話題
一発勝負で「人生決まる」中国の大学入試 高校はメンタルケアに注力
中国の大学入試は6月にあります。試験の「高考(ガオカオ)」は「現代の科挙」と呼ばれるほど、中国人にとっては一大事。日本と違い、中国では大学や専攻ごとの試験は原則的に行われないため、高考の結果だけが合否の判断材料になります。
かつては「千軍万馬が丸木橋を渡る」と例えられるほど、競争が熾烈だった高考。しかし近年、各大学が学生の募集人数が大幅に増やす「拡招」が続き、2018年に大学の合格率が80%を突破。日本と同じような「全入時代」を迎えつつあります。それでも将来の就職を考え、学力上位の大学を狙う競争は依然として激しいものです。そうした受験生たちの精神面を案じ、学生のメンタルケアに力を入れる高校も出ています。
中国は欧米と同じで、新年度の入学シーズンは9月。試験は夏に行われます。かつては7月7、8、9日の三日間でしたが、暑すぎて学生の負担になるということで、1ヶ月前倒し。現在は、6月の7、8の二日間に行われています。
さらに最近の入試改革で、選択科目である歴史、地理、物理、化学などの試験は早めに行われ、6月は共通科目の国語、英語、数学の三科目だけを受験することになります。
私が学生だった10数年前と異なり、今は「ほぼ、誰でも大学へ行ける時代になった」と言われています。
1977年に中国が高考を再開した時、大学合格率が5%以下で、大学生が非常に珍しい存在でしたが、その後大学生が徐々に増えました。
1999年からは教育の産業化が推進され、合格率は1998年の33%から一気に55%に。2018年には、80%を超えました。
受験生の数も375万人だった2000年以降、毎年増え、2009年には1000万人を突破、2010年の1050万人をピークに、最近は900万人台を維持しています。今年の受験者数はまた、1000万人を超え、合格者も800万人を超える見込みです。
高考を語る上でわかりにくいのが、その複雑な制度です。中国に詳しいジャーナリストの中島恵さんによると、各大学は省ごとに合格者数を決め、合格基準を設定する仕組みで、各省の合格者数の割り当ても毎年変動します。「北京や上海などの大都市出身の学生が大都市(地元)の大学に入学するのは有利、地方出身の学生が大都市の大学に入学するのは不利で、たとえば、地方の学生の北京大学の合格ラインは大都市の学生のそれよりも、最初から高く設定されています」と解説します。
私のふるさと嘉善県がある浙江省は、受験生が多く大学が少ないため、受験生や保護者からは「悪夢式」と呼ばれています。一方、北京市や上海市は、「ハッピー式」と呼ばれています。
「一握りの『重点大学』に合格するために、多くの高校生は1日十数時間以上の猛勉強をするのが普通で、受験戦争は『生まれたその日から始まっている』というジョークもあるほど。重点大学は、政府が多くの資金を投入し、優秀な教授陣が揃っている有名大学のことで、就職に有利です」と中島さん。合否は高考の試験結果のみで決まるので、「一考定終生」(試験一つで人生が決まる)と言われるように、試験の重みはハンパないです。
この数年、嘉善県は未成年者のメンタルケアにかなり力を入れています。高校レベルでは専門職の心理カウンセラーを配備し、中学校レベルでも兼任のカウンセラーを配備しています。また浙江省も「心理健康教育示範点学校」を定め、高校生だけでなく、小中学校の学生の心理問題を重要視しています。
中島さんによると、親は子どもの負担を減らすため、塾への送迎だけでなく、高校の近くに勉強用のアパートを借りてあげ、食事などすべてのサポートをするケースも珍しくなく、過保護な両親と精神的に弱い子どもは年々増えています。しかし、近年、富裕層の子弟の間では、過酷すぎる高考を最初から放棄して、海外留学の道を目指すケースも増えており、少しずつですが、「高考至上主義」の考え方は変化してきているそうです。
どんなに時代が変わったとは言え、おそらく変わらないのは、親が子どもに対する愛です。「可憐天下父母心」(親の心子知らず。親はとかく子供のことを想うもの)という諺のように、親の子どもたちへの無条件のサポートが、今後も続くだろうと思われます。
この愛が重すぎる負担にならずに、子どもたちの心のケアにもシフトできればいいなあと思いました。
1/17枚