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同級生の「馬場君」が国会議員に 20代議員にぶつけた率直な疑問
「落選してたら?」「若さだけでいいの?」
同級生の「馬場君」が国会議員になった――。今回の衆議院議員選挙で、20代議員が誕生しました。福島2区から立憲民主党公認で立候補し、比例復活で当選した馬場雄基さん(29)です。彼とは大学時代の同級生で同い年。授業や学園祭で、政治の議論を交わしたことを覚えています。「落選したらどうしてた?」「若いってだけでいいの?」。記者になった私は、同じ20代が選挙で感じた率直な疑問をぶつけてみました。(朝日新聞記者・木佐貫将司)
――20代の立候補。周囲の反応はどうだった?
「えっ」という驚きが多かったかな。4月から福島市を拠点に4つの仕事を掛け持ちして、立候補会見をしたのが6月24日。もともと政治家も選択肢の一つだったけど、それにしても「早い」と。親にはかなり心配されたな。政治の世界に不安があったんだと思う。
――選挙活動はどんな感じだった? 中には厳しい声もあったのでは……。
リアルでもSNSでも、ずいぶん批判された。「何もやっていない青二才が!」なんて言われたり。自民党候補は大臣経験者で、「実績」を前面に押し出してきていた。でも未熟なのは当然だとも思うから、割り切った。よく指摘される社会常識や経験のなさは、自分自身選挙で痛感したし。
でも有権者は18歳以上。一番若い有権者と僕たちとでは10歳離れている。そういう意味では決して「僕は若いわけじゃない」とも思っていた。「ポケモン」のイメージだって僕らと違う。僕たちは「金銀」くらいだけど、10代には多分ピンとこない(笑)。
――20代が選挙に出ると何かと注目される。でも正直、同じ20代からみると「結局年配の人が、若い人を消費しているだけなんじゃないか」という気にもなってしまう。「後ろに誰かいるんじゃないの?」みたいな批判もあったのでは。
それ、ネットでめちゃくちゃ言われた。意識しなければ、きっと僕も「消費」されていたと思う。例えば選挙中、公約について周囲から「こういう風に書きましょう」と指導されそうになったことがあって。でも僕は「自分でやります」と答えて、政策集は自力で取り組んだ。すると周囲も「自由にやってください」となった。
有権者のためになるなら、議員の年齢なんて関係ない。だから今後も実力をつけて、「若い人は1人じゃ何もできない」という意見に、結果で示していきたいと思う。がむしゃらに現場をまわって、住民との対話を大切にしていきたい。
あえて言うなら、「若いことは武器じゃない」と思う。もちろん、多様な声を政治に届けるためにも、20~30代の若い人に政治に挑戦してほしいとは心から思うし、応援もしていくつもり。25歳の女性候補として注目された岐阜5区の今井瑠々さんみたいに、志のある人は政党や考え方に関係なくいるのだから。
――「若いことは武器じゃない」というのはわかる。でも一方で、志のある若い世代が選挙に出るのは難しい。仕事を失うリスクもある。実際やってみてどう感じた?
資金は政党が補助してくれるけど、選挙スタッフを集めるのが特に大変だった。政治と距離を保ちたがる日本の風潮もあるのかもしれない。僕には地盤も看板もないし、立憲民主党の地元議員もかなり少ない。
辻立ちは1千回はやったけど、屋内の演説はほぼ1回だけ。人が全然集まらないから(笑)。組織力の強さが選挙を左右することは、嫌というほど知った。それに、やっぱり公私の区別がないから、かなりの覚悟が必要だと思う。
――それは地方組織が弱いという、立憲の課題でもありそうだね。
だからこそ、切り開いていくやりがいもあるんじゃないかな。
――小選挙区で落選し、比例で復活当選したね。復活当選がなかったらどうしてた?
小選挙区で落選したときは、すっごく申し訳ない気持ちだった。応援してくれた人たちがいて、辻立ちで手ごたえもあったから。比例で復活し、「やった」という感覚はほんの一瞬。でも、総じて晴れやかな気持ちにはなれなかった。だって負けは負け。自力じゃない。スタート台に立てたことは光栄だけれど。
落ちてたらどうしたかな……。ここまでやったんだから「裏切れないな」とは思っていたけど……。来年の参院選には、年齢的に出られないけど。すぐには答えられないな。
――立憲は若い世代から支持を得られていない。朝日新聞の衆院選出口調査分析で、比例区の投票先で「立憲」と答えた10代は17%、20代は15%。「自民」の10代42%、20代40%に大きく離されている。
選挙中、小中高生から人気を集められた感触はあるんだけど、19~35歳の方には刺さらなかった。もちろん僕自身に理由があったのかもしれない。党の支持が集まらない理由ははっきりわからない。でも、選挙中に何度も「立憲は批判しかしない」と言われた。
あと、体感的に9割くらいの人が「立憲民主党」ではなく、「民主党に入れますね」と言ってきた。自民党批判の受け皿を、かつての「民主党」に期待している人がまだまだいる。立憲への浸透度や期待感が十分でないのかもしれない。
――立憲は選挙で議席を伸ばせず、枝野代表も辞意を表明した。どうやって立て直したい?
僕にできることは、20代の議員として、若者に寄り添いやすい立場をいかすこと。「若者は政治に関心はない」と決めつけたくない。今、開いているオンラインイベントでは「同じ目線で、対話する」ことを意識している。「いっしょにやってみた」という風に、今後も政策をみんなで議論していきたい。
政治が「本当のことを言ってくれない」という思いが、若い人の政治離れにつながっていると考えている。僕たちは「嘘をついてはいけない」と大人から教わったけれど、残念だけど今の政治はそうなってない。そこを解決できるかが課題だと思う。
――大学時代、地元福島の復興についてよく語っていたね。議員でどう取り組む?
僕らは東日本大震災の年に大学に入学したよね。僕はその時期に東京に出るために地元を離れたんだから「逃げた」とみられても仕方ない。だからこそ、海洋放出など原発の問題も含め、地元住民との対話を重視して、福島の復興を進めていきたい。
同級生の「馬場君」が20代で国会議員に――。若い世代の政治参加の必要性が叫ばれる中、20代からみた政治の世界を聞いてみたいと思い、特別国会のため東京駅に到着した11月9日朝にインタビューしました。
彼に直接会うのは久しぶりでしたが、その顔つきには、自信と不安が入り混じっているようにも見えました。
「若さを生かしたい、でも若いだけではだめ」。取材を通じ、そんな葛藤の中で、勇気をもって政治の世界に飛び込んだ同級生の姿がみえてきました。「青二才」「社会常識がない」……。そんな言葉があったと聞くと、若い人が政治に入っていくのはまだまだ難しい状況だとも感じました。
今後、彼がどんな姿を国会や政党、地元で見せてくれるのか。若い人が政治に挑戦する上で、一つの目安になってくるのではないでしょうか。
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