IT・科学
女子だけ教室に残され始まった授業…相談できなかった「ぐぎぎ」
「女子同士助け合いましょう」で本当によかったの?
中学の頃はよく生理痛になった。ぐぎぎ、、、と下腹部を押さえて痛みに耐えながら授業を受けていた。生理の症状は個人差があって仕方ないものだから、このような症状にずっと付き合うものと思っていた。大学生になって、当時のことを母に話すと「保健室とか行って休ませてもらえば良かったね」と言われた。たしかに……。生理痛は我慢するもの、対処できないどうしようもないもの。あの頃の私は、なぜ、そう思っていたのか。自分でも知らなかった生理のことを今になって調べてみた。(大学生ライター・夢比良風和)
ある日突然。
「消えたい。モヤモヤする。」
自分でもなんでこんな感情になるか分からない。数日後、生理がきた。
「これが原因か、、、」
中学の頃は、生理痛がひどくて机にはいつくばるようにして授業を受けていた。今なら婦人科に行けば良かったと思うが、当時の私にはそんな発想はなかった。
非常に受動的に生理の知識を得ていた私の情報源は友達から少し聞くか、学校で教わるかであった。
この知識の無さは私だけだろうか。みんなは生理についてどの程度知っており、どんな意識を持っているのだろうか。
まず、生理前のモヤモヤ気分、PMS(月経前症候群)についてはどうだろう。
PMSとは月経の3日から10日程度前に起こる心身の不調のこと。私は生理周期が不安定だったため、生理前がいつなのか分からず、出血が起こっていない時に生じるこの症状はとても厄介だった。
ある日、普段なら気にならない弟の言動に私が「うるさい!」と怒鳴り突然、泣き出してしまった。母は理解したようでそれとなく対応をしてくれたが、今も忘れられないのが、その時の弟の困惑した表情だ。「生理」や「PMS」というワードは弟の頭に一切浮かんでいなかったのだろう。
男性でも生理の知識を持つことで役に立つことがあると思う。情緒不安定で弟に当たってしまったことは非常に申し訳ないが、、、。
弟のように、生理について詳しくない男性は珍しくない。
インターネット経由で、15歳以上の10代20代の男女195人に対し、生理についてのアンケートを取ってみた。アンケートは、答えづらいと感じる人がいることを考え、Googleフォームを用いて匿名でおこない、性別年代は自己申告制とした。母数は少ないが、率直な声を拾うことを目的にした結果、筆者の問題意識と重なる回答が得られたので紹介する。
PMSについて、女性では「名前も症状も知っている」が一番多い51%だったのに対し、男性では「知らない」が40%と最も多かった。
■回答者の内訳
10代(男性78人、女性84人、無回答1人)
20代(男性11人、女性21人、無回答0人)
生理前のモヤモヤであるPMSもつらいが、日常生活に支障をきたすようなひどい生理痛におそわれる月経困難症も、人によっては通学や出勤ができなくなるくらいきつい。
アンケートでは、依然として男性では「知らない」が多かったが、「名前も症状も知っている」人はPMSよりも多かった。
一方、女性では、PMSと月経困難症の周知の差はさほど見られなかった。
生理の症状は女性の身体症状であるが、男性が無関係でいられるかというと、けっしてそうではない。特に女性の社会進出が進み、同じ職場で同じ役割を果たすことが求められる現代では、男性の理解がより一層重要になってきている。
あすか製薬のインターネット調査によると「女性が抱える女性ホルモンによるつらい症状を理解したい」という男性は約80%にのぼる。
私が実施したアンケートでも「生理について理解したい」、「どちらかというと理解したい」という人は98%を占めていた。
しかし、生理の知識についての結果をみると「知らない」と答えた割合は多くなってしまう。
なぜ、理解したい人が多い中で知識は広まらないのだろうか。
そこで、思い浮かぶのが、学校での光景だ。
知り合いの大学生の女性は、初めて生理を習った小学校の頃について、次のように当時の心境を語った。
「女子だけ教室に残ってすごく緊張したのを覚えている。誰かがやらかして呼び出しをくらっているような感じで。何が起きるのって」
2016年11月~2017年7月に大学生・大学院生462名に行われた調査(石井里佳、木山慶子「学習者からみたよりよい性教育についての一考察 大学生における性教育の既習状況と学習ニーズに着目して」群馬大学教育学部紀要/2018年1月31日)では、「女子は男子よりも特出して小学校時の性教育既習経験が多く印象に残っている」と指摘している。
男女が一緒に学ぶ場合であっても、生理についての教材の情報自体が不十分だという指摘もある。
