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「1枚あげるよ。はい」マスクない肩身の狭さ…おじさんの優しさ
マスクが底をつき、買い物のため仕方なくマスクなしで出歩く時、視線が気になってしまう。そんな経験をした人もいるかと思います。外出したついでに寄った出店で思わず見つけた好物の落花生。おじさんともマスクの話になり……。編集者の吉河未布さんは、コロナウイルスによって不自由な生活をする中でもらった「ささやかな幸せ」をマンガに描きました。こんな時だからかみしめたい思いやりを一緒に味わってみませんか?
コロナウイルスが深刻化していく中、マスクがない吉河さんは、郵便を出したり、ゴミを捨てたりする時も人との距離だけでなく、人目も気にするようになっていました。
「不要不急」の外出を控えるよう要請が出ましたが、冷蔵庫の食材は減っていきます。
デパートをはじめお店の閉店時間が早まる「非日常」を実感しながら、夕方買い物に出かける吉河さん。ふと「人としては正しい時間になっている気はする」と、見つめ直します。
買い物途中で見つけたのが、落花生の出店です。
両親も好きだったことを思い出し、実家に「しばらく帰れそうにないし送るか」と、足を止めます。
「物産展が中止で困っちゃう」
「大変ですね」
出店のおじさんと、愚痴を言い合いながら、八街(やちまた)の落花生は車で買いにいくほど好きだったこと。実家は近いけれど様子を見にいくのは控えていること。そして「今は、みんなで、ふんばるしかないこと」。吉河さんの頭を駆け巡ります。
帰り際、吉河さんが、スカーフで覆った自分の顔を指さして「マスクなくて、だから、こんなんして」と伝えた時、「そうだよね」と笑いながらおじさんが、ごそごそします。
「マスク。1枚あげるよ。はい」
突然のプレゼントに驚く吉河さんは「いやあの、そんなつもりでは」と遠慮しますが、おじさんは「サイズまちがっちゃって、えへへ」と、「鼻パッド付きの立派なやつ」を手渡します。
「ささやかな幸せ」に射抜かれた吉河さんの感動シーンで最後のコマが描かれます。
withnewsでコラム「ネットのよこみち」を連載中の吉河さん。実話を元にしたというマンガを描こうと思った理由を「自分のなかで『この気持ちは忘れちゃいけない、残しておかなくては』という想いが強かった」と語ります
「人と話すことが激減し、一言も発しない日もあるなかで、誰かに“聞いて”ほしかったという気持ちもありました。わかりやすく、読んだらいつでもすぐにその時の状況が浮かぶのは、マンガならではかなと思って、勢いで……」
実はマンガには描いていないエピソードがあります。
「おじさんは、おまけを『2袋』くれたんです。『救世主だから』って。いろいろ中止になっている上に、この日もお客さんが少なかったのでしょう。でも私は純粋に落花生を買いたいと思っただけなので。むしろ、救世主はあなたですって、本当に思いました」
マスクがない不安は吉河さんはじめ、多くの人が抱えています。
「ドラッグストアの近くを通る度に、マスクが売られていないか覗いてみるのですが、『入荷はありません』『本日分は売り切れです』という掲示ばかり。最近では行列防止のため、『開店時の販売を中止します』というものも見かけるようになり、諦めに加えてどこか淋しい気持ちになっていました」
そんな時に、出会ったのが、おじさんの優しさでした。
「思いがけないところでおじさんのあたたかい優しさに触れて、なんてイケメンなんだろう、と……。一枚のマスクが、こんなにも心を潤わせてくれるんだなと思いました」
マンガで伝えたかったことは「思いやりの交換」。
「外出自粛、ソーシャルディスタンスなど、行動に制限があっても、心は自由。そして思いやりって、交換できたらもっと素敵だなと思うんです。マスクは使い捨てですが、おじさんとのやりとりは、私のたからものです」
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