マンガ
「ある日、ポッキリ折れた」漫画家の卵の挫折描いた作品に意外な反響
数字に悩み続けた先に見えたもの
毎日のように様々な漫画が流通し、いまや「創作の揺りかご」となっているツイッター。作者にとっては成功への近道となる一方、「いいね」の数などで実力が評価されてしまう、過酷な闘いの現場でもあります。厳しい現実に挑み、挫折を経験した漫画家志望者のエッセー作品が先日、大きな反響を呼びました。承認欲求と向き合う中で得た、描き続けることの「答え」とは?(withnews編集部・神戸郁人)
「漫画の講義を半年受けたら漫画が描けなくなった話」。そう名付けられた4ページの漫画が、10月11日に投稿されました。
シンプルな線画で表された主人公は、漫画家を志し、作画などについて学ぶ講義を半年ほど受けています。
ツイッターのフォロワーの増やし方、作品を書籍化する方法……。希望を胸に飛び込んだ世界で、主人公は夢をかなえるための術(すべ)を、意欲的に学んでいきます。
しかし、楽しいときはつかの間でした。3カ月を過ぎた頃から、受講生間の実力差が明らかになってきたのです。
ツイッター上に作品を投稿し、数千単位の「いいね」がつく人と、一桁にとどまる人。おのおのの力量を、数字が残酷なほどはっきりと示します。主人公は、後者でした。
絵柄やストーリー展開を工夫しつつ、毎日漫画をツイートするものの、鳴かず飛ばずです。フォロワー数も受講前とほとんど変わらず、低空飛行が続きました。
段々と、創作活動に苦痛を覚え始める主人公。ある日、とうとう耐えきれなくなり、「ポッキリ折れ」てしまいます。
漫画を描くことも、講義に出席することもつらい――。プロへの階段を駆け上っていく受講仲間との格差を感じるのも嫌で、ツイッターそのものさえ敬遠するようになっていきました。
「ああ、漫画を描くって こんなにつらかったっけ?」
「ツイッターって こんなに悲しいものだったっけ?」
主人公は力不足を自覚しつつ、厳しい現実を受け止めきれずにいる自分自身と、必死に向き合おうとします。
しかし、とうとう気力を失ってしまい、いったんペンを置くことを決断。物語は、こんな一言で締めくくられます。「また漫画を描きたくなる日が 来るといいな」
作品には5千を超える「いいね」がつき、多くの人々の手によって拡散されました。
実体験を漫画化したのは、山河慎さん(@ShinSangaSun)です。
幼い頃から、外遊びより、家で一人黙々と何かをこなすことを好んだという山河さん。絵を描くことも、その一つでした。大学生の頃には漫画『蟲師』を読み、静かな世界観の内に、作者の思想が表現されている点に心動かされたそうです。
「好きな作品の二次創作に関わるうち、漫画家養成講座について偶然知り、参加したいと思うようになりました」
毎日SNSを更新し、フォロワーやファンを増やす。そうすれば、出版社への持ち込みといったルートを通らずとも、漫画家として身を立てられるようになる……。講師の教えに従い、オリジナルの恋愛漫画を、一日2ページ投稿するよう努めました。
しかし漫画を描き続けること以上に悩ましかったのが、承認欲求との付き合い方だったと、山河さんは振り返ります。
「『いいね』やリツイートを始め、明確な反応が得られない中、作業を続けるのはつらかったです。物語を届けたい人に届いていないからなのか、単純に面白くないからなのかがわからない。そのもどかしさに、ストレスを募らせていきました」
読み手に認められなければ、描き続ける気力を保つのは難しい。一方で、描かない限り、世に出すためのコンテンツは増えない。ジレンマに直面するうち、突然「描けなくなった」そうです。
そして「ツイッターのアカウントを消してしまおうか」と思い詰めたとき、今回の作品を2時間ほどで描き上げました。
「誰かに見てもらう意図はなく、自分の気持ちをはき出せれば良い。そう考え、ツイッター上でつぶやいても問題ない内容に絵を付けたという感じです。泣き言のような作品であり、まさか拡散されるとは思わず、予想外の展開に驚きました」
「あらゆる物事に通じるテーマ」「いずれ漫画に救われる日が来るはず」「自らの心情に丁寧に寄り添っていて、胸を突かれた」。作品には現在に至るまで、山河さんの境遇に心を寄せるコメントが連なっています。
一方で「漫画を描く目的が、数字を獲得することになっているのでは」といった声も、少なからず上がりました。こうした反応について、山河さんは次のように受け止めます。
「あくまで個人的な考え方ですが、何もかもが数字で可視化される現代の創作活動において、数字を気にせず何かを創り続けられる人というのは、一種の『強者』だと考えています。そういう人こそが、最後には成功するのかもしれません」
「しかし、少なくとも私にとっては、小さな数字の達成を通じてモチベーションを上げ、次の創作につなげる循環こそが、継続的な創作活動に必要だと考えています」
その上で、「やはり漫画を描いていないと落ち着かないところがあります。今後も自分が好きになれるようなキャラクターや、物語を生み出していきたいです」と語りました。
作品が人々の目に留まったことでフォロワーが増え、読者の率直な感想に触れる機会も持てるようになったという、山河さん。今回の出来事から何を考えたか尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「漫画が広く拡散されたのは、共感や反発を引き起こすような内容だったこともあるかもしれません。ただ、たまたま拡散力の強い人に見つけてもらえたという、『運』の影響が大きいと思います」
「残念ながら、こればかりは発信者側がどうこうできるものではありません。だからこそ、捕捉してもらえる確率を上げるために、コンテンツを発信し続けることが大事なのではないかと感じています」
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