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お金と仕事

東大卒「じゃない方」バンドマン、目立たずとも確実にある自分の役目

東京大学発の社会人バンド「Penthouse」。一番左がギターの矢野慎太郎さん=吉田貴司撮影
東京大学発の社会人バンド「Penthouse」。一番左がギターの矢野慎太郎さん=吉田貴司撮影 出典: 朝日新聞

目次

結成25周年を迎えたV6がリリースしたシングルのカップリング曲「ただこのまま」を、東京大学発の社会人バンド「Penthouse」が提供しました。大学卒業後、それぞれ社会や大学院などに身を置きながら、サークルのOB合宿を機に2018年に結成。YouTubeを始め、SNSでオリジナル曲やカバー曲などを積極的に配信しています。ギターの矢野慎太郎さんは、楽曲制作や演奏に関わる以外に、バンドのスケジュール管理といった事務・企画の仕事も引き受けています。自らを「じゃない方バンドマン」と認める矢野さん。でも、自分にしかできない役割がある。そうした思いをつづりました。

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【Penthouse】東京大学発6人組「シティソウル」バンド。洗練されたカバーやオリジナル楽曲をYouTubeにおよそ週1回のペースで投稿。パワフルな男女ツインボーカルを軸に、「日常をおしゃれに彩る音楽」を探求している。メンバーは、浪岡真太郎(Vo.&Gt.),大島真帆(Vo.),矢野慎太郎(Gt.),大原拓真(Ba.),Cateen(Pf.),平井辰典(Dr.)。

有名バンドでも、全メンバーは分からない?

どうも。東京大学発6人組“シティソウル”バンド「Penthouse」のギター、矢野慎太郎です。

さて、ここで突然の質問です。「ボーカルの顔と名前は分かるけど、他のメンバーは知らない」というバンドをいくつか思い浮かべてみてもらえませんか。10秒数えますね。

……10秒経ちました。いかがでしょう? 有名なバンドも結構浮かんでこないですか?

いきなり何だよという感じですね。要するに、「バンドって売れても、全員が有名になることは滅多に無い」というお話です。

フロントマンが有名になる一方、それ以外のメンバーはあまり知られていない状態になりがちです。世に言う「じゃない方芸人」ならぬ「じゃない方バンドマン」とでも言いましょうか。

PenthouseでGt.を担当する矢野慎太郎さん=吉田貴司撮影
PenthouseでGt.を担当する矢野慎太郎さん=吉田貴司撮影 出典: 朝日新聞

I am「じゃない方バンドマン」

そして僕は、Penthouseにおいてその「じゃない方バンドマン」だと自覚しています。Yes I am.

……と言ってもPenthouse自体がまだ超無名だし、「じゃない」もへったくれも無いんですけどね。それでも、実感することはあるんです。

分かりやすい所だとSNSのフォロワー数とかYouTubeのコメントとか。あとボーカルの浪岡(真太郎)は気付かれるけど僕は気付かれない、的なことも既にありましたし。さしずめ「じゃない方」予備軍といった所。

僕自身は、絶対的なフロントマンがいるバンドよりも、メンバー全員がちゃんと目立つ方が好きなので、バンドが少しずつ成長するなか、そんな理想とのギャップにしばしば悩んできました。

皆さんも一度くらい思ったことないですか? 「あのバンドってボーカル以外要らなくない?」みたいなこと。僕もただのリスナーだった頃は、無邪気にそんな失礼なことを思ったこともありました。

でも、いざ自分がバンドをやって「じゃない方」になってみると、自分に跳ね返ってくるんですよね。いくらバンドの人気が出ても、「自分もそんな風に思われるんじゃないか」って。

バンド練習は全員が集まる貴重な機会=吉田貴司撮影
バンド練習は全員が集まる貴重な機会=吉田貴司撮影 出典: 朝日新聞

生まれるべくして生まれる「じゃない方」

でも活動を続けている中で、二つ分かったことがあります。

「じゃない方は生まれるべくして生まれる」ということ、そして「じゃない方だからこそ、できる役割がある」ということです。そこに気付いてから僕自身は、色々と吹っ切れました。

まず、「生まれるべくして生まれる」の方からお話ししましょう。

音楽の根幹にあるのは、当然楽曲です。でも、音楽を好きになる時って少なからず「人」への憧れもあると思うんですよ。「この人歌うまいな~」とか「なんでこんなに素敵な詞を書けるの?」とか。

