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「昂のように」プロハスラー目指す18歳 挫折支えたあのドラ1選手
岐阜県の観光地・高山市にビリヤードのプロを目指している18歳がいます。もともとはプロ野球選手を目指した球児でしたが、挫折し、幼い頃から趣味でやっていたビリヤードでプロを目指すことになりました。国内ではメジャーではないプロのハスラーへの道を支えたのは、同じチームでともに白球を追いかけたドラフト1位ルーキーの存在でした。
プロハスラーを目指す選手に会いに、高山市内の娯楽施設「クイーンズコート」を訪れたのは昨年10月のこと。ジュニアの世界大会に日本代表として挑むと聞いて、練習を見に行きました。
カラオケやゲームなどを楽しめる施設の2階にビリヤード場がありました。
勢いよく球と球が当たる甲高い音が響いてきました。その中で、大人に混じり、真剣なまなざしでキューを握っている制服姿の若者が。県立高校の3年生、杉山功起さん(18)です。
杉山さんは東海地域のアマチュア王者であり、全日本ジュニア王者。国際大会への出場経験が豊富な実力者です。
学校が終わると、そのままこの施設で練習をしているとのこと。
部活は?
「帰宅部です」
たしかに、高校の「ビリヤード部」って聞いたことないですね。
ビリヤード初心者の記者にルールを教えてくれるとともに、練習の様子を見せてくれました。
所定の場所に9個の球をひし形に並べ、思いっきり突くと、球が台の上でばらばらに。
1~9と書かれた球を、白い手玉を突いてポケットと呼ばれる6カ所ある穴に、番号順に落としていきます。
「ナインボール」のルールを教えてくれたところで、気づきました。
手玉以外の球は台の上に残っていません。
「あれ、全部落としてません?」
「これくらいは楽勝ですよ」
ブレイクショットからすべての球をミスなく落とすことを「マスワリ」というそうで、プロを目指す人だったら、当たり前のことだそうです。
でも、そうしたら、勝負つかなくない?
「ブレイクショット後の散らばり方で球の位置が難しいときに、いかに相手のミスを待ち、ミスらず落とすかが勝負の分かれ目です」
杉山さんが中学生のころから一緒にプレーしている常連客の丸山聖さん(43)が教えてくれました。
丸山さんによると、杉山さんのすごさはショットの正確性。「打った球をミリ単位でコントロールできますよ」
えっ!ミリ単位?
球を落とすだけでなく、次に落とす球を落としやすい位置に手玉を調整したり、ミスした時でも相手が落としづらい位置に手玉を置く力も優れているそうです。
杉山さんが中学生の頃は負けなかったそうですが、高校生になる頃にはもう勝てなくなったそうです。
「技術に関してはもう教えてもらってばかりです。センスがずば抜けています」
プロハスラーを目指す杉山さんのもともと夢は、プロ野球選手でした。
小学4年生で野球を始め、中学では硬式野球チームに入ります。
そのチームにいたのは、昨秋のドラフト会議で4球団から1位指名を受け、中日に入団した根尾昂(あきら)選手でした。
同期には根尾選手だけなく、中日に入団した垣越建伸投手や、甲子園の常連校、星稜(石川県)や県岐阜商など強豪校で活躍した選手が在籍する「黄金世代」が集まっていました。
そんなチームで野球を磨いた杉山さんも「めっちゃレベル高かったですよ」。
そりゃあ、そうですよね。
特にすごかったのは根尾選手だったそうです。
土日練習のお昼休みの時間、ほかの選手は休憩したり、遊んだりしている間、根尾選手はお父さんと遠投をずっと続けていたそうです。
「昂は考えもしっかり持っていたし、勉強もすごくしていて、なにに対しても努力していた。すごいっすよね、でもそれが昂には普通でした」
友達と遊びたくなるのは中学生だったら、普通ですよね。
「昂がいたから、みんな追いつこうと頑張っていた。昂が投げて、自分がサヨナラヒットで優勝した試合がありました」
ここ一番の勝負強さがあるんですね。
「おいしいとこだけもらいました笑」
杉山さんは中学3年生まで野球を続けましたが、実は2年生の頃、プロ野球選手の夢をあきらめました。
「身長が155センチしかなくて、プロは無理だなって。だから次は競馬のジョッキーを目指しました。身長が低くてもいいから」
野球から競馬!?全然ちがう分野ですね。
「でも試験で落ちてしまって、じゃあ小さい頃からやっていたビリヤードかなって」
競馬からビリヤード!?それもずいぶんな転身ですね。
「1歳のころからおもちゃでやっていたので。おとう(父親)が好きだったんです」
1歳!?英才教育ですね。
「もちろん、覚えてないですけど。でも小さい頃、世界的に有名な選手のビデオをすり切れるまでみていました。テレビを見て、まねしていたからか普段は右利きなんですけど、ビリヤードだけは左利きになりました」
中学2年生でビリヤードに本腰を入れた杉山さん。
学校帰りにビリヤード場に通い、常連客相手にめきめき腕をあげます。
中学3年生で全日本ジュニアに出場を果たし、徐々に成績をあげ、高校3年生で全日本ジュニアを制します。
昨年秋には2度目のジュニアの世界大会への出場しました。
同級生の競争相手もない状態で上達していくのを支えたのは、根尾選手らボーイズの選手たちの存在でした。
「甲子園に出ているのをテレビで見て、頑張ってんな、負けられないな」
腐ることはなかったんですか?
「野球をあきらめたり、ジョッキーに落ちたりして、悔しかったし、その気持ちに負けたくなかったんです」
競技は違うし、近くにいるわけじゃないけど、大きな心の支えだったんですね。
杉山さんは4月から横浜市に引っ越し、ビリヤード場で働きながら、プロを目指します。
技術だけでなく、精神力、メンタルの強化が杉山さんの課題です。
「ここぞって時にミスしないようにならないとプロでもやっていけません。昂は地道な練習をまじめに取り組んでいました。反復練習はあまり好きではないけど、プロを目指す以上そんなこと言ってられません」
地道な練習って、大事だけど、続けるのって難しいですよね。
「野球とビリヤードは全然違うけど、昂のように人として尊敬されるプロになりたいですね」
そんな根尾選手とは連絡とっていますか。
「あいつ、スマホとかもっているんですかね。連絡先、わかんないんですよね。いつか色々話せたらいいですけど」
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