連載
#2 Y2Kと平成
なぜ「2000年代」が若者のトレンド? Y2Kとギャルの深い関係
「他人を気にせず自分を表現しよう」というマインド
今年になり、若者ファッションの文脈でよく聞くようになった「Y2K」という言葉。「2000年代」を意味する「Y2K」が使われるようになった経緯、そして同時によく見かける「ギャル」との関係性は――。若者文化や、流行のファッションに詳しい、電通プロモーションプラスの堀かおりさんに話を聞きました。
――今年になって、メディアや、SNSのハッシュタグの一部として「Y2K」をよく目にするようになりました。
実は、特殊な流行り方をしています。
日本での流行は、K-POPでの流行の流れを汲んでいます。そのため、今年に入ってからのトレンドですが、そもそも、Y2K自体は、2021年のはじめから欧米で流行が始まっています。
――約2年前からですか。
コロナ禍でおうち時間が増え、自宅で少し昔のドラマなどを見る欧米のティーンが、アメリカのドラマ「ゴシップガール」(2007~2012)などの華やかな雰囲気を好み、2000年代を魅力的なものとしてとらえる「Y2K」の流れが出てきました。
ファッション界でも、2021年には「Y2K」としてハイブランドのコレクションが出てきましたし、アメリカの人気アーティスト、オリヴィア・ロドリゴが新曲「good 4u」のPVなどでY2Kを採り入れました。
――それがどうして、今年になって日本へ?
ファッションにおいて、ハイブランドがY2Kをコレクションに採り入れたことで、Y2Kは世界的なファッショントレンドの根源とみなされました。
ファッションショーには、グローバルに人気があるK-POPのアーティストが招待されます。そのスタイルはファッション業界からも取り上げられるし、参加したという報告をSNSでアーティスト本人が発信するとそれはインフルエンサー的な活動にもなります。
それを見たファンは、トレンドというよりも、「推し」の新しいファッションスタイルとして認知し、「このスタイルに近づきたい」とか「自分の『推し』が着ているものがおしゃれだ」と感じ、模倣が始まりました。
ファンは、ファッショントレンドとしてY2Kをとらえていたわけではなくて、あこがれの対象がやっているスタイルとしてとらえ、あとから「あれはY2Kなんだ」と気づく感じです。
一連の流れを汲んで、日本では今年の1、2月ごろから流行り始めた感じですね。
――やはり韓国からのトレンド流入が激しいですね。
アイドルの力だと思います。日本の若者が韓国のトレンドを取り入れるのは、ドラマからよりもアイドルからです。そもそもK-POPの視座が、世界ですもんね。
ちなみに、ギャルピース(目の前に出したピースサインを下に向けるポーズ)も流行りましたが、韓国発といわれています。
――なんと!それは驚きです。ギャルピースはそれこそ「平成ギャル」の間で流行ったものですよね。
最近のK-POPのグループには、様々な国の子たちが入るという一種の「トレンド」があり、日本人も例外ではありません。
ギャルピースは、IVEの日本人メンバー・レイさんや、aespaのメンバー・ジゼルさんがSNS投稿したことで、日本のファンもまねをし始めたと言われています。
ギャルピースは、インスタやTikTokで広まり、日本全体に流行しました。
――では、Y2Kファッションの具体的な事例はどのようなものでしょうか。
女性のトレンドがメインになっています。
「ヘルシーな肌みせ」という言われ方をしているのですが、肩を出したり、短めのトップスのスタイルだったりがあります。
足元でいうと、パンツをローライズではいたり、ルーズソックスや厚底の靴をはいたり。
アイテムの素材感でいうと、ラメ素材や、バッグにビニール感やプラスチックを取り入れています。
ヘアメイクだと、ラメがポイントです。ざくざくのラメのアイシャドウを使ったり、TPOに合わせてまつげや髪にもラメを付けたりします。顔にシールを貼ることもありますね。
ちなみに、その日の気分などでスタイルを変えるのもZ世代の特徴です。この日は「韓国風」の淡いコーディネート、この日はY2Kファッション……など、気分やその日会う友人に合わせて変え、ひとつのスタイルだけにこだわりません。
――ファッションにおけるY2K流行の流れは理解できました。一つ気になるのが、発祥となった欧米での2000年代のファッションと、日本のそれとでは、共通性はあったのでしょうか。たとえば、2000年代に日本で流行したルーズソックスは、欧米では当時流行っていませんでしたよね。
確かに、具体的なファッションでいうと、欧米と日本とではファッションスタイルはちょっと違っていました。ただ、「個性を大事にする」とか「自分らしく」というキーワードで表現される「マインド」が共通しています。
2000年代の欧米のトレンドは、パリス・ヒルトンに代表されるように、「モテ」を気にせず、女の子が自分らしさを表現していくという側面がありました
一方、日本では、2000年代は「ギャル」が盛り上がりを見せていた時代です。ギャルは、「モテ」のためのファッションではなく、自分たちを主張するためのファッションでした。いまもその「マインド」が残っています。
日本ではいま、Y2Kの流行と同時に「個性を大事にする」とか「自分らしく」という、マインドを形容するものとしての「ギャル」もトレンドです。
――Y2Kの中に潜む、ギャルマインドですね。興味深いです。確かに、Z世代のシンクタンク「Z総研」の最近の調査でも、「2000年代に対するイメージ」への回答に、「自由」とか「個性」という言葉が多く含まれていました。堀さんの、2000年代の「モテ」の感覚が欧米と日本で共通しているという考察も気になりました。
