連載
#94 コミチ漫画コラボ
強い母を見せるつもりが…「あれ?」本気で子どもに負けた時の話
「こんなにすがすがしいなんて」
負けず嫌いな子どものために、ゲームでわざと負けていたお母さん。「そろそろ強い母を見せようか」と思っていたところ――。子どもの成長を描いたマンガが反響を集めています。作者の水谷アスさんに話を聞きました。
マンガのもとになったのは、水谷さんの実体験です。上の娘さんはゲームやトランプ・かるたなどで負けると、かんしゃくを起こしてよく泣いてしまう子どもでした。
水谷さんが対戦するときは手加減して、わざと負けてあげていたといいます。
「じゃんけんのように、どうしようもないものは勝っちゃうこともあって。そうするとひっくり返って泣いてしまい、何も手につかなくなる……なんてこともありました」と振り返ります。
保育園の頃に自閉スペクトラム症と診断された娘さん。「必ずしも勝つことが正しくて負けることが悪いわけではないよ。頑張った経過が大事なんだよ」と伝えてきましたが、なかなか実感してもらえなかったといいます。
ところが、小学生になって運動会で1位をとってから、娘さんの「勝利への執念」がやわらいできたそうです。
勝ちたかったのは「1回でいいから1等賞をとってみたかった」から。「満たされたからもう勝てなくても大丈夫」と話していたといいます。
それなら「そろそろ負けを受け入れられるのではないか」と考えた水谷さん。カードの神経衰弱をやってみると……結果は娘さんの勝ちでした。
「全然カードの場所が覚えられなくて、本気でやったのに負けてしまいました。子どもの若い脳みその方が優秀で、神経衰弱を選んだのが失敗でしたね」と苦笑します。
でも、こんなすがすがしい負けがあるなんて――。
手加減しなくてもよくなったのが、うれしいような、寂しいような。「勝ち負けのこだわり」ではなく、ゲーム自体を純粋に楽しんでいたことにも「成長」を感じたといいます。
マンガを投稿したツイートにも多くの反響が寄せられ、水谷さんは「ここまで共感されるとは意外でした」と話します。
「『私もそうだった』『年の離れた妹がこうだったな』と子どもに重ねてくれた感想や、親世代の『負けた瞬間がうれしいよね』という感想もありました。自分の家族に置き換えて読んでくれてうれしかったですね」
たまに自身が描くマンガを、娘さんにも見せているという水谷さん。
マンガに描かれている子どものキャラクター「ハナちゃん」のことも気に入っているようで、YouTubeごっこをしながら「皆さんこんにちは!ハナです」と自己紹介することもあるそうです。
「子どもたちには好きなことを見つけて、それを忘れない大人になってほしい。自由に育っていってほしいですね」と願っています。
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