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#6 アニメで変わる地域のミライ

「鬼滅の刃」聖地が福岡に? 登場してないのにファンが集まる理由

炭治郎の出身地からは1000キロメートルも離れている……

境内に奉納された「鬼滅の刃」のキャラクターが描かれた絵馬=福岡県太宰府市、筆者撮影
境内に奉納された「鬼滅の刃」のキャラクターが描かれた絵馬=福岡県太宰府市、筆者撮影

目次

アニメやマンガの舞台を旅する「聖地巡礼」。「舞台」と書いているように、作品に登場した背景などのモデルとなった場所を訪れるものが中心ですが、中には直接舞台となっていない場所が「聖地」になるケースもあります。今回は、2019年の大ヒットアニメ「鬼滅の刃」の「聖地」になっている、福岡県太宰府市にある「宝満宮竈門神社(ほうまんぐうかまどじんじゃ)」の事例を紹介します。

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「鬼滅の刃」プレイリスト。曲を聴きながら、記事を読んでみませんか。

「ONE PIECE」を超えた

「鬼滅の刃」は、週刊少年ジャンプで連載されていた漫画が原作で、大正時代を舞台にした和風ファンタジーです。主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)の家族が鬼に殺され、そして鬼にされてしまった妹・禰豆子(ねずこ)を人間に戻すため一緒に旅に出るという物語です。

テレビアニメが2019年4月から9月にかけて放送され、さらに20年10月16日から劇場版の公開が予定されています。原作は2020年5月18日に発売された週刊少年ジャンプ24号をもって完結しました。

一時は同誌の代表作「ONE PIECE」を超える単行本の売り上げとなり、作品の主題歌「紅蓮華」はCDの販売数とダウンロード数を合わせて100万を超え、ミリオンヒットとなりました。歌い手の女性ボーカル・LiSAは、2019年のNHK紅白歌合戦にも出場しています。

「鬼滅の刃」ファンでにぎわう宝満宮竈門神社の境内=筆者撮影
「鬼滅の刃」ファンでにぎわう宝満宮竈門神社の境内=筆者撮影

舞台になっていない「聖地」

「鬼滅の刃」はこのような“社会現象”とも呼べる人気作となっていますが、実は「聖地巡礼」においても新しい動きを与えています。とはいっても、作中でどこか特定の場所が舞台になっているわけではありません。「鬼滅の刃」の舞台は、炭治郎と禰豆子の出身地が東京・埼玉・山梨の3都県にまたがる雲取山と明記されているぐらいで、基本的に架空の地名が登場しています。

その他の登場人物も、関東圏を出身とするキャラクターが多いのですが、そこから1000キロメートル離れた九州で「聖地」のにぎわいを呈している神社があります。福岡県太宰府市にある「宝満宮竈門神社(ほうまんぐうかまどじんじゃ)」です。

この神社は元々縁結びの神社として知られ、若い女性を中心に全国から参拝者を集めていました。それが、主人公の兄妹の名字「竈門」にあやかる形で、「鬼滅の刃」ファンも集まる場所になっていたといいます。

神社で権禰宜を務める、馬場宣行さんはこう振り返ります。

「2019年の11月頃からファンと思われる方のお参りが増えてきたように感じます。最初は若い成人の女性の方が多かったのですが、次第に老若男女幅広くお参りが広がっていった印象です」

筆者も今年に入り神社に伺いましたが、若い女性が何人かのグループで参拝している様子や、本来のジャンプの対象年齢層とも言える、小学生ぐらいの子どもを連れた家族の姿も多かったように見えました。中には、作品のグッズをつけた人もお参りしていました。

境内に奉納された「鬼滅の刃」のキャラクターが描かれた絵馬=筆者撮影
境内に奉納された「鬼滅の刃」のキャラクターが描かれた絵馬=筆者撮影

神社の「おもてなし」

境内に奉納されている絵馬を見ると、その多くに「鬼滅の刃」にまつわる様々なキャラクターが描かれているのも特徴です。社務所にはこうした絵馬を境内でも描けるように、様々な色の油性ペンを利用できる台が設置されています。

ただ、この油性ペンは馬場さんによると、「元々縁結び信仰が多く、参拝に来られる女性が喜ぶかなと思い設置した」もので、「鬼滅の刃」の「聖地」となる以前からあったようです。

いずれにしても、この「おもてなし」が、訪れる「鬼滅の刃」ファンの役に立っていることは間違いなさそうです。筆者が訪れた時も、小学生の女の子がカラフルな油性ペンを使って絵馬に絵を描いている光景が見られました。

こうした人物の名前にあやかって、「聖地」となるようなケースは、例えば人気男性アイドルグループ「嵐」の二宮和也さんの名字つながりで、神戸市をはじめとする全国の「二宮神社」にファンが訪れているケースが挙げられます。こうした名前つながりで「聖地」になった場所には女性ファンが多い傾向があります。

逆に男性ファンが多いコンテンツでは、こうした現象はあまり見られません。例えば、静岡県沼津市を舞台にしたアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」では、主人公の一人に津島善子というキャラクターがいます。そして沼津市内に、その名字と同じ名前の「津島神社」という神社があるのですが、そこまでファンを集める「聖地」にはなっていないのが実情です。

絵馬を境内でも描けるよう、様々な色のマジックが置かれている=筆者撮影
絵馬を境内でも描けるよう、様々な色のマジックが置かれている=筆者撮影

キャラクターを連想させるグッズも

現時点では神社と版元で公式のグッズは展開されていませんが、馬場さんによると、あるお守りの人気が高いといいます。

「主人公が着ている羽織に似ている柄のお守りがあり、それをお求めになる方が多いです」

そのお守りは「てるてる晴れ守り」というもので、見るからにてるてる坊主の形をしたお守りとなっています。確かに、主要登場人物の一人・我妻善逸(あがつまぜんいつ)の羽織の柄に似ているようにも見えます。

こうした一見関係なさそうなグッズから作品のキャラクターを思い浮かべたり、名前だけのつながりで、元々関係のない神社を「聖地」にしたりと、ファンの想像力には、いつも感心させられます。

女性ファンを中心に子ども連れなどの参拝客が目立った=筆者撮影
女性ファンを中心に子ども連れなどの参拝客が目立った=筆者撮影

観光資源は眠っている?

全国には他にも「竈門神社」という名前の神社があり、大分県別府市の「八幡竈門神社」にも多くのファンが訪れているようです。こうした一見なんのつながりもないところでも「聖地」になる場合もあり、地元の方からすると、思わぬ観光資源ということになります。

「聖地」は必ずしも作品の舞台である必要がない性質を持ちます。もし、アニメでまちおこしをしたいけど、舞台になっていない……このような悩みをお持ちの方がいれば、地元にどんな観光源が眠っているのか、いま一度見つめ直すきっかけになるかもしれません。

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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