連載
#17 眠れぬ夜のレシピ
「ある日突然走れなくなった」 人生を「列車」に例えて伝えたいこと
「止まっても大丈夫」
「ある日突然、全く走れなくなってしまいました」。SNS作家・午後さんが、人生を「列車」に例えて、苦しかった時期を振り返りました。自ら「脱線」をして、気づいたこと。どこかで同じような孤独を抱えた誰かへ、手紙を添えて、お届けします。(漫画・コラム、午後)
午後さんのプレイリスト
憂鬱な気持ちになる夜。午後さんの身近にあった音楽を教えてもらいました。
あなたの夜の隙間も、少しでも埋められたら、幸いです。
こんばんは、午後です。
今夜の漫画の話は、今から数年前の出来事になります。
基本的に私は、数年が経過しないとそのことについて描くことができません。大抵、描きたいと思うことは自分の人生において起こった大きな事件ですが、それが大きければ大きいほど、充分に咀嚼や消化をするのに時間がかかるためです。
しかし、今夜の話はいまだに自分の中でうまく解決できていないことなので、要領を得ない話になるかもしれません。いま、この文章を書きながら、数年に渡る考察を整理している部分もあります。
私の場合は、ある日突然、電車に乗れなくなりました。正確には、電車に乗ること自体は難しくないのですが、電車に乗って行く先、そこに待ち構えている義務や課題、人間関係、その他全てが、とてつもなく無理に思えてしまったのです(日本語が変ですが)。
自分のあらゆる義務、それがどんなに小さな義務でさえ、果たすことが心の底から厳しく感じ、何のために頑張れば良いのか、今までどうやって頑張ってきたのかが分からなくなりました。 本当に、何もかもが分からなくなりました。
乗り換えをするためにホームを歩いていると涙が滲んで(この頃は感情の制御もできなくなっていました)動けなくなりました。それからしばらくの間は、寝たきりの生活を送りました。
人間は、本当にある日突然壊れます。「ちょっと大変だったな」「少し疲れたかもな」と思っていたら、あっという間でした。何事も早期発見が大切なので、今きついと思っている人がもしいたら、月並みな言葉ですが、本当に休んでほしいと思います。
さて、あの頃と比べたらとても良くなりましたが、今でも時々、調子が悪くなることがあります。完全回復というのは難しく、目指すべきは寛解で、そのために、今は原因を調べている最中です(作中では「レールの歪み」として表現しましたが、探ってみると幼い頃の発達の様子にまで遡り、複雑に絡み合うおびただしい量の可能性と課題に、やや途方にくれているところです)。
しらみつぶしに調べるしかありませんが、誰かが残した知見と出会えることは喜びでもあります。それが例え自分の解決したい出来事と直接の関わりがあっても無くても、出会いは財産になります。そういった経験を通して、徐々に寛解して行くのだと思います。
何年も濃密な苦悩や孤独に向き合っていると、最初は苦痛だった作業もだんだんと慣れてきて、むしろ親しみを抱くようになってきました。
私の苦しみも悲しみも孤独も、私だけのもので、喜びや幸せと同等に尊いものだと、最近は思います。ポジティブな感情と同じくらい、ネガティブな感情もいつか大切にできるようになれたらいい。人を成長させてくれるのは、ポジティブ出来事だけではないからです。
とはいえ、そんな究極に孤独な作業は、たまに闇に飲まれそうになります。端的に言うと、ひとりではとても大変な作業です(ひとりでしか出来ない作業ではあるのですが)。
そんな時は、私の描いたものを思い出していただけたら幸いです。
私はずっと、自分が抱えたものと同じような地獄の解毒方法を考え続け、描き続けると思うので、よかったら足がかりに利用してください。
最後に、私にとって解決の糸口が見つかった本や、漫画を3つご紹介します。
・『それでいい。』(細川貂々著、水島広子著、創元社)
・『違国日記』(ヤマシタトモコ著、祥伝社フィールコミックス)
・『愛しすぎる女たち』(ロビン・ノーウッド著、中公文庫)
それでは、今夜も素敵な夢を見られますように。おやすみなさい。
午後
SNS作家。2020年5月からTwitterに漫画を投稿をしている。「眠れぬ夜はケーキを焼いて」の続編「眠れぬ夜はケーキを焼いて2」(KADOKAWA)を10月28日に上梓する。Twitterアカウントは@_zengo。
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