ネットの話題
2人だけの「おうち結婚式」 2千円ワンピ、バージンロードは画用紙
コロナ禍で友人や家族にも会えないなか、2人だけの「おうち結婚式」を挙げたお話です。
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コロナ禍で友人や家族にも会えないなか、2人だけの「おうち結婚式」を挙げたお話です。
年下の恋人と5年半付き合って結婚した漫画家の緑丘まこさん。コロナ禍で友人や家族にも会えないなか、2人だけの「おうち結婚式」を挙げた。約30分の式は思わぬ発見の連続だった。
今年3月、緑丘さんは2LDKのマンションに引っ越した。
年下の恋人・サトル君とは5年ほどの付き合い。
ワンルームマンションでの2人暮らしは、ケンカが絶えなかった。
普通に会話しているだけで隣人が壁をたたいてくるので、常に小声で話すようにしていた。
そんな環境だったことも影響していたのだと思う。
新居で気持ちにゆとりができたからか、2人の将来について話し合うことが増えた。
引っ越して3カ月ほど経ったころ、サトル君からプロポーズされた。
ベッドの中で、ふとした瞬間に「結婚しよう」と告げられた。
きれいなレストランではないし、婚約指輪もなかった。
それでも迷うことなく、「はい」と答えた。
コロナ禍で、実家には長いこと帰っていない。
お互いの両親には、電話で結婚することを伝えた。
サトル君の両親に会ったことはないが、電話では何度か話したことがある。
すでに話は伝わっていたけれど、改めて報告する時は緊張した。
自分は緊張すると、電話なのについつい身ぶり手ぶりを交えてしまうらしい。
サトル君は横で聞きながら、ジェスチャーをまねして冷やかしてきた。
「次の年末年始は、ワクチン接種も済ませて2人であいさつに行きたいです」
将来の義母にそう伝えると、とても喜んでくれて「末永くお幸せに」と言ってくれた。
感染を避けるため、友人と会うことも控える日々。
結婚式を挙げることはまったく考えていなかった。
それでも、ふとした時に姉の花嫁姿を思い出した。
ウェディングドレス姿がきれいで、バージンロードを歩く間、姉はずっと泣いていた。
母はその姿をじっと見つめ、父が涙を流していたのが忘れられない。
「私もウェディングドレスを着たかったなぁ」
そんなことを考えていたら、ふとひらめいた。
そうだ、2人きりで「おうち結婚式」を挙げればいいんだ、と。
挙式日は、婚姻届を出す8月2日。
私は白いドレスを着てベールをかぶる。
サトル君はスーツ姿で、リビングから寝室までバージンロードを敷いて一緒に歩いてほしい。
そう説明すると「はいはい、じゃあ俺、押し入れにしまったスーツを探さなきゃ」と笑ってくれた。
中学時代からの友人たちのLINEグループにも、おうち結婚式のことを投稿した。
すると、フラワースクールの講師をしているナミちゃんが「いつするん?」と返してきた。
「8月2日やで」と答えると、「ブーケ作って贈りたい」と返事が来た。
当日の午前中、ナミちゃんからの贈り物が届いた。
中に入っていたのは、花嫁用のブーケと新郎用のブートニア、そしてこんな手紙だった。
「結婚おめでとう! いっつも友達のこと考えて、優しくて、アホで、おもろい。みんな大スキやで。ずっと幸せでいてね」
式が始まる前なのに、読みながら泣いてしまった。
サトル君は髪を切りに行ったので、その間にバージンロードを準備。
100円ショップで10枚入りの赤い画用紙を5セット買って、テープで貼り合わせた。
作業中、また玄関のチャイムが鳴った。
今度は実家の両親からの荷物だった。
中に入っていたのは、2人のパジャマや花柄のワンピースといった衣類、そして真珠のネックレスとイヤリングだった。
よく見たらフカヒレスープまで入っていたが、割引の値札をはがしていないあたりが母らしいなと思った。
みんなの優しさに包まれているんだな、と思っていたらサトル君が帰宅した。
