連載
#17 SDGs最初の一歩
料理研究家リュウジさん「売名と言われてもいい」フードロスの持論
続けるために必要な「自分へのメリット」
Twitterのフォロワー180万、YouTube登録者190万の人気料理研究家リュウジさんは、日々、電子レンジだけで完結する料理など超簡単なレシピを紹介しています。SDGsには正直、詳しくなかったというリュウジさんですが、実は防災やフードロスについて熱心に取り組んでいます。その理由は「自分のため」。社会課題に取り組むことを大げさに考えず「売名も悪くない」と言い切ります。そこには、続けてこそ意味があるという思いがありました。(FUKKO DESIGN 木村充慶)
――リュウジさん、SDGsってご存じでしたか?
実はあまり知らなかったです。魚のマークのもの(14:海の豊かさを守ろう)は見たことがありましたが……。
――持続可能な開発目標ということで、世界の様々な課題がまとまっています。17の目標があるのですが、気になるものはありますか?
「2:飢餓をゼロに」はフードロスとかに関わるところですよね。これは気になります。あとは「14:海の豊かさを守ろう」「15:陸の豊かさも守ろう」も気になります。
――SDGsに詳しくないというリュウジさんですが、インスタント麺を水でも食べる方法や、防災情報などを積極的に発信していますよね。
あれは「世のため人のため」だと思ってやっています。「世のため人のため」に行うことって、最終的には自分の売名になりますからね。嫌な言い方になるかもしれませんが。でも、売名というのは決して悪いことじゃないと思っているんです。「いいこと」が広がって、最終的に自分に返ってきて、さらに、また自分で「いいこと」ができて、また広がって、と循環していくんです。
――「いいこと」を続けるための「売名」なんですね。
とある有名人の方がこんなこと言っていました。その人は売名のために寄付をしているとよく指摘されるそうなのですが、彼は「そうです、売名ですよ。だから、あなたたちもやればいいじゃないですか」と。売名なんだけど、「いいこと」なんで。「いいこと」をして、「いいこと」が帰ってくるから、それは「いいこと」なんじゃないかな。
――SDGsの「2.飢餓をゼロに」について、フードロスに関わるとおっしゃっていましたが、関心があるテーマなんでしょうか?
余っているものを削減していくことで、もっともっと食が豊かになると思うんですよ。もちろん、そのようなムーブメントがしっかり浸透すれば、ですが。ひとつの家庭ですべての食材を使い切れるようにすれば、最終的に色々なものに加工されると思います。いままで無駄にしていた食材たちで一体何ができるかといったら、そうとう色々なものができますよ。
――リュウジさんがフードロスに関心をもつようになったきっかけは何ですか?
偉そうに言っていますけど、ボクも以前はフードロスを出し過ぎてましたね。腐らせちゃうとか、正直よくありました。今はできるだけフードロスを出さないように気をつけていますが、それでも正直まだありますね。
でも、ある時、すごくもったいないなと思ったんです。なので、ボク自身の反省も含めて、その事実を、みなさんにも伝えていくことが大事なんだと思っています。フードロスに気をつけた動画を作ることで、少しでもロスがなくなってほしい。そして、そのロスがなくなった分の食材が色々なものに使われるようになったら、食文化の発展になります。僕一人でできることは小さいことですけど、全員でできたらとてつもないことになると思っています。
――最近のフードロスに関して取り組んでいることとかありますか。
うなぎは食べないようにしています。調べてみたら、うなぎの稚魚の取れる数が年々減っていることがわかって。土用の丑の日にスーパーなどで大量に売られているのを見ると、資源のことが心配になったんです。さんまだって最近では食べられなくなっているわけじゃないですか。昔あれだけ食べられたのに。そういうのをしっかり見て考えて、守っていかなきゃいけないんじゃないかなと思っています。だから、僕はうなぎもいいけど、豚肉で蒲焼きを作ってもうまいと提案しています。
――他にも気になる課題は何かありますか?
