ネットの話題
片手まひでも自分で袖ボタンを…話題の道具に込められた製作者の思い
障がいなどで片手が使えなくても、自分でシャツの袖のボタンをとめられるように工夫された道具を紹介した動画がTwitterで話題です。道具を製作したのは、体の不自由な人の回復を支える作業療法士たちです。身の回りの動作を助ける道具を考案し、発信する思いを聞きました。
一般の方にも知って頂きたい事。障がい等で片手が使えない場合、動き易い手側の袖のカフスボタンがとめれません。これが理由で仕事でシャツを着るのを諦めた当事者さんも多くおられます。そこで作業療法士の友人が片手でできる道具を考えました。試作段階で無骨ですが、必要な方に届いて欲しいです。 pic.twitter.com/BRyRnYirOb
— 竹林 崇@脳卒中リハの専門家, 作業療法士, PhD(医学) (@takshi_77) February 13, 2022
「一般の方にも知っていただきたいこと」という一文で始まる投稿に添えられた動画に登場するのは、土台の上に備え付けられた細長い輪にした針金です。長袖のシャツを着た人が、片手で袖の生地をつかみながらボタンの穴に輪を通し、引っかけてボタンをとめる動作が映し出されます。
投稿は3.8万リツイートされ、約12万のいいねがついています。動画の表示数は200万を超えました。ツイートをした作業療法士で大阪府立大学教授の竹林崇さん(42)は「大きな反響があってうれしい」と話します。
動画では、針金の輪を使ってボタンをとめる動作に注目が集まりました。しかし竹林さんは「この道具がすごいのは、土台なんです」。針金と反対側の端にある滑り止めシートが大きな役割を果たしていると説明します。
「ボタンの穴に針金を通しやすくするためには、袖をつかんで固定する必要があるのですが、これがなかなか難しい。それを解決するのが滑り止めシートです。シートに袖を押し当てて、スムーズにつかむことができます。裏面にも貼ることで、テーブルにくっつけて作業ができます」
手や指にまひがある人のボタンをとめる作業を手助けする道具は、「ボタンエイド」と呼ばれています。ただ、片手だけで袖のボタンをとめられるようにするには「いかに固定して作業ができるか」をクリアしなければならず、「道具にするハードルがあった」と竹林さん。製作は福岡県の作業療法士、川口晋平さん(42)が担いました。
川口さんによると、針金は市販ですが、土台のプレートは3Dプリンターを使って製作しています。「細かい調整ができたり、再現性があったりするので重宝しています」
幼少期からものづくりが好きで、大学は建築学科に進学。作業療法士になる前は、住宅機器メーカーに勤めていました。滑り止めシートを用いたのも、川口さんのアイデアです。
道具を製作したきっかけは、川口さんの知人男性の一言でした。「片手で袖のボタンがとめられたらな」。右半身がまひしている男性は、長袖のシャツを着て外出する際、妻の助けを借りているといいます。
男性が自分だけでボタンをとめられるような道具を。川口さんは10年来の親交があり、過去にもペットボトルオープナーや納豆かき混ぜキットなどを一緒につくった竹林さんに相談しました。
脳卒中後の手の治療方法について研究する竹林さんも、リハビリのなかでスーツを着る仕事をしていた人が、シャツの袖ボタンをとめることを目標にしていたことがあったと言います。「自分にとって大切な動作を一人ですることは、アイデンティティを取り戻すことにもつながります」。道具をどのように固定するかなどで意見交換し、川口さんの製作を後押ししました。
できあがった道具をSNSで紹介するのは竹林さんの担当です。障がいのある人はどういった動作で困っているのかや、道具が有効に働く点などを添えて投稿しています。
「作業療法士は、患者さんのやりたいことを手を変え品を変えて実現できるように目指す仕事ですが、日常生活では社会の理解が肝心です。今回のように話題になって、『この道具を必要とする人たち』に多くの人たちが思いをはせてもらいたいと思って発信を続けています。最近は若い人たちにも知ってもらいたいと、TikTokでの発信も始めました」
2人がこれまでに製作した道具は、ネット販売をしています。今回のボタンとめ道具も改良を行い、必要とする人たちに届くようにする予定です。
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