ネットの話題
課題が間に合わない!絵の4分の3に「ぐるぐるマーク」苦肉の策に喝采
満を持して実現「発想の勝利」
ネット上を、一枚の絵が賑わせています。ある美大生が、進級用の課題向けに手掛け、そのデザインが秀逸過ぎると喝采を浴びたのです。「提出の締め切りまでに、絶対完成しない」。追い込まれた末、捻り出したという〝苦肉の策〟について、作者に聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
「課題の絵が絶対に間に合わないので、『ちゃんと描いたけどデータが重くて読み込めない』で乗り切ることにした」
今月18日、そんな文言と共に、写真がツイートされました。写っているのは、壁に立てかけられた絵です。
絵の上部を埋めるのは、薄い水色の空に浮かぶ、赤い風船と白い雲。いずれものっぺりとした印象を受ける、シンプルな色彩です。これと対照的に、リアルな絵柄で描かれた、中年と思われる男性の眉から上の顔が、手前側に見えます。
極め付けは、画面の四分の三ほどが真っ黒に塗り分けられている点です。男性が描かれた部分との境界面は、モザイク状になっています。更に中央部に目を移すと、白やグレーの階調で表現された、円形に並ぶ目盛りのようなマークが見えます。
これはスマートフォンなどで、ウェブサイトを閲覧する際、待機中であることを示しています。ツイートの文章通り、サイトの情報量が多すぎて、なかなかイラストが読み込まれない状況を表しているのです。
「見るだけで血圧が上がる」「発想の勝利、天才的だ」。写真を見た人々からは、前向きな反応が相次ぎました。26日時点で、33万以上の「いいね」が付き、リツイート数も5万を超えています。
苦し紛れとも思える、今回のアイデアは、どのようにして生まれたのか。絵の作者で、愛知県内の美術系大学3年生・ももにくすさん(21・ツイッター:@momonicus)を取材しました。
ももにくすさんは、大学で油画を専攻しています。デジタルアートやアニメーション、インスタレーションなど、表現手法についても幅広く学んできました。話題を呼んだ絵は、進級用の研究制作課題として、F15キャンバスに描いた油彩画です。
「これまでの学習成果を活かし、自由に発想して良いという、ある意味難しい課題でした」
いわく「データの読み込み中」というコンセプト自体は、2年ほど前に思いつきました。「静止画に時間性を持たせるには、どうすればよいか」と思案した結果といいます。
「今回は、実際に課題提出の締め切りが迫っていました。『普通に絵を描くのは、もう無理だ』。そう悟り、温めてきたアイデアを、満を持して実現することにしたんです」
気をつけたのは、可能な限り写実性を追求すること。読み込み中の様子が現実味に欠けると、ただふざけているだけに見えてしまうからです。そのため、絵が上から徐々に表示されていく途中経過を、分かりやすく再現しました。
「モチーフは、フリー素材のおじさんを参考にしました。出来上がりが、より気になるように、おじさんの絵柄と、背景のタッチとのギャップを持たせています。構図が始めから決まっていたので、完成図は私にも分かりません」
課題の絵が絶対に間に合わないので、「ちゃんと描いたけどデータが重くて読み込めない」で乗り切ることにした pic.twitter.com/B7VStuLSPh
— ももにくす (@momonicus) January 18, 2022
ユーモアと芸術の境目を、巧みに攻めた作品は、どう評価されたのでしょう?
担当教授の反応について、ももにくすさんに聞くと「絵自体は面白いと好評でした」。ただ制作に半年ほどかけながら、完成した作品数が少ないと批判されたといいます。
背景には、学業に加え、イラストレーターとしても活動している事情があります。大好きなウーパールーパーのデフォルメイラストを、ツイッターアカウント「人生はウーパールーパー」(@Axolotl2013)上で発信してきました。
イラストはグッズ化されるなど好評で、忙しく課題に手が付けられなかった、と省みます。
教授に経緯を説明したものの、合否はまだ出ていないそうです。とはいえ、今回の絵が人目に触れたことに、ももにくすさんは喜びを示しました。
「たくさんの方々から反響をいただき、とてもうれしく思います。(作風を)まねしたいとの声もありましたが、今回はあくまで自由課題です。写生画など制限のある課題で、似たような絵を描き、先生方を困らせるのはやめてください」
これから、どのような作品を手掛けていきたいですかーー。最後に尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。
「今回のように適度にふざけることで、楽しく制作ができれば良いなと思っております。今後も、常識にとらわれない表現に挑戦したいです」
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