食べるものに関して、特に危険なものでもないのに、心配し過ぎる人がいるというのがちょっと気になっています。人が食べているものに対して、「そんなもの食っているんだ?」と指摘するのがフードハラスメントです。
――たしかに、よくありますね。僕も、カップラーメンとか食べているといったら、そのように指摘されたことがあります。
カップラーメンはよく言われますよね。普通のラーメンですらよく言われます。「そんなもん食べたら、死ぬよ」と言う人いるじゃないですか。カップラーメンを構成している要素って、炭水化物と油分と塩分なんですね。炭水化物と油分と塩分って体に必須の栄養素なんですよ。じゃあなんで、それが体に悪いかというと、取り過ぎるから体に悪いわけですよ。
――おいしいものを食べたいというのは根源的な欲求だから、それを控えるというのは持続可能でもないですよね。
こってり料理が好きな人にとっては、カロリーが低いものはカロリーが高いものを食べるためにあるとよく言っています(笑)。
――身の回りにある社会課題には、どう向き合っていけばいいのでしょう?
僕は自分に返ってくるものだと思っています。フードロスだと、それをしっかり理解して活動を続けていければ、自分の仕事にいかせる。そして、フードロスがなくなれば、自分の食生活も変えてくれる。
――自分を中心に考えていいんですね。
基本的には、自分のためでいいと思います。それはすべてのことに言えます。だって、お魚もこのままいったら、食べられなくなる魚がでてきますよね。それって悲しくないですか。フードロスについては、廃棄されている食材をいかせる何かがあったとします。そうしたら、物が安くなったりするかもしれない。余った食材でもっと美味しいものが作られて、それが販売されて、身近で買えるようになるかもしれない。それって生活が豊かになりますよね。良くも悪くも、すべて自分に返ってくるんですよ。
だから、「自分のためにやりましょう」で僕はいいと思います。人のためにやろうと思わなくていい。ボランティアもそうです。自分が気持ちいいから、自分がこういうことをしたいから、という気持ちが必要。人のためにしたいと思うのももちろん良いですが、結局、長続きしないと思うので。
――復興支援のプロジェクトにも参加されていましたよね。
復興支援は、僕にとっての「世のため人のため」とは少し違いますね。あくまでも、被害を受けた方々のためのものなので。でも、復興支援でも、被害を受けたところが復興したら、豊かな食材を食べられるかもしれない。そんなことを見据えながらボランティアすることが大事だと思います。
――たしかに、復興支援でも、自分に返ってくることはありますね。
あとは、ハッキリと言っちゃえば「復興支援をやっていると、やっぱり良い印象を持ってもらえる」というのもありますね。そういうことをネガティブに考える人も多いけど、どっかでそういった思いがあった方が、人は絶対がんばる。「世のため人のため」だけで行動していると、どこかで、「もう、いいや」ってなっちゃう。だから、ボランティアをするとか、「いいことをする」という時に、何が大切かというと、自分にとってどんな利益があるか考えることだと思います。
直接、お金もうけを考えたらダメですが、タレントやインフルエンサーの人はもちろん、個人の人でもそう言う感覚が大事なんじゃないかな。そういう風に思ってやらないと、逆に無責任になる気もします。だから、ボランティアをするなら、「自分にとって何がプラスになるか」ということを考えることも必要なのでは、と思っています。
下心を隠さない痛快さ――取材を終えて
コロナ禍で在宅勤務をし始めた時、大きな台風がきた時、食の問題で炎上した時…。Twitterを見ていると、日々様々な社会課題に出くわしますが、その度に、リュウジさんはその課題に合わせた投稿をして話題になっています。コロナ禍では「お家居酒屋」として、お酒に合う様々な料理を紹介したりしています。
普段は、よっぱらいながら料理を作ったり、歯にきぬ着せぬ投稿をするリュウジさんが、なぜ社会課題に向き合っているのか。それが今回取材をしたきっかけでした。
リュウジさんは社会課題に向き合うのは「世のため人のため」にやっていると言いますが、その意図は「売名のため」と包み隠さず、はっきりと教えてくれました。普通の人であれば、下心はあっても言わないですが、それをはっきり発言するリュウジさんは実に痛快です。
しかし、最終的に社会のためになるという信念があるからこそ、そのような発言をしていますし、それこそが多くの人に共感され、社会のためになるのかと思います。
フードロスについても、一人ひとりがロス削減に努力することで、社会が良くなり、最終的に自分にその利益が返ってくると力説しています。
社会課題の議論になると、どうしても近視眼的に社会への施しだけに目が向かいますが、リュウジさんはここでも世の中を俯瞰(ふかん)して見ているのが印象的でした。
様々な社会課題があふれる日本で、多くの人たちの協力が不可欠になっています。しかし、社会課題に取り組み始めても、なかなか続かないのが現状です。世の中の動きをしっかりと見据えているリュウジさんだからこそわかる、社会課題への持続可能な向き合い方を教えてくれました。
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