だから、どんな人なのかイメージできる方が圧倒的に印象に残りますよね。見た目、キャラ、バックグラウンド……。最高の楽曲を作るのは大前提として、より知ってもらうためには「人」の見せ方が重要になってきます。

それがバンドの場合、メンバー全員が等しく目立つのはとても難しい。初めて曲を聴いて気に入ってくれたリスナーに覚えてもらえるのは、せいぜい1人か2人だと思います。僕だってそんなもんですし。

そして、そういうリスナーが増えなければバンドの知名度は伸びないし、ファンも増えない。ならば、覚えてもらえる1人2人のフロントマンをプッシュしようということになります。

Penthouseの場合、アップする動画は原則ボーカルを主役にしています。演奏陣の「弾いてみた」的な動画は、個人のSNSはともかく、バンドとしては上げていないし、インスト(楽器のみ)の動画もこれまで一つだけです。

自然とボーカルが一番目立つので、外部の出演やコラボの依頼もボーカルが中心になる。そうした露出がより大きな露出につながり、それが実績となり、分かりやすいアピールポイントとして活用されるようになる。

こんな具合でフロントマンが目立つサイクルができあがり、その裏返しとして「じゃない方」は生まれるわけです。こうして見ると、構造的に起こるべくして起きている現象ですね。フロントマンが相対的に目立ってくれることが、バンド全体にとっていかにありがたいかという話でもあります。

メジャーなバンドでも似たサイクルはあるように見えますし、それがある種の合理的な売り方なのだと思います。

こういう「見せ方」をバンドマンがああだこうだと考えている姿はともすれば「商業的」で好ましくないと思われる方もいるかも知れません。音楽のことだけストイックに考えてなさいよ、と。

でも僕らはせっかく時間をかけて好きな音楽を作っているので、多くの人に楽しんでもらえる方が我々も楽しい。そんな気持ちで活動しています。ならばそのために頭を使ってやれることはやろうってだけなんです。

吉田貴司撮影
吉田貴司撮影 出典: 朝日新聞

じゃない方だからこそ、できる役割

バンドって一見、曲を作って演奏しているだけのように見えるけど、実はサラリーマン的な事務・企画の仕事がたくさんあるんです。関係者との連絡・調整、資料作成、練習や打ち合わせのスケジュール調整、全体のタスク整理・決まっていない方針の整理……。

これらは単純作業ではなく、ロジカルに色々考えてメンバー内で了解を取らなきゃいけないことも多いです。それなりに時間がかかるし、気を使う仕事でもあります。

このあたりは事務所に入ればサポートしてもらえるんだろうけど、現状はフリーなので何から何まで手弁当でやる必要があります。事務所に入っても結局、色々な方針はバンドメンバー自身が決めないと話も進まないだろうし、何もかもお任せというわけにはいかない気がします。

じゃあ、それを誰がやるのか? そこで「じゃない方」の出番なわけです。もちろん意見は出し合うし、最終的には全員で合意を取って進めます。でもその過程の作業に、フロントマンの時間を使わせるのはもったいない。フロントマンはフロントマンにしかできない仕事があるので。

Penthouseの場合で言うと、ボーカルでありソングライターでもある浪岡が作曲や外部からの出演依頼、関係者との交流などに時間を割ける状態がバンドの成長に必要です。特に作曲は、多少暇なくらいじゃないと思うように進められないだろうし。

なので僕は、「浪岡にしかできないことに浪岡を集中させること」を自分のミッションと決めて、事務・企画の仕事を極力買って出るようにしています。

これらはあくまでうちのバンドの例だけど、要するにバンドには、外から見えない色々な仕事やその役割分担があると思っています。それを隠す意味もない気がして、自分のSNSではそうした役割の話を時々しています。

そんな中で、ファンの皆さんに分かってもらえれば、必ずしも表立って目立たなくても良いかなという気持ちに段々なってきました。ギタリストとしてはもっと目立てるように頑張りたいですけどね。

「ギタリストとしても……」と語る矢野さん=吉田貴司撮影
「ギタリストとしても……」と語る矢野さん=吉田貴司撮影 出典: 朝日新聞

「じゃない方、見かけたら……」

「じゃない方バンドマン」という何だか格好のつかないテーマでとうとう1本書いてしまいました。皆さんも「じゃない方バンドマン」を見かけたら、この記事を頭の片隅から引っ張り出してみてもらえれば。最初の方にあれこれと葛藤を書きましたが、いまさら悩んじゃいないので安心して下さい。

それではまた、どこかでお会いしましょう。気付いてもらえたらですが。

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