連載
#19 コミチ漫画コラボ
「あなた、失礼ですね」駆け出し営業マンの大失敗 営業の存在意義は
働く人に読んでもらいたい、シゴトのマンガ。
新入社員研修で飛び込み営業をすることになった、新卒の青年。街中に立ち尽くし、「いきなりモノ売るなんてムリゲーだろ…」と困惑しています。
「とりあえず数打ちゃ当たるだろ」と、近くの雑貨店に入ることに。自社の商品を紹介して「すごくないですか!?」と勧めると、雑貨店の店主は「たしかにすごいねぇ」と言いつつも、「ウチにはちょっと大げさすぎるかな」と難色を示します。
「そんなに甘くないか」と納得する青年ですが、こじんまりと店を続けていきたいと和やかに話す店主に向かって、「自分ひとり食っていければいいって感じですかね?」と笑顔で返してしまいます。
その途端、店主の態度は急変。冷たい目で「あなた、失礼ですね」。
「お帰りください」
静かに追い出されてしまった帰り道、落ち込みながらも、青年の脳裏にある疑問が浮かんできます。周りを見渡すと、あらゆるところで当たり前のようにモノは売買されている……であれば……。
「営業(おれ)は何のためにいるんだ?」
「もともと、営業になる気はなかったんです」というじゅんさん。会社の雰囲気やサービスに惹かれて入社を決めましたが、配属を希望する余地はなく、営業の部署に就きました。
当時は「営業」という仕事を、「誰にでもできるような仕事だと思っていた」と話します。
「お客さんのところに押しかけて、出来上がっている商品を『買ってください』と言う。足を使って動き回る、つらいだけのつまらない仕事だと思っていましたね」
そんなとき、最初の顧客である雑貨店の店主に「失礼」と言われてしまったのでした。
「完全に出鼻をくじかれましたね。落ち込みましたけど、『営業』の存在意義について考えるきっかけになりました」
「僕は何のためにいるんですか?」「僕はあなたのために何ができるんですか?」
雑貨店での一件のあと、漫画では「営業」をめぐる自問を続ける青年の姿が描かれています。じゅんさん自身は、新規の顧客を獲得する専門の部署に異動し、営業としての仕事の幅を広げていた頃のことでした。
その世界に身を置いて感じるようになったのは、「営業」という行為の奥深さだったといいます。
「例えば、同じ100万円を売り上げたとしても、営業する人によって数字の中身が違うんです。お客さんが『もともと買うつもりだった』という売上もあれば、『君が良い提案をしてくれたから買ったよ』という売上もある。売るモノが一緒でも、自分の考えによって介在価値に大きく振れ幅が出るのは面白いことだな、と」
だからこそ自分が営業することで生まれる価値は何か、と考えるようになったじゅんさん。手元にあった水のペットボトルを使って、こんな話をしてくれました。
「お客さんに『水がほしい』と言われたとします。営業マンとして数字が欲しいだけであれば、『飲んでください』って売ればいいんですけど、『畑の野菜にかけてください、そしたら来年も再来年も野菜がとれますよ』とおすすめすることもできますよね」
「ただ単にお客さんの『欲しいもの』を売るのではなく、自分の知恵や会社の力を使って、お客さんだけでは気づけなかった『新しい価値』を生み出す。それってものすごくクリエイティブだし、価値のある仕事だと思ったんです」
数年後の話として漫画の後半では、青年が顧客の男性に「なんでその問題が発生しているんですか」と、企業の課題を掘り下げて尋ねています。「なんで」「なんで」と続ける青年に、顧客の男性は「うっ…」と頭を抱えてしまいます。
「また失礼なこと言ったのか!?」と焦る青年ですが、男性は「(他社の)どの営業さんも自社の製品がすごいすごいとまくし立てるばかりで、本当に頼っていいものかようわからんかったのです」。
「あなたは私どものことをこんなにも理解しようとしてくださる」「その姿勢に…感激してしまいまして……」
「営業(おれ)は何のためにいるんだ?」ーー、これまでの問いを思い出し、「そのために私がいるんです!」と答える青年。最後のコマには、固く顧客の手を握る青年の姿がありました。
じゅんさんは「営業に『正解』はないと思う」といいます。「売上の数字さえあれば、どんなやり方であっても営業としては成立してますから」
「でも」と続けるじゅんさん。「売上だけを見て営業をするのは、あまりにももったいないと感じます」
「僕は営業という仕事を楽しんでいるし、なによりたくさんのチャレンジと、学びをもらいました。営業からキャリアをスタートして本当に良かったと思っています」
「だから、営業を通じて成長していこうとする人にとって、顧客のことを理解しようと考える姿勢だけは、たぶん『正しい』と言っていいと思うんです」
苦労の甲斐もあって、じゅんさんはめきめきと営業成績を上げています。企業内で売上世界一、そして10期連続達成という、前人未到の記録を持っているといいます。
若手ながら今や営業だけではなく、マネジメントやコーチングをする立場にあるそうです。その傍ら、本格的に漫画を描き始めたのはなんと3カ月ほど前。
思わず、そんなに忙しくて漫画も描くって大丈夫なんですか?と聞くと、じゅんさんは「デキる営業マンは、時間もコントロールできるんですよ」と人なつっこく笑うのでした。
今後はTwitterを中心に、仕事や私生活におけるちょっとした疑問や気付きを漫画にして発信していくそうです。これまでの経験をもとにした営業やビジネスネタを描く一方で、彼女との同棲生活の一コマを切り取ったラブコメ風マンガも見どころのひとつ。
開設3ヶ月でTwitterのフォロワーはすでに2000人を超える、新進気鋭の漫画家です。今後の作品にも目が離せません。
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