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連載

#38 #となりの外国人

「ハーフらしい顔」じゃない……世間の理想に近づくためメスを入れた

「ハーフでいいね」、その言葉に傷ついてきた当事者の思いを聞きました

雑誌や広告には「ハーフ」という言葉があふれている
雑誌や広告には「ハーフ」という言葉があふれている

目次

理想の母親、理想の父親、理想の恋人……。世の中の「理想像」に自分を当てはめて、息苦しくなった経験はありますか。例えば、ハーフの女の子たちは、日々ファッション誌などであふれる「ハーフ顔になれるメイク」「ハーフみたいな大人顔」といった言葉の中で、「ハーフらしさ」の理想像に悩んでいます。どうしたらもっと自分らしく生きやすい世の中になるのか、ハーフの視点で世の中を見てみました。

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心が苦しくなる広告

モデルの大きな目に、くっきりとした二重を強調するメイク方法に添えられたコピーは「ハ―フ顔美女」。

街中やネット上に溢れる「ハーフ顔」の言葉や、二重を美しいとする広告が目に飛び込んでくると、石井マヤさん(28)は今も苦しく感じる時があると言います。

父は日本人、母はポーランド人。思春期は理想のハーフ顔と自身の容姿にギャップを感じて、うつ病を発症するまで追い詰められました。

東京都近郊のベッドタウンで育ったマヤさん。高校までは外国にルーツがある同級生が複数いる環境で、ハーフを理由にいじめられることも、自分がハーフであることを特に意識することもなかったと振り返ります。

幼い時のマヤさん
幼い時のマヤさん

「褒め言葉」が追い詰める……

「ハーフ」に追い詰められ始めたのは東京都内の大学に進学してから。

様々なサークルの新入生歓迎会で自己紹介をするたびに、「ハーフでいいね」「ハーフモデルのあの人に似ている」とあこがれや肯定的なニュアンスで何度も声を掛けられるようになりました。

「突然、容姿を褒められるようになって戸惑いました。嬉しく思う時もあったけど、それ以上にハーフのモデルや芸能人と重ねられるたびに彼らとの違いを強く意識した」と振り返ります。

その一つが、「奥二重」。

マヤさんは奥二重でまぶたに厚みのある自分の目を、メディアで活躍しているハーフモデル、ハーフタレントの女性たちの「二重で、大きなくりっとした目」と比べて、「ハ―フらしい目じゃない」と少しずつ恥じるようになったと言います。

「ハーフ」の言葉を使ってメイクを紹介する雑誌
「ハーフ」の言葉を使ってメイクを紹介する雑誌

外に出ることも怖くなった

恥ずかしさを払拭するため美容雑誌などを参考に二重の幅を広げるためのコスメを使い、「理想のハーフ顔」を目指し始めました。時には二重の跡が残るようまぶたに爪を立てることもありました。

「友人が一重か奥二重かを気にしたことなんてなかったのに、自分の奥二重は許せなかった。ハーフなのに、ハーフらしい顔をメイクで作ろうとしている自分が恥ずかしく、耐えられなかった」

「これが正しい顔」という賛美

人に顔を見られるのが怖く、外出ができなくなった2年生の冬、自分の体が醜いと思い込む「醜形恐怖症」からくるうつ病と診断を受けました。

うつ病の治療と並行して、奥二重を二重にする美容整形の手術を受けました。術後にぱっちりとした二重になった自分の顔を見て「奥二重の中途半端なハーフだった私が、『分かりやすいハーフ』になれたとすごく楽になった」と振り返ります。

次第に外出ができるようになると、自分が感じた苦しさについて考えるようになりました。

「テレビや広告、街中にはステレオタイプなハーフの顔立ちを賛美する表現がいたるところにあって、これが美しく正しい顔と社会に定義されているよう」

「白人ハーフの私ですら、その顔立ちとののギャップに自分を否定されているようで傷ついた。アジアやアフリカなどにルーツがある人、海外にルーツはない人であっても社会の理想から外れていると感じる人はいるはずと考えるようになりました」