正確に言うと、日本では「モテを意識しない」のとは真逆の、「モテが極度に意識された」時代でもありました。雑誌でいうと、「CanCam」などはそっちでした。
でも、いま流行しているY2Kは、「モテを意識する」という方向性ではありません。雑誌で言うと、「Zipper」に代表される青文字系ですね。
――2000年代当時は「モテ」に対する両極端な意識があったんですね。ではなぜ、いま流行しているのは「モテを意識しない」方なのか、というのが気になります。
Z世代はモノ・コトが飽和した世の中で生まれ育ち、「恋愛や異性の目がすべてじゃない」という価値観を持っています。趣味などに比べて、恋愛の価値は自分の中で低く、「他人を気にせず自分を表現しよう」というマインドが、ひとりで何かを楽しむ時間が増えたコロナ禍の環境もあいまって支持されるようになっていると感じます。
だからこそ、韓国の女性音楽グループ・BLACKPINKなどに代表される「ガールクラッシュ」と呼ばれる強い女性像だったり、アメリカのシンガーソングライター、レディー・ガガが切り開いた「自分らしさ」を持つ芯のある女性像が支持されているのだと思います。
――Y2Kはファッションにとどまらないものだということがわかりました。マインドを含めた「2000年代的なもの」が支持される背景にはなにがあるのでしょうか。
ここ2、3年で「昭和レトロ」「平成レトロ」そして「平成ギャル」と来ているように感じます。いまは、「Y2K」と「平成ギャル」が合流しているイメージです。
ではなぜ、いま「Y2K」や「平成ギャル」が支持されるのか。
私の感覚では、若者たちは2000年代や平成といった、20年ほど前の文化を「人間関係のウェットさ」を感じる時代ととらえ、自覚的でないにしても、それを求める意識があるのではないかと思っています。
ギャルサー(ギャルの集まり)や、当時プリクラでもよく書き込まれた「心友(しんゆう)」という言葉などが、いまの若い子たちからみると本心でコミュニケーションをしているように映るのではないでしょうか。
いまは、LINEの内容も、写真も「盛れる」けど、コミュニティーごとに違う友だちがいて、自分がいないところでは何を言われているかわからない。友だちはいるけど、深くつながれるウェットさが足りていないと感じているのかもしれません。
――複数のコミュニティーに所属することで居場所を確保できるのはいいことだなと思っていましたが、確かに人によっては「深さ」が足りないと感じる人もいるのかもしれません。
その「深さ」を補うために、直接だと恥ずかしかったとしても、「Y2K」や「ギャル」などの流行に乗っている感を出すことで、ギャグのようにごまかしつつ、ウェットな人間関係を疑似体験できているのかなと思います。そういうコミュニケーションに飢えていたり、あこがれていたりすると思う。
もちろん本人たちがそれを意識しているとは思いませんが。
――なぜいま、「ウェットな人間関係にあこがれるか」という点はどうでしょうか。
コロナが大きかったんじゃないでしょうか。本来なら学校で誰かに会って、放課後も友だちと遊んだり部活をして……という年代なのに、そもそも登校しない期間があったりして基本的に家にいた時期もありました。登校が増えてきても、一緒に遊びに行くこともはばかられる時代です。
SNSやテレビで見聞きしてきた青春が味わえていないという、「疎外感」や「つながりの希薄さ」は、生活環境からみても感じさせざるをえないですよね。
もちろんデジタルツールの発達も理由の一つです。ある意味友だちの数は増やせるけど、深さを作れなくなっちゃったのかなと思います。
――「ウェットな人間関係」ひいては「ギャル」を大切にする感覚は、昔から潜在的にあったとも思います。ただ、確かに「ギャル」という言葉を最近よく見かける気もします。
ギャルというと、当時はファッションスタイルとしての認識が強かったですよね。ただ、流行しているうちにギャル独自の文化が生まれ、横のつながりも生まれました。
ファッションの表層的なものは一部を除いて流れていってしまったけど、生き様や「勉強とかより大事なものあるじゃん」みたいな概念的なものが残り続けたのではないでしょうか。
見た目はギャルじゃなくても、考え方とかスタンスはそっち側を支持していたいみたいな背景から、最近よく使われる「マインドギャル」という言葉の誕生があるのだと思います。
――では今後、Y2K流行はどうなるのでしょうか。まずはファッションについて。
ファッションは、秋冬の新作にアームカバーがあったり、チェック柄やジャージーが入ったりしているので、年内は続くと思います。
その先は、カテゴリー化するのではと思っています。
――カテゴリーですか。
韓国ファッションとか、地雷系とかあるなかで、「ヘルシーな肌見せ」を形容する言葉がいまはありません。そこに当てはまるのがY2Kになり、スタイルとして確立され定着していくと思います。
――Y2Kのマインドにも通じる、「自分のやりたいことをやる」を形容する「ギャル」はどうなっていきますか。
自分のことを貫きつつ、人を大事にする、というマインドは「ギャル」という概念で確立されていくのだと思います。「自分らしく」とか「自立心」だとかたいイメージですよね。自由とも違うし……。
たまたまY2Kとギャルは合流していますけど、これもまた今後も存在し続ける概念だと思います。
【連載】Y2Kと平成
いま流行している「Y2Kファッション」。街中でルーズソックスを履いている高校生を見かけることも珍しくありません。広い層に2000年代の出来事や空気感への興味・関心が高まったこの機会に、当時の世情を振り返り「現代社会」を考えます。
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