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IT・科学

テレワークやめた社長の言い分 コロナより深刻な〝同調圧力〟の感染

「組織力の低下が招く毒」

ベンチャー企業にとって特に悩ましいテレワークによる弊害とは……? ※写真はイメージです
ベンチャー企業にとって特に悩ましいテレワークによる弊害とは……? ※写真はイメージです

目次

「社員の生活を守るためにテレワークをやめました」。ベンチャー企業を経営する加藤公一レオさんは、緊急事態宣言後、批判を覚悟で「原則出社」を決めました。組織力の低下による業績悪化を恐れての決断でしたが、本当に警戒するべきは社会を覆う「同調圧力」にあると言います。「コロナ対策と経済のバランス」が大事だと訴える加藤さん。テレワークをやめた社長の言い分を、つづってもらいました。

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経済を絶対に止めてはならない

私は、世の中の経営者には、社員を守る義務と使命があるからこそ、経済を絶対に止めてはならないと考えています。積極的に攻めて、ガンガン稼いで「会社を100%成長させ、社員の雇用を100%守る、社員の生活=経済を第一に考える」ことを“最優先”としてきました。

当社でも、緊急事態宣言発令中は東京・福岡の両オフィスで「原則テレワーク」にするなど、普通のコロナ対策はしましたが、緊急事態宣言が解除された後は、テレワークは一切なくし、100%出社に戻しています。

私は、現在の会社を2010年に起業し、今は社員数約40人というベンチャー企業を経営しています。創業以来、「ネット通販」における「ネット広告」のコンサルティングを手がけてきました。

会社の事業だけを考えるなら「自粛生活」は、チャンスです。人々が家から出ず、ネット通販でしか物を買わなくなったら、ぶっちゃけさらにもうかります。

にもかかわらず、私が過剰な「自粛」に反対しているのは、経済破綻(はたん)により発生すると言われている数十万人の「死者」を出したくないからです。これはあくまでも、「一人の人間」としての心の底からの『問題提起』です。

加藤公一レオ(かとう・こういちれお)1975年、ブラジル・サンパウロ生まれ。アメリカで育ち、西南学院大学を卒業後、三菱商事入社。アサツーディ・ケイ(ADK)などを経て、2010年に売れるネット広告社を設立
加藤公一レオ(かとう・こういちれお)1975年、ブラジル・サンパウロ生まれ。アメリカで育ち、西南学院大学を卒業後、三菱商事入社。アサツーディ・ケイ(ADK)などを経て、2010年に売れるネット広告社を設立

長期的なテレワークは組織を崩壊させる

コロナ禍でテレワークがトレンドになり、特に東京では何カ月間もずっとテレワークのままという会社も珍しくありません。なかには、全社員をフルリモートにして、オフィスを解約してしまった会社もありますが、それは一番危険だと感じています。

非常時に一時的に導入するだけならいいですが、ずっとテレワークを続けていると中長期的には組織が崩壊すると私は考えています。

日常の業務に必要なやりとりや、情報のインプットなどの「作業」ならテレワークでも問題ありませんが、テレワークが長期化すると、信頼をベースにした深い学びや価値創造などの「仕事」は必ずレベルダウンすると思うからです。

もちろん私自身も仕事でビデオ会議からメールまで、あらゆる効率化のためのツールを使っています。『売れるネット広告社』でも、WEB会議やWEBセミナーを実施することで、商圏が広がったり移動時間が減ったりするなどの恩恵もありました。ただし、それに依存し、テレワークをずっと続けていると中長期的には組織が崩壊し、業績は下がると予測します。

京都大学総長の山極壽一先生の有名な研究結果がありますが、人間には『五感』があります。

「視覚」
「聴覚」
「嗅覚」
「味覚」
「触覚」

言葉ができる前は、霊長類=人間は『五感』を通じて身体的につながっていました。「視覚」と「聴覚」はテレワークでも動員できるかもしれませんが、興味深いのは、テレワークでは使わない「触覚」「嗅覚」「味覚」が、信頼関係を築く上で最も大事なものだということです。

皆さんにも経験があると思いますが、仕事の関係であれプライベートな関係であれ、誰かと一緒に食事に行くと一気に仲良くなれますよね。それは、「視覚」と「聴覚」だけでなく、「触覚」「嗅覚」「味覚」も含めた『五感』をフルに使っているからなのです。

