンの地声(英語)があまり聞こえず、通訳のナレーションの声ばかりが目立ってしまっていたことだ。

このネタの肝は、テレビのドキュメンタリーで見掛けるような英語と日本語が交じり合う声量のバランスにあると言っていい。実際にキャサリン役の愛は、本当に英語を話しているそうだ。それだけに「この調整がうまくいっていたら……」と夢想してしまう。

結果的に、ヨネダ2000は準優勝となった。「結果を残したい」よりも、「やりたいことをやり切る」という姿勢は、「THE W」初代女王・ゆりやんレトリィバァと似た匂いを感じる。今後も、どんな突飛なネタを見せてくれるのか楽しみな2人だ。
 

コンビで仕掛けていた、紅しょうが

4度目の決勝となり、すっかり大会の顔となった紅しょうが。今年は、持ち前のパワフルさだけでなく、ネタの見せ方に工夫が見られた。

1本目のネタは、夜更けの街のゴミ捨て場を舞台に繰り広げられる女性同士の友情を描いたコント。2本目は相手の愚痴よりもテンション高く怒ることで、お互いの気持ちを落ち着かせ合うという漫才だった。

これまでボケの熊元プロレスで笑わせるネタが目立ったが、今回は2本ともコンビで仕掛けていたのが印象的だ。

漫才は“Wノリボケ”とも言うべき構造で、ツッコミの稲田美紀が叫ぶように話したり、泣いて見せたりする笑いどころも多かった。コントでは、ごみ袋を投げ合った後に熊元プロレスが言い放つ「何かわからん汁ついた!」というフレーズだけでなく、稲田が雪だるまに見立てたごみ袋を抱くドラマチックなシーンでも笑いを起こした。

単純に稲田が笑わせる箇所が増えただけでなく、リアクターとしての熊元プロレスが秀逸だったのも見逃せない。

とくに漫才では、ボケの言動に対してツッコミが驚いたり怒ったりするのが定石だ。しかし、今回の2人はその概念にとらわれず、漫才・コントともに稲田の言動に一喜一憂する熊本プロレスの面白さが生かされていた。

2017年から続く大会を通して、今年の紅しょうがほどネタのクオリティーが上がったコンビは記憶にない。

まだまだネタとして披露されていない、稲田特有のキャラクターがあるはずだ。その金脈を掘り当てれば「THE W」のみならず、「M-1」や「キングオブコント」でも頭角を現す存在になるのではないだろうか。
 

審査やネタの傾向に特徴が見られた大会

紅しょうがの熊元プロレスさん(左)と稲田美紀さん=2020年12月2日、大阪市中央区
紅しょうがの熊元プロレスさん(左)と稲田美紀さん=2020年12月2日、大阪市中央区 出典: 朝日新聞社
そのほか、TEAM BANANAは一段と磨きをかけた漫才、ピン芸人・さとなかほがらかは保留中に暴走するテレフォンオペレーターという独創的なコントで見る者を魅了した。Aマッソはルッキズムをモチーフとしたユニークなコントを見せ、爛々は力強いツッコミと決めフレーズの「チョメ!」が印象的な漫才で爪痕を残した。

スパイクはボケ・小川暖奈の少女漫画チックなキャラコント、フタリシズカかりこるはボイスチェンジャーを使った通話がバレるという現代的なコント、河邑ミクはカンニングする悲しい女生徒のコントで笑わせた。

エルフはマイペースな店員(はる)の言動でギャルの荒川が振り回されるコント、にぼしいわしは「攻めた水族館を作りたい」という設定のもと2人のコミカルな風貌を生かした漫才で会場を沸かせた。

気になったのは全体的にコントが多く、ナレーションやSE(効果音)、BGMを使ったネタが目立ったことだ。もちろんコントを形成する演出の一つではあるが、唐突なBGMは違和感を与えやすく、ナレーションと口の動きが合わないなどトラブルも起きやすい。

またBGMで展開が考えられたネタは、曲のタイミングに合わせて笑いどころを仕込む必要があり、演者特有の間を生かすことが難しい。総じて、ネタの面白さが演出によって引っ張られてしまうのはもったいないと感じた。

他方、審査員の投票も興味深いものがあった。笑い飯・哲夫は、AブロックでTEAM BANANA、最終決戦で紅しょうがに投票している。同程度の面白さを感じれば、コントよりも漫才を評価する傾向にあると見ることもできる。

またマヂカルラブリー・野田、友近が投票したのはすべてコントであり、野田はファーストステージ、最終決戦のいずれもヨネダ2000に入れている。2020年の「M-1」で「漫才じゃない論争」を巻き起こした野田らしく、固定観念にとらわれないオリジナリティーを重視しての審査なのだろう。

審査やネタの傾向に特徴が見られた今年の「THE W」。その一方で、結局はやはり、作り込まれた王道のネタが評価されることを改めて認識した大会だった。
 

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