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「保育園は地獄だった」マンガで伝えたかった“母の背中”の存在感
忘れられない「ぬくもり」をたどる物語
「不安なことがあるたび、その背中を見てきた」。どんなときも「絶対的な味方」でいてくれる、母親との記憶を描いた漫画が人気です。周囲になじめないことで味わった痛みを癒す、家族のぬくもり。作品が放つ普遍的なメッセージに、共感の声が集まっています。作者に思いを聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
複数回に分け投稿された13ページの漫画「母の背中」は、11日に投稿されました。寝室に置かれている日本人形が、突然動き出すシーンから始まります。
恐怖におののく、主人公である小学生の男の子。布団から飛び起き、慌てて周囲を見回すも、平穏そのもの。どうやら悪夢を見ていたようです。台所に立つ母親の元へ走ると、その背中を見て胸をなで下ろすのでした。
「不安なことがあるたび、母の背中を見てきた」。男の子は語ります。その原点は、通っていた保育園での体験にありました。
「保育園は地獄だった」という彼は園の雰囲気になじめず、孤立しがちでした。支えになったのが、お昼寝の時間用に準備された、レコードのジャケットを眺めること。お気に入りのイラスト入りのものを、床に並べては、一人楽しんでいました。
ある日、年上の男子が、床に置かれたジャケットを踏み転んでしまいます。怒りをあらわにし、暴力を振るう男子と、それを止めに入る女子。取っ組み合いのけんかにまで発展し、主人公の男の子は、腰を抜かすほどショックを受けます。
その後、母が男の子を迎えに来ました。「何があったの?」。雷鳴が響き、雨が降りしきる中、母は自転車の後部座席に乗った男の子に尋ねます。しかし、黙ったまま答えません。
するとなぜか、帰り道沿いに置かれた「ガチャガチャマシン」の前で止まります。天気が悪いのに、遊ぶなんて……。いぶかしむ男の子に、母は告げます。「雨が降ってたらガチャガチャしちゃダメって誰が決めたの?」「いつもと違うから面白いんじゃないの」
もらったお金で景品を買い、男の子は大満足です。ただ、機嫌を直せたのには、もっと大きな理由がありました。
どんなに心かき乱されることがあっても、わが子を守るかのように、目の前にそびえ続けてくれた、母の背中という存在です。彼は、こう語ります。
「大雨が降る日も、雷が落ちる日も、とても怖い夢を見た日も、この背中に捕まっていれば大丈夫だった」
「絶対に安心で安全なんだ。きっと母さんの背中は、宇宙なんだ」
そして、視点は再び冒頭のシーンへ。「宇宙……」。布団の中で一人つぶやく男の子に、早く寝るよう叱る母。親子の会話が響く中で、物語は幕を閉じます。
「今度は母の背中を守って」「母の匂いを思いだした」。ツイートには、主人公に自分に重ねる人々のコメントが連なりました。最初の投稿には、14日時点で1万以上の「いいね」がつき、1600回以上リツイートされています。
「保育園からの帰り道での出来事を、鮮明に覚えていたので、作品化しました」。そう語るのは、作者の仲曽良ハミさん(@nakasorahami)です。「思い出漫画家」を名乗り、家族との日々について描いた作品を、ネット上で公開しています。
母の日なので「母の背中」1/3 pic.twitter.com/kLgZIuZHgw
— 仲曽良ハミ@思い出漫画家 (@nakasorahami) May 10, 2020
共働きの両親は、そんな仲曽良さんを、いつも気に掛けていました。登園を嫌がる様子から、一時は通わせるのをやめることも検討したとか。しかし家計を支えるため、仕事をしつつ、わが子を育てると決意したのだそうです。
園への送り迎えは、母の仕事。道すがら、ガチャガチャを楽しませてくれたり、お菓子を買ってくれたり。愛情深い振る舞いに、仲曽良さんは強い信頼を寄せていたといいます。
漫画にしたエピソードは、今も忘れられない記憶の一つです。「しがみついた背中のぬくもりや、レインコートをかぶせてもらったときの安心感を描き出したかった」と語ります。
読む人に強い印象を残すのが、母の背中を、「宇宙」という壮大な一言で表現するシーンかもしれません。「母の愛情はとてつもなく大きい。子どもにとって絶対的なものである、ということを表現したいと思いました」
仲曽良さんは現在、母と別々に暮らしています。しかし今でも、実家に戻り、顔を見るたびに安心できるのだそう。今回話題になった漫画を見せたところ、とても喜んでくれたといいます。
ツイートに共感の声が数多く寄せられたことについては、次のように話しました。
「お母さんは、どの家でもすごい存在なのだな、と感じました。これからも、読む人に少しでもホッとしてもらえるような、『懐かしいあの頃』がテーマの作品を描いていきたいと思います」
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