世の中の家族も、すべてこの『五感』を通じて信頼関係を築いています。

会社であっても、組織力を高めるためには、「視覚」や「聴覚」だけではなく、「嗅覚」「味覚」「触覚」を総動員して信頼を形作る必要があります。

面と向かってのコミュニケーションは『五感』をフルに使い、無意識のうちにたくさんの情報や感情をやりとりし合っていますが、テレワークになると、やりとりできる情報が質量ともにぐっと限定されます。人間の五感は「視覚」「聴覚」のみをベースとしたテレワークだけでは、相手を信頼しにくいようにできているのではないでしょうか。

それでもテレワークを続けるとどうなるか……。組織力が低下し、業績に悪影響が出るのは確実です。特に『売れるネット広告社』のような成長中のベンチャー企業にとって、長期的なテレワークは毒だと思っているので、当社では社員たちが同じ空間で顔を突き合わせて仕事をすることを大事にしています。

テレワークの難しさ

もちろん、テレワークのメリットは多少はあると思います。しかし、それ以上に深刻なのは「社員のあいだで不公平感が広がる」ことです。

「原則テレワーク」を実施していた時期も、業務上の必要性や個人の判断に基づいて出社している社員がいましたが、電話の取次ぎをはじめ、オフィス業務に時間をとられ、出社している社員の負担が必然的に重くなるのです。

このような状況では、未来のビジョンよりも目先の“作業”にばかり目が行くようになり、視野も狭くなります。

もしテレワークが長期化していたら社員のあいだに溝が深まっていたのは間違いないと思います。

特にベンチャー企業のような立場からイノベーションを起こすためには、社員間の密なコミュニケーションや信頼関係が大切であり、そのためにはオフィス勤務で日々の何気ない会話や気遣いなど、顔を合わせることから創造性・アイディアが生まれると判断しました。

残念ながら、コロナとは関係なく、平常時でも会社というのはかなりの高確率で倒産します。そもそも10年間続く会社はたったの「6%」です。94%の会社が10年間で倒産するのです。

特に今回のコロナショックのような、過去最大の「経済破壊」の中では、世の中の経営者はおそらく「会社倒産」「全社員解雇」「個人破産」「路頭に迷う」まで想像しているはずです。

その中で下す経営判断ですから、他人任せにできるわけがありません。

従業員にとっても、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」になったとしても、経済が落ち込む中で、仕事を存続させ、成長に向かって進んでいくためには、「この会社が自分たちの会社」「自分が会社の未来を創っていく」という認識が不可欠です。

必要なのは「自分事」の意識。何事も他人事にしない強い「当事者意識」です。

我々は常にリスクと隣り合わせで生きてきた

コロナショックにより、まるでマスコミは新型コロナが唯一にして最大のリスクであるかのように騒ぎ続けていますが、そもそもコロナ禍以前から我々は、災害・交通事故・病気・けがなどの「リスク」と共存し、それを許容して生きてきました。

ましてや日本は災害大国なので、いつどこで大地震が起きても不思議ではありません。なのに、日本人は「地震が怖いから外出を自粛する」ことはなく、ごく普通に毎日を生きていました。意識するか・意識しないかの違いだけで、生きている限り、我々は常にいつどうなるかわからないリスクと隣り合わせなのです。

もちろん、感染症であるコロナは、自分が無症状でも人にうつしてしまう怖さ、感染者の拡大が医療崩壊を招くリスク、そもそも原因が十分に解明されていない問題はあります。私もできればコロナにかかりたくはありません。それでも、コロナはあくまでも人間が生きていればかかる可能性のある数ある病気のひとつに過ぎないと考え、 “過剰”に恐れることには距離を置きたいと考えています。

東日本大震災の被災地のコンビニエンスストアの前には、食料を買い求める人たちの行列ができていた=2011年3月12日、仙台市太白区四郎丸
東日本大震災の被災地のコンビニエンスストアの前には、食料を買い求める人たちの行列ができていた=2011年3月12日、仙台市太白区四郎丸
出典: 朝日新聞

コロナの同調圧力に"過剰"に乗ってはいけない

コロナに対する考えは人それぞれで、私と違う意見を頭から否定するつもりはありません。しかし、あえて言います。コロナの同調圧力に"過剰"に乗ってはいけません。

コロナショックの背景にある、政治的・外交的な要素、メディアの思惑などを考えると、そこには同調圧力の影響があることは否定できません。政府や多くの企業や組織や個人には、「社会的リスクを背負いたくない」、「自分たちが感染を広げたと思われたくない」というマインドが存在します。

