ウクライナから避難するペット検疫で特例が適用されることになり、注目された狂犬病。ヒトについて“致死率100%”という情報がSNSで拡散されましたが、狂犬病とはどのような病気なのでしょうか。厚生労働省を取材しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
ウクライナから避難するペット検疫で、災害救助犬などに適用されている特例が適用されることになり、注目された狂犬病。
厚生労働省が引用する2017年のWHOの発表によれば、世界の年間の死亡者数の推計は約5万9000人で、うちアジア地域が3万5000人、アフリカ地域が2万1000人となっています。
厚労省によれば、撲滅に成功した日本、英国、オーストラリア、ニュージーランドなど一部の地域を除いて、全世界に分布しています。
病原体は狂犬病ウイルスです。“狂犬病”という名前ですが、イヌだけでなく、すべてのほ乳類に感受性があり、ネコやキツネ、コウモリを含む野生動物もウイルスを保有しています。
これらの動物に咬まれたり、引っ掻かれたりしてできた傷口から、唾液中のウイルスが侵入することで感染します。ただし通常、ヒトからヒトに感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはありません。
前述したように、日本では撲滅されていますが、周辺国を含む世界のほとんどの地域で今も発生している病気です。
日本国内では、ヒトは1956年を最後に発生がありません。輸入感染事例としては、狂犬病流行国でイヌに咬まれた後に発症した事例が、1970年にネパールからの帰国者で1例、2006年にフィリピンからの帰国者で2例、2020年にフィリピンからの入国者で1例あります。これらの事例では全員が死亡しています。
さて、そんな狂犬病が“致死率100%”と言われるのはなぜなのでしょうか。
ヒトでは発症までの潜伏期は通常1〜3カ月とされ、症状は発熱、食欲不振、咬傷部位の痛みや掻痒感で始まります。やがて、不安感や水を怖がる(恐水)症状などが出て、興奮しやすくなり、麻痺、幻覚、精神錯乱などが見られるように。最終的に昏睡から呼吸障害を引き起こして死亡します。
発症すると有効な治療法がないため、ほぼ100%が死亡する危険な病気です。そのため、予防や速やかな処置が必要になります。
動物との危険な接触があったら、すぐに傷口を石けんと水でよく洗うこと、現地医療機関を受診し、傷の手当てと狂犬病のワクチン接種を受けることが必要です。滞在中には、むやみに動物に手出しをしないようにすることも対策になります。
この場合のワクチン接種は、狂犬病ウイルスに感染した可能性がある場合に、発症を防ぐために行われるもの(暴露後ワクチン接種)です。世界で年に推計1500万人が暴露後ワクチン接種を受けています。
また、海外の狂犬病発生国で頻ぱんに動物に接する場合には、渡航前に狂犬病ワクチンを接種しておくことが推奨されます。
日本国内でも、かつては多くのイヌが狂犬病と診断され、ヒトも狂犬病に感染し死亡していました。このような状況の中、1950年に狂犬病予防法が制定され、(飼い)犬の登録、予防注射、野犬などの抑留が徹底されるようになり、7年という短期間で狂犬病が撲滅された経緯があります。
厚労省は「この事例を見ても、犬の登録や予防注射が狂犬病予防にいかに重要な役割を果たすかが理解できます」とします。
また、「日本は常に侵入の脅威に晒されていることから、万一の侵入に備えた対策が重要」とした上で、次のように注意喚起しています。
「狂犬病が国内で発生した場合には、すばやくしっかりと発生の拡大とまん延の防止を図ることが非常に重要」「そのためには、犬の飼い主一人一人が狂犬病に関して正しい知識を持ち、飼い犬の登録と予防注射を確実に行うことが必要」