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ポストモルカー雪像の完成度が高すぎ!20年かけて築いた究極の技術
北海道の郵便局長「やめたいけど好き」
北海道木古内町に立地する、小さな郵便局の取り組みが、ネット上を沸かせています。自主製作の上、幹線道路沿いに展示した、人気アニメキャラクターの雪像に、注目が集まっているのです。驚くべきは、局長の男性が、ほぼ全ての作業をこなしていること。20年以上、試行錯誤を続けて練り上げたという究極のテクニックについて、話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
話題を呼んでいるのは、国道228号沿いの、釜谷簡易郵便局付近に展示された二基の雪像です。
うち一基は、パペットアニメ「PUI PUI モルカー」に登場する「ポストモルカー」。モルモットと自動車をモチーフとし、郵便集配車に着想を得た、赤いボディーが特徴のキャラクターです。
一方、幅約1.8メートル、奥行き約2.5メートル、高さ約1.6メートルの雪像は無塗装です。側面に、シンボルである郵便マークが刻まれています。
なだらかな流線形の車体に大きな黒目、とぼけた表情や、もちっとしたほお袋を備えた、愛おしい見た目です。
片や、メディアミックスコンテンツ「すみっコぐらし」の面々をあしらった作品は、見る者に全く異なる印象を与えます。
高さ約3メートルのかまくらの中で、身を寄せ合うように並ぶ、6体の像。豚カツがモデルのキャラ「とんかつ」の表面に、凹凸をつけて衣感を再現するなど、こだわりが光ります。原作が醸すキュートさと哀愁を、見事にまとった逸品です。
「可愛すぎてなでたくなる」「今すぐ本物を見に行きたい」。2月中旬、ツイッター上に関連画像が出回ると、アニメファンとみられる人々のものを中心に、多くの感想が飛び交いました。
「子どもたちに喜んでもらえるキャラクターを表現できたと思います」。そう胸を張るのは、像を手掛けた、木古内町議で釜谷簡易郵便局長の安齋(あんざい)彰さん(56)です。
安齋さんは毎年1〜2月、直近に注目を集めたアニメや漫画、流行語をモチーフとした雪像を作っています。1998年に取り組み始め、少雪だった2002年と2007年を除き、欠かさず続けてきました。
今回採用した「PUI PUI モルカー」は、昨年初頭にテレビアニメが放映され、丸っこいフォルムのモルカーたちによるドタバタ劇が大人気に。「すみっコぐらし」も、同年11月に2作目の映画が公開されるなど、ホットトピックとなりました。
こうした経緯について、息子の僚さん(30)・天彩(あつや)さん(25)や、自身の知人から聞き、各作品を視聴します。
そして郵便局長を務めることから、ポストモルカーに惹かれました 。すみっコぐらしの個性溢れる仲間たちにも魅力を感じ、製作を決めたのです。
完成までのプロセスは、実にシステマティックです。まず木製パネルを正方形につなげた枠内に、雪を詰め込みます。集積し、「巨大な豆腐の塊」(安齋さん)のようになるまで踏み固めた後、チェーンソーなどで切り出していくのです。
「毎回、郵便局周辺から寄せた雪を活用しています。高さ3メートル、幅と奥行き7メートルくらいの範囲で積み上げることが多いですね。ある程度キャラの形が見えてきたら、バーベキュー用の網などを使って削っていくんです」
今回の二基向けには、10トン分の雪をかき集めました。製作期間は1週間ほどです。表現上、とりわけ意識した点に関して、顔のパーツの「比率」を挙げます。
「顔全体における目や鼻、口のサイズや、各部位同士の距離に気を遣いました。 ここを間違うと、表情が崩れ、元のキャラと似ても似つかなくなるからです。関連画像やフィギュアといった参考資料を何度も確認しつつ 、位置を調整しました」
原作の雰囲気を再現する工夫も凝らしています。
ポストモルカーの両目は、ふくらみのある円形に加工した雪を黒タイツで覆い、ハイライト部分に白いフェルトを貼り付けました。裏側はノコギリなどで削って突起を残し 、本体側に開けた穴にはめています。
すみっコぐらしのキャラも、フェルトなどで目を、書類のとじひもで糸状の口を表し、「らしさ」を盛り込みました。親子で進める雪の集積作業と違い、整形過程の仕上げ を担うのは安齋さん一人。知力と体力を総動員した傑作と言えるでしょう。
ところで、なぜ雪像を作り始めたのか? きっかけは、1997年の冬までさかのぼります。
安齋さんはある日、自宅の屋根から落ちてきたつららを目にしました。「何となく、キリンの首に似ているな」。そう思い、近くに積もっていた雪で、高さ40センチほどのキリン像をこしらえました。これを見た息子たちは大層喜んだそうです。
「ただ捨てるより、雪を楽しく利用できそうだ」。翌年の冬に、「アンパンマン」などの雪像や簡易なソリ滑り場を、道路を挟んだ自宅敷地内に設けると、近隣の子どもたちがうれしそうに遊んだといいます。
成功体験を受けて、安齋さんは雪像を毎年生み出し続けました。日本郵政から委託を受け、簡易郵便局長となった2010年以降も、従来と同じ場所に展示します。 いつしか、冬の風物詩として、ドライバーたちの間で認知が広がっていきました。
とはいえ、楽な仕事ではありません。かつて、スノーダンプ(雪を手押しして運ぶための、ちりとり型の器具)で夜通し雪を移動させた結果、体重が7キロ落ちてしまったそうです。4年前に小型除雪機を導入し、ようやく省力化に成功しました。
郵便局長や町議としての業務と並行するため、「時間をやりくりしながら、何とか続けている」と安齋さんは語ります。
心身共に酷使する雪像作りですが、手を引こうと感じたことはないのでしょうか? 尋ねてみると「もうそろそろやめてもいいかな、と何度も考えました」と苦笑しつつ、こう説明しました。
「毎年喜んでくれる人たちの姿を見ると、続けなきゃなと思い直しますね。冬場はイベントが少なくなるので、地元紙などのメディアが盛り上げてくれます。それに、新しい加工技術を考え出すのも楽しい。私自身が、やっぱり好きなんですよ」
安齋さんによると、その後雪解けが進み、雪像は少し小さくなったといいます。これから修繕すると共に、ポストモルカーの中に乗り込めるよう、窓部分をくりぬく予定とのことです。
一連の作品が、広く注目を集めたことについては、次のように話しています。
「真剣に雪と向き合った成果を評価してもらえて、とてもうれしいです。今年も頑張って作って良かったと思います。現地に来て、見て、触って楽しんでもらえたなら、感無量ですね」
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