感動
鐘楼から救われた子猫「かねこ」 寺・消防・庭師の連携でつないだ命
お寺の鐘楼から聞こえてきた子猫の鳴き声。天井裏から救われた小さな命の話です。
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お寺の鐘楼から聞こえてきた子猫の鳴き声。天井裏から救われた小さな命の話です。
お寺の鐘楼から聞こえてきた子猫の鳴き声。市民やお寺の職員、消防も駆けつけて天井裏から救い出された小さな命は、鐘の上で見つかったから「かねこ」と名付けられた。
9月28日午後3時ごろ、通りすがりの人から電話がかかってきた。
「お寺の鐘楼の上の方から、ずっと子猫の鳴き声が聞こえる」
電話を受けたのは、捨て猫・野良猫のゼロを目指す団体「命にやさしいいまちづくり ハーツ」(愛知県豊橋市)。
メンバーの山口次朗さん(49)たちが市内のお寺「豊橋別院」に着くと、鐘楼の天井裏から鳴き声が聞こえてきた。
子猫が自分で上れる高さではないため、親猫がくわえて行ったのか、それとも天井裏で生まれたのか。
まずは、親が戻ってくるのを待つことにした。
遅れて駆けつけた代表の古橋幸子さん(70)も、駐車場が閉まる午後9時ごろまで待ったが、親猫は戻ってこなかった。
翌日に再び訪ねたが、やっぱり親はいない。子猫の鳴き声は、か細くなっていた。
古橋さんは、豊橋別院の職員・柴田俊史さん(52)に「消防に連絡して助けを呼びたいのですが、いいでしょうか?」と声をかけた。
柴田さんは「命を見過ごすわけにはいきませんから」と応じ、鐘楼に上ることも許可してくれた。
消防に連絡すると、南消防署西分署の隊員3人が駆けつけてくれた。
どうやって救助するかを話し合っていたところで、仕事を切り上げて到着した山口さんがこう言った。
「高いところに上るのは慣れてるから、俺が行くよ」
造園業を営んでいる山口さんは、作業着に地下足袋のまま来ていた。
消防隊が持ってきたはしごを上って天井板を開けると、白黒の子猫がいた。驚いたのか、離れていってしまった。
猫が大好きな「CIAOちゅ~る」で誘ってみたが、ダメだった。
次は、猫用の捕獲機2個を天井に設置して、しばらく離れることに。1時間後に戻ってみたが、入っていなかった。
午後4時ごろ、最後の手段として山口さんが天井裏に入ることにした。
天井板を割らないよう、梁の上に腹ばいになって、匍匐前進。
あと一歩で手が届く距離まで近づき、息を殺しながら「逃げないで、逃げないで」と心の中で唱えながら手を伸ばした。
今度は逃げようとすることなく、体をつかむことができた。
生後1カ月半ほどとみられる白黒の雌猫。病院で検査を受けると、たちまち元気になり、抱っこを許すほど人懐っこくなった。
鐘の上で見つかったから、名前は「かねこ」に。里親が見つかるまでの間は、ハーツのメンバーが自宅で預かっている。
救出劇から数日後、かねこが見つかった寺のすぐ近くで、同じような白黒の子猫を山口さんが保護した。
鳴き声がするが、どこにいるのかわからず、捕獲機を置いたがダメだった。
雨が降り出したので引き揚げようとすると、ひときわ大きな声で「ニャー」と鳴いたので、建物と塀の間に挟まっていることに気づくことができた。
ゴミが詰まった狭い隙間に左手を突っ込み、右手でゴミをかきわけると、しっぽが見え、脚をつかむことができた。
山口さんの左手はゴミや塀でこすって、血だらけになっていた。
こちらは雄猫で、塀に挟まれていたから「へいきち」と名付けられた。
見つかった場所や年齢が近いことから、かねこのきょうだいだろうと山口さんたちは考えている。
多くの人の協力で救われた小さな命。
10年前だったら、消防に連絡しても「人の命が優先なので出動できない」と断られていた。
古橋さんは「世の中が少しずつ動物に優しくなっている」と感じている。
かねこを助けた日の夜、消防に感謝の電話をかけたら、駆けつけてくれた3人のうちの1人が出た。
「そうですか、よかった」と一緒に喜んでくれたことがうれしかった。
それでもハーツには、虐待や多頭飼育崩壊などの連絡が次々と寄せられている。
動物の引き取りは原則していないが、「飼えなくなったので」と依頼してくる人もいる。
救出劇の立役者、山口さんはこう話す。
「今回はほんわかする話だったけど、いつも大変な現場ばかり。これをきっかけに活動への理解が広まればいいな」
◇
ハーツでは保護した猫たちのためのシェルターを運営していて、毎年12月にクラウドファンディングで資金を募っている。詳しくはブログで。
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