そんな、生理のイメージを変えようとする動きも生まれている。
ユニ・チャームの「#NoBagForMe」プロジェクト は、企業向けの生理研修やSNSでの発信を通してカラダの不調や不安を気がねなく話せる社会を目指している。対談形式の記事はポップな雰囲気で読みやすく、また、サイトのデザインからも親しみやすさを感じる。
日経BP総合研究所の「生理快適プロジェクト」は、サイトでの情報発信やセミナーを通して、女性が働きやすい社会を目指している。カラダの不調で悩む女性を企業が支援する必要性を訴え、個人だけの問題ではなく組織の問題として取り上げて、生理が及ぼす仕事への影響も伝えている。
だが、残念なことに、私が実施したアンケートでは、このようなプロジェクトに対する認知度は低く、生理について学べるネット上のサイトの存在も知られていないことが浮かび上がった。
社会を変えるために重要なのは、受動的な人たちにも認知を広げることだ。
特に男性は受動的になりやすいが、その中でも、生理に関する知識を知っている人と知らない人がいる。何か違いがあるのだろうか。
PMS・月経困難症について、両方とも症状を知っている知人男性と両方とも知らなかった知人男性に直接、話を聞いた。
「知らなかった」という男性は「中学の頃に保健の授業で身体の仕組みについて習った記憶はある。症状とかは知らなかった。母親が辛そうとかいうのも見ていない」と明かした。
一方、「知っている」男性は「女友達に生理でイライラすると言われたことをきっかけに、それ(イライラ)が生理によるものと知った。自分にイライラをぶつけられても、どうにもできないから、正直戸惑いもしたけど…… 」と話した。特に月経困難症については「生理痛が重い彼女のこともあって、調べた。彼女がそのことを言うのを遠慮してたし、少し聞きづらかったから。自分で調べてみた」と語った。
生理について知るきっかけが、学校以外の場で、自分から調べていたことが印象的だった。生理によって困っている女性が側にいたこと、また、女性側がそれを話したことがポイントだと思う。
しかし、女性自身、生理について自分から話しづらいと感じる人は少なくないのが現実だ。私が実施したアンケートで、「男性に理解してもらいたい」と回答した女性の中にも「男性に積極的にしゃべりたいとは思わない」とコメントをくれた人がいた。
では、当事者が話したくないと思っている状況において、男性をはじめとする周りの人が理解をしていくためにはどうすればいいだろうか。
今の学校現場で全てを網羅できないのだとしたら、学校以外の、たとえば信頼できるネットの情報と組み合わせるのはどうだろうか。
生理について聞きづらいと感じても、ネット上の情報を知っていれば、理解を深めることができる。
学校教育で学んだことが全てと思い込み、乏しい生理の知識ゆえに苦しむ人もいなくなるだろう。
企業では新入社員研修で取り入れることで、生理に理解ある職場を作ることができる。すでに「#NoBagForMe」プロジェクトの一環として、企業向け研修プログラム『みんなの生理研修』が実施されている。
厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修による「月経のトラブル」について解説したサイトには、様々な症状の説明が掲載されている。
社会人だからこそ、いずれ自分達が親となった時に子どもにどう伝えるかという視点を取り入れても良いかもしれない。
企業での研修を通して、家庭での性教育の土台をつくり、生理に関する学びを学校だけに頼らないようにすることはできるだろう。
小さな変化でいい。「生理がつらい」という事実を伝えられること。それに対して「大丈夫?」と受け止められる姿勢から、理解は広がっていく。
これまで染み付いたイメージや意識をすぐに変えることは難しいだろう。でも、検索窓に「生理」という言葉を打ち込む。そこからでも社会をアップデートさせることができるはずだ。
まずは知ってほしい。病気かもしれない、ということを。
「個人差」という言葉に〝囚われて〟はいけない。それを教えるのに性別などは関係ないし、誰もがその役割を持っているはずだ。
誰もが知るべきこと。だから、生理は恥ずかしくない。
小学校のとき女子だけが集められ生理の説明を受けた。先生の「女子同士助け合いましょう」という言葉に小学生の私はなんだか団結を感じた。でも、今はちょっと違う。「人間同士助け合いましょう」。この言葉の方がしっくりくる。
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