「自粛警察」のような空気が広まる時だからこそ、経済破綻が多くの失業者を生み、それが自殺者を増やしてしまう怖さについても考えるべきではないでしょうか。

もともと日本という国は同調圧力の強い国ですが、このコロナ禍でそれがますます顕著になっています。「感染者」の情報ばかりが報道される状況からは、メディアがひたすらコロナの恐怖をあおる弊害を感じてしまいます。

コロナに感染する確率、感染した場合の死亡率といった “事実/リスクとリターン”を自分でしっかりと調べ、自分の頭で考えてほしいと思います。

命が大事だからこそ経済を止めてはいけない

ズバリ、「コロナ対策」の同調圧力に“過剰”に乗ってしまった会社は、絶対に業績が落ちます。経営者・社員が"心身"ともに「自粛モード」になり、“過剰”に「コロナ対策」に馬鹿正直に乗ってしまった会社は今後組織が崩壊します。

レピュテーションリスクは怖いので、同調圧力に乗った世の中の会社(経営者)の「コロナ対策」は“無難”だとは思います。でも、社内外へのパフォーマンスのための、本質を無視した“過剰”な「コロナ対策」は自殺行為に等しいと思っています。

経済を止めることで起きる「倒産・失業」などにより、日本だけで統計的に「自殺者10万人(行方不明者が20万人)」規模になることは、過去のバブル崩壊やリーマン・ショックなどが証明しています。

実際に、私も知り合いの経営者の会社でも、すでに「倒産」した会社が何社かありますし、“存続するため”に多くの会社が大幅な「リストラ」を開始しています……。日本全体で、表面的には見えない「隠れ失業者」を含め、「失業者」もどんどん増えていますし、ここ3カ月は「自殺」も目に見えて増えています。

これは、私がずっと恐れていた『過剰なコロナ自粛により経済が止まる⇒失業者が増える⇒自殺者が増える』という最悪のシナリオが現実になってきていることを意味します。

「経済を止めるな!」と言うと、必ず「命より経済が大事なのか?」と言う議論になりますが、「命より経済が大事」なのではなく、『命が大事だから、自粛より経済』なのです!この世の中では、キレイゴトなしに『コロナ対策と経済のバランス』が重要なんです。

2020年4月4日、臨時休業する日本橋三越本店。通りの人通りは少なかった=東京都中央区、長島一浩撮影
2020年4月4日、臨時休業する日本橋三越本店。通りの人通りは少なかった=東京都中央区、長島一浩撮影
出典: 朝日新聞

同調圧力はコロナよりも“感染力が強い”

最近は「GO TO」キャンペーンなども始まっているものの、日本社会を覆う同調圧力にはまったく終わりが見えません。マスクを着ける・着けないが大論争になったり、他人の“不謹慎狩り”をしたり……。

今回のコロナショックでつくづく感じたのは、「先が見えない不安は人間の精神を破壊する」ということです。そして、不安や同調圧力は、ある意味新型コロナウイルスよりも“感染力が強い”と思います。コロナに対する国民の「過剰反応」による“悪影響”は、新型ウイルス以上にヤバイと感じています。

コロナ禍でも当社は業績絶好調で、人員削減や減給をするどころか、積極的に採用を増やしています。世間はどんどん自粛ムード、消極ムードになっていきましたが、『売れるネット広告社』ではあえて空気を読まずに、「普通+αにビジネスをする」ことをモットーにしてきました。

この「+α」が何を意味しているかというと、『むしろ、今の状況をポジティブに“好機”とらえて、この状況下でも数字を伸ばし、さらに平常時に戻ってから大成長できるように、より積極的に全ての面でガンガン攻める』ということです。コロナショックで、世の中のほとんどの会社が「ネガティブ」な「自粛モード」に入っていたからこそ、「+α」つまりは「チャンス」がたくさんあったのです。

「コロナの収束」は感染率データや特効薬だけではなく、国民一人ひとりの「マインドと心」からはじまります。一人ひとりが、ポジシティブな空気を作ること、常に『どんな困難が起きようとも、必ず夢や目標やかなえ、明るい未来が待っている』と考え、発言し、行動していくことが求められていると考えます。

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