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「悪口ない方がつらくないですか?」ウーマン村本が語る原発とテレビ
「福井といえば原発銀座」。福島の事故を福井の人は不安に思っているに違いない、と福井に赴任してくる前の私は思っていました。でも来てみると、そもそも日常生活の中で原発が話題にあがること自体、ほとんどありません。そんな福井出身の芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん(38)の地元は、原発もあるおおい町。芸能人の政治的発言が批判を受けることも多いなかで、原発や沖縄の基地問題などについての自身の考えを、村本さんは臆せずにSNS上でも発信しています。ふるさとに多く立地する原発や笑い、表現について考えていることを聞きました。(朝日新聞福井総局・南有紀)
――村本さんはどうして芸人に。
テレビの中の、さんまさんやダウンタウンさんとかを見て、腹抱えて笑って。「俺もあっちの世界行きたいなあ」って思った。振り返ってみたらそれ以外は真っ暗でした。テレビの中のあの空間が闇の中の光だった。そこに入りたかった。
――真っ暗?
勉強ができなかったんです。中学時代は79人中79位。スポーツもできない。もう衝動ですよね。行きたいと思ったら行きたい。それで、小浜水産高校(福井県小浜市)を2年で中退して、18歳で吉本(NSC:吉本興業の芸人養成所)に入った。
――その頃から好奇心旺盛だったんですか。
これは福井の田舎だからこそだと思うんですけど、たぶん人生でいちばん言われてきたのが、「そういうもんやって」という言葉。
お笑い芸人になりたいと言っても、「無理。そういうもんやん」と、誰も賛成してくれなかった。でも納得できないじゃないですか。「それってどういうもんなんだ」と、すごく考えるようになりました。
――村本さんが高校生まで過ごした福井県おおい町には、関西電力の大飯原発が立地しています。生まれる前年の1979年に営業運転を始めました。村本さんにとっておおい町はどんな場所で、原発はどんな存在でしたか。
おおいは本当にどこにでもある漁村。魚釣りや祭りでたまに県外から人が来るくらいの、小さな静かな町です。
原発は、普通に町にコンビニがあるのと同じ感じ。というかむしろ、近所にコンビニができたときの方が驚いた。たぶんみんな、自分の町の姿に気がつくのは、町を出て、色んな土地を知ってからじゃないかな。大人になってから気づくんだと思う。
――原発について話すようになって感じることは。
バラエティー番組の打ち合わせで原発の話を出すと、「いや原発は」「ちょっと重い」って言われるんです。原発に反対か賛成かをはっきり言っているならまだ分かるんですよ。でも原発っていう言葉自体に罪はない。なのに、みんなが言葉の中に、勝手にイメージを詰めこんでいく。
僕はこれ、お笑い芸人の責任だと思う。罪だと思うんですよ。ホームレスのおばあちゃんの話をしたら、MCの人に「それゆったらアカン人」って言われた。原発も、障害者や在日朝鮮人とかもそう。勝手なイメージを詰め込まれて、「言ったらアカンもん」にされている。
そのせいで彼らは特別視され、日常で語られなくなる。だってテレビの中ではそう扱われているから。語られなかったらどうなるか。おいてけぼりにされるわけですよ。
――村本さんが原発を意識し始めたきっかけは。
福島の原発事故があって、え、うちの地域にめっちゃあるけど、みたいな。それぐらいからだと思う。
テレビでは、みんなが当たり前のように原発の是非を語り、理論や理屈を言い合う。でも、地元の当事者の声を誰も語ろうとしない。辺野古(沖縄県名護市)の基地問題もそうですが、地元の声がないがしろにされて、それ以外の人が議論しているというのって、すごく怖いというか、無責任だと思うんです。
テレビの番組で、原発を「走り続けないといけないルームランナーみたい」と言ったことがあります。降りたら地獄、走り続けるしかない、原発は動き続けるしかない、って。そしたらツイッターで「それで十分金もうけしてきたんだから」「自己責任だよ」「金もらってるんだからいいじゃないか」というコメントがたくさんきた。
原発があると、町が潤っていいねと思われる。でも、よそに置いてくれないかとにおわせた瞬間、そんな厄介者をこっちによこすんじゃないっていう空気になるんです。
――最近、テレビへの出演は?
テレビに違和感を感じ始めて、ここ2~3年ほど、あまり出ていない。出たいものがない。これまでキラキラして見えたところが急に、退屈な人形劇をやっているように思えてしまったんです。
――人形劇?
今年、テレビの芸人が言っていたせりふでおもしろかったものを三つあげろって言われたらたぶん、出てこないでしょ。見ているときは笑うけど。
漫才で言うと、テレビで瞬発的に面白い人と、練って面白いネタができる芸人は別。瞬発的に面白い人はお茶の間をぱっと明るくできるけど、明るさでしかないんです。僕は「残す」ことがしたい。
「村本さんは、僕たちが一生懸命勉強してきたことを疑わせて、不安にさせる」と言われたことがある。
神様がいるかどうかなんて別に調べないでしょ? 自分の中で、いると解釈して安心しようとする。そういう臆病者ばっかりなんです。信用している神様を疑わせて嫌な気持ちにさせる、悪魔みたいな人間が僕です。(笑)
――村本さんも何度も行かれている沖縄について。沖縄の米軍基地も、福井の原発も、日本全体のために一つの地域が負担を背負うという意味で似ているように思います。でも実際に安全や電力といった恩恵にあずかっている基地や原発の立地地域以外の人たちは、それを「立地地域の問題」として捉える。どうして関心は高まらないのでしょう。
無知は罪だ、と言われるけど、僕は、危険なことをなんとなく知っているのに、知らないふりをしているのが大罪だと思っています。
でもね、仕方がないとも思うんですよ。道を歩いていて、目の前に100人が倒れていたとする。自分が小さなボートを持っていたら誰から助けるかというと、友だちとか、彼女とか、「自分ごと」の順。結局、ひとごとなんですよね。
僕が韓国や沖縄に行くのは、声を理解してほしい人の苦しみを知っているから。勘違いされて批判されたりとかね。彼らが声を聞いてもらえていないことが、自分が声を聞いてもらえていないような感覚になる。
――SNSでの発言に、批判が殺到することもあります。心が折れたことはないのでしょうか。
批判がないということは、空気だっていうこと。マザーテレサもガンジーも、ネットで調べれば悪口が出てくるんです。悪口がないということは、自分がいないということ。その方がつらくないですか。
――今後、何をめざしていくのでしょうか。
アメリカに行くと言っているけど、日本にいて、この不気味な国を変えるのも可能性としてはありかなと思ったりはしますけどね。
――つまり、政治家に?
政治家になれば、ポジショントークに巻き込まれる。それはお笑いから逃げるようなもの。あくまでも僕はお笑い芸人ですからね。ちゃんと最後はしっかり笑いを。
――笑いを通して社会問題を伝えることへのこだわりは。
やっぱりみんな、自分の足元だけちゃんと土があればいいんですよ。そういう人にがちで説教しても変わらないから、笑いでね。
学ぶタイミングってひとそれぞれだと思うんです。小学校のときに勉強しなかったやつが大人になってから知ることもある。だから今、知らなくても別にいい。60歳になって知りたくなったら、それがタイミングなんだと思う。
大事なのは、自分を肯定してくれるものを疑い、自分を否定してくるものと向き合っていくこと。おもしろいと思いますけどね。
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