この日のために数年ぶりに縮毛矯正をして、サラサラヘアになっていた。
2人でバージンロードの続きを作り、両脇には列席者としてぬいぐるみたちを並べた。
この日の衣装は、通販で2千円で買った白いワンピースと1千円のベール。
サトル君に見られないよう、洗面所で支度をした。
ベールは500円をケチってコームなしにしたため、自分でピンをつけて留める必要があった。
が、なかなかこれがうまくいかず、20分ほど悪戦苦闘。
結局つけ方がわからず、そのままかぶるだけになった。
「準備できたから、ウェディングソング流して入場するね」
そう伝えて、スマホでYouTubeを開いて選曲し、再生ボタンをタッチした。
すると、大音量で動画再生前の広告が流れてしまった。
気を取り直してリビングに向かうと、サトル君は笑顔だった。
後で聞いたら、見慣れない衣装でいつもより良く見えてうれしかったそうだ。
リビングから寝室まで敷き詰められた50枚の赤い画用紙。
一歩ずつ踏みしめながら進んでいたら、ベールがずり落ちてしまった。
自分でも何がおかしいのかわからないけど、笑いが止まらなくなった。
◇
バージンロードの先に待っていたのは、ドラえもんのぬいぐるみ。
手前で止まると、サトル君が新郎と神父の一人二役を始めた。
「健やかなるときも、病めるときも、妻を愛し、永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
リハーサルなしの即興演技がおかしくて、またまた笑いが止まらなかった。
むかし母からもらった宝物の指輪を、結婚指輪の代わりに左手の薬指にはめてもらった。
そして、誓いのキス。
直後に、サトル君が買ってきた花かごをプレゼントしてくれた。
「高価な指輪はいらないから、お花がほしいな」
プロポーズされた後に話したことを、ちゃんと覚えていてくれたんだ。
美容室に行った帰りに花屋に寄ったらしい。それで帰りが遅かったのか。
おうち結婚式の時間は30分ほどで、14時前にはお開きになった。
式の様子を撮った動画や写真を、家族や友人にLINEで送った。
「バージンロードがもう最高やわ」
「一人二役で言ってて、もう大笑いやったわ」
「爆笑で緑丘ちゃんたちらしい結婚式だね」
たくさんのメッセージが寄せられ、新郎用のブートニアを勘違いして自分が着けていたことも突っ込まれた。
最高に良く撮れた1枚をドヤ顔で送っていただけに、ものすごく恥ずかしかった。
それでも、ナミちゃんからのこんなメッセージに心が温かくなった。
「今日は2人でゆっくりお祝いかな。気持ちは一緒に祝ってるよ」
2人だけのおうち結婚式のはずが、たくさんの人から祝福を受ける結果になった。
にぎやかで、楽しくて、最高な式になった。
式を終えた後、着替えた2人は役所に向かい、婚姻届を出した。
帰り道、スーパーに寄って自分たちが好きなお総菜を買い、自宅で2次会を開いた。
この日のために、親友から贈られたシャンパンも冷やしておいた。
おうち結婚式のことを思い出しながら、気持ち良く酔うことができた。
お酒がそれほど強くないサトル君は、2時間もしないうちにウトウトに。
そんな姿を見ていたら、自分も眠くなってきて18時すぎには寝てしまった。
◇
コロナ禍で家族や友人に会えず、うつうつとした気持ちで過ごした日々。
表向きは明るく振る舞っていたけれど、1人で泣いた日もあった。
でも今は、サトル君が家族として隣にいる。
結婚してから、前よりももっと好きになった。
サトル君は「落ち着いたら結婚式しよう」と言ってくれるけど、もういいや、という気持ちもある。
私は今、感謝してもしきれないくらい満たされているから。
『ふたりだけのおうち結婚式』その1#漫画が読めるハッシュタグ pic.twitter.com/OIHSx3NXEz
— 緑丘まこ (@makoishappy777) August 30, 2021
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