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マンガ

「私から育児取ったら何が残る?」思い出した母の姿、葛藤の答えは?

好きなものを手放す日々…思い出した母の姿

育児と自分の生き方、その葛藤を描いた漫画が人気です
育児と自分の生き方、その葛藤を描いた漫画が人気です 出典: ありまさんのツイッター(@arimama_umauma)

目次

子どもが産まれたら、育児のため、自分らしさを捨てないといけない――。そのように葛藤する親御さんは、少なくないかもしれません。この課題に直面した、あるイラストレーターが手掛けた漫画が、SNS上で広く受け入れられています。描いた理由について、作者に直接聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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祖母と同居後、和裁を始めた母

5月12日、「好きなことを持って生きたい」と名付けられた、12ページの漫画がツイートされました。

冒頭、主人公の女性が、大学時代に体験したことが描かれます。ある日、和裁を始めた母。曽祖母に着物を仕立ててもらった経験から、長らく憧れていたのでした。

その様子を見て、女性は喜びつつも、複雑な表情を見せます。女性の祖母と同居を始めたことで、母は自由な時間を持てなくなっていたからです。

出典:ありまさんのツイッター(@arimama_umauma)

「いいねぇ! でも…できるの?」。心配そうに尋ねると、母は笑って「やるよー」。そして、こう話しました。

「おばあさん、今はしっかりしてるけど、将来はほぼ確実に介護が必要になるでしょ」

「お母さんね、介護が終わった後に、『なにもない!』ってなりたくないの」

家族のケアが終わった後に、やりたいことを探そうとしても、きっとすぐには見つからない。だから、早いうちに備えておきたい――。母の言葉は、確信に満ちていました。

「好きなものをちゃんと持っておくの」「自分の人生を生きなきゃね」

出典:ありまさんのツイッター(@arimama_umauma)

「私は、私の人生を生きていきたい」

時が流れ、女性は一児を育てる母となりました。イラストレーターとして、育児絵日記を更新する仕事をこなしています。

「このままずっと描いていたいな……」。笑顔の女性ですが、ふとした瞬間、ある問いが脳裏をよぎりました。

子どもが成長したら、絵日記は作れなくなるでしょう。「私から『育児』を取ったら何が残る?」。かつて母が発した、「『なにもない!』ってなりたくない」という言葉が、記憶の底からよみがえります。

出典:ありまさんのツイッター(@arimama_umauma)

わが子と暮らしやすくなるよう、女性は色々な趣味を手放してきました。「私って何が好きなんだっけ……」。必死に考えても答えが出ません。仕事仲間に相談すると、こんな答えが返ってきました。

「刺しゅうができるじゃん!」

出典:ありまさんのツイッター(@arimama_umauma)

女性は後日、足が遠のいていた手芸店を訪れます。そして刺しゅう糸を手にとっては、その色鮮やかさや、光沢にほれぼれするのです。

「美しいよう、色選び楽しいよ……」。女性は、好きなことを忘れていなかったという事実に、喜びをかみしめました。

そして物語は、こんなモノローグで幕を閉じます。

「今はなかなか時間がとれないけど、大丈夫。だって、好きという気持ちが心にあるから」

「育児が終わっても、私は、私の人生を生きていきたい」

出典:ありまさんのツイッター(@arimama_umauma)

「母であると同時に、私でもある」

「すごく大事なことが描かれていて、泣きそうになった」。漫画を載せたツイートには、そんなコメントが連なっています。19日時点で4.5万以上の「いいね」がつき、リツイート回数も1万を超えました。

「『母であると同時に、私でもあること』『母になったけれど、楽しんでもいいということ』を忘れないようにしたい。そう考えたのが、描いたきっかけです」

漫画の作者で、イラストレーター・刺しゅう作家のありまさん(@arimama_umauma)が語ります。夫・2歳の娘と暮らし、子育てをしながら感じたことを、コミックエッセーとしてウェブメディア上で公開してきました。

【関連リンク】ぎゅってweb(ありまさんの執筆作品一覧)

育児を通じ、たくさんの喜びを授かってきたという、ありまさん。娘に愛情を注ぐ中で、好きな衣服やアクセサリーを身につけたり、一人でボーッとしたりといった、それまでの生活スタイルが自然と変わっていきました。

そうした自分自身の変化を受け入れ、楽しむ一方、「今までの私ではなくなる」という感覚を抱いたこともあったそうです。

「好き」がわかって、ホッとした

そんな日々の中で、ありまさんは、好奇心旺盛な母の姿を思い出します。

手先が器用で、木に色とりどりの花や動物を描くトールペイントや、ガーデニングが大好き。刺しゅうも、自ら教室に通い、やり方を習得しました。祖母の介護が始まって以降は、解説本を読んで独学しつつ、自宅で楽しんでいたそうです。

ありまさんも、中学生のとき、刺しゅうに興味を持ったといいます。本格的に挑戦したのは、大学時代でした。

就職活動を目前に控えた頃、漫画で描いた母との会話を経て、「自分も打ち込めるものが欲しい」と考えたありまさん。やがて刺しゅうの専門書とにらめっこしつつ、手を動かすように。雑貨店やイベントで完成品を販売するほど、夢中になれました。

育児が終わった後、私は何を楽しむのだろうーー。

子育てに慣れた頃、頭に浮かんだ疑問は、ありまさんを手芸店へと導きました。久しく触れてすらいなかった、色とりどりの刺しゅう糸を目にした瞬間、「美しい」という感情が心の中に湧き上がったそうです。

「自分は変わってしまった、と思っていた。でも、『好き』という気持ちが、確かに残っていました。やりたいことがあると気づき、気持ちにはりが出たと同時に、ホッとしました」

難しく考えず、楽しめばいい

ありまさんは現在、イラスト作りと並行して、刺しゅう作品を手掛けています。娘のため作った月齢の数字入りぬいぐるみや、キャラクターのワッペンなど、種類は様々です。制作方法をイラストにまとめ、ツイッター上で公開することで、創作の楽しさも伝えています。

どんなときも自分らしくあるためには、何を意識すればいいのでしょうか? ありまさんに尋ねると、「私にもわからない」としつつ、次のような答えが返ってきました。

「難しいことは考えず、楽しめばいいのかな。『自分探し』をしてしまうと、余計に自分を見失うような気がします」

そして、漫画が話題になったことについては、こう語りました。

「たくさん共感のお言葉をいただけて、とてもうれしかったです。悩んでいるのは私じゃないんだなと知られて、救われるような気持ちです。ただ作品を通して『自分には趣味も何もない、だからだめだ』とは思わないで欲しい、とも感じます」

「ポジティブになれないときに、私が今回描いたような漫画見ると、毒になるかもしれません。フェーズごとに、心に寄り添い、励ましてくれるような言葉と歩いていきたい。今は、そう思っています」

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