雑誌の切り抜き
雑誌の切り抜き

茶色の髪で、謝罪

日本人とイラン人のハーフの小澤ナザニンさん(28)も、「知らず知らずに美しい=『白人に近い外見』として自分を否定してきた」と話します。

東京都出身のナザニンさんは、イラン人の父親とペルシャ語が堪能な日本人の母親の下、小学校に上がるまで日本語とペルシャ語の両方を話しながら育ちました。

「国籍を意識したことはありませんでした。私もお父さんもお母さんも地球人、という程度の認識だった」

幼い時のナザニンさん
幼い時のナザニンさん

それが一変したのが小学校に進学後。

「イラン人はいらん」

言葉遊びのようなからかいから始まり、カールし、茶色がかった髪質、体毛の濃さや高い鼻を頻繁に揶揄されることが増えました。

教員から「私は髪を染めていませんが、みんなを困らせてすみませんでした」と同級生の前で謝罪させられたこともあったといいます。

メイクで「日本人らしい顔」に

中学校に進学すると「外国人っぽい」特徴を目立たなくするために、縮毛矯正で髪をまっすぐにし、眉毛と目の間を空けるために、眉毛の下側の毛を抜き、コンシーラーで目の周りの陰影をぼやかしたメイクもしました。

「今思えばバカみたいな努力だけど、当時は必死でした。みんなと同じ見た目に、日本人に見えるように認めてもらえるように工夫しました」

しばらくしてハーフのモデルやタレントが活躍するようになると、「ハーフの子ってかわいいよね」「ハーフタレントに似てるよね」と言われることが増えました。

「ハーフ」として褒められる一方で、モデルやタレントとの体形の差を強く意識するようになり、「痩せて、理想のハーフになりたい。認められたい」と15歳ごろには、食事を拒否する摂食障害になったといいます。

石井マヤさん提供
石井マヤさん提供

「他人の中に生きる自分」

中学校ではいじめを理由に不登校になり、進学した高校も中退しました。

「自分の弱さが全ての原因だと思っていた。いじめに負けるのも、理想のハーフになれないのも」

ただ、自分のつらさの出どころを突き詰めていく中で、「常に世間に認められる自分になろうともがいていた。日本社会で日本人として認められるために、世間で良しとされるハーフ像に近づくために自分を否定してきた」ことに気付いたと話します。

「周囲が認めてくれる自分ではなくて、私が納得できる自分になろうと思えるようになったら、苦しさが軽減した」

つらい気持ちに蓋をしない

ナザニンさんは今、アメリカに住み現地の大学に通っています。アメリカでは、アジア人として人種差別を受ける経験があると言います。

ただ、その経験を「やめてほしい!」と怒った時に、応援してくれる人や環境があることで救われているそうです。

「つらい気持ちに蓋をしなくていい」。それが許される環境に身を置く中で、ナザニンさんはマヤさんと一緒に日本の美容雑誌や街中の広告に溢れる「ハーフ顔」などの表現に声を上げ始めました。

「理想のハーフ顔にとらわれて自分を否定してきた経験を、子どもたちに引き継ぎたくありません」

過去にはクレヨンや色鉛筆、絵の具の「はだいろ」が「うすだいだい」と変更されました。
2人は「ハーフ顔」が多用されるメイクやヘアカラーの説明は「うすだいだい」と同じように別の言葉で代替できると提案します。

「ハーフ顔メイク」ではなく「肌のトーンを明るく見せるメイク」、「立体感に重きを置いたメイク」。
「ハーフ系ヘアカラー」は「アッシュブラウン」、「グレーベージュ」。


「ハーフは何かを分かりやすく表現するための単語ではありません」とナザニンさんは言います。

「悪気がない言葉でも、私たちのように傷つく人がいます。様々な国や文化にルーツがある人が住んでいて、今の日本はみんなが思う以上に多様になっている。その多様性に目を向けるきっかけになるよう、声を上げつづけたいです」

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