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進次郎氏も提言、宇宙のゴミ掃除に力いれる日本 利害絡むからこそ…
宇宙には大量のゴミが漂っています。もし地球をまわる人工衛星にぶつかれば、私たちの生活にも悪影響が出ます。でも、ゴミの削減や片付けに関するルールはありません。米国やロシア、中国をはじめ、民間も開発を進める宇宙。安全な空間を守るためには? 国際政治の専門家は「日本の外交姿勢が『資産』として有効です」と話します。(朝日新聞国際報道部記者・飯島健太)
宇宙のゴミと聞くと、米アカデミー賞7冠のハリウッド映画「ゼロ・グラビティ」を思い浮かべる人もいるでしょう。スペースシャトルの外で活動する宇宙飛行士が、飛んできた宇宙ゴミに衝突する場面です。
実際、たくさんのゴミが地球のまわりを猛スピードでまわっています。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、宇宙のゴミは主に人工衛星の破片や部品です。役割を終えたもの、衝突により出たもの。10センチ以上のゴミは2万個以上、速さは秒速8キロとも言われます。
しかし、宇宙ゴミの削減や除去を定める厳しい国際ルールはありません。
宇宙のルールは、1967年発効の宇宙条約が代表的です。平和目的であれば、探査や研究は自由と定められています。
ですので、たとえ軍事利用でも、目的が侵略ではなくて自衛のためであれば良いとされます。
宇宙ゴミを減らすための世界的な協議は、1993年に始まりました。
宇宙政策に詳しい鈴木一人・北海道大学教授が責任編集の著書「技術・環境・エネルギーの連動リスク」によると、日本のJAXAを含む各国・欧州の13の宇宙機関による宇宙機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)が立ち上がったのです。「スペースデブリ」は宇宙ゴミのこと。
話し合いの背景には、宇宙空間をより長く大切に使おう、という意識の芽生えがあったのです。
IADCは2003年、わざと人工衛星を壊さないようにするなどの基準をつくりました。
しかし、あくまでも「基準」。
罰則を含めた厳しいルールをつくるとなると、利害が絡みます。「せっかく縛りの少ない宇宙空間だから、新しい規則は嫌だ」という意見もあるようです。
ゴミを何とかしなければ。でも、厳しい規則は損かも。立場が色々とあり、ことは単純ではないようです。
2007年1月、「事件」が起こります。
中国が弾道ミサイルを打ち上げ、高度850キロにあった自国の気象衛星を破壊したのです。
他国の人工衛星を攻撃することにもつながる試みです。また、破壊により大量の部品がゴミと化しました。
世界は衝撃を受け、ゴミのルールづくりが加速するかのように思えました。
事件の5カ月後、国連の宇宙空間平和利用委員会で、ゴミ削減の基準がつくられ、採択されました。
それでも、破ったら罰則、というものではありません。
では、どうすればいいのでしょうか。世界の関係者が頭を悩ましています。
この分野に近年、日本は力を入れています。
国会では昨夏、小泉進次郎氏を座長とする自民党のワーキング・チームが提言を出しました。
日本は、ゴミを取り除く先端技術があり、リーダーシップが発揮できる――。そういった点に小泉氏は注目し、安倍晋三首相に予算の確保を求めました。
特に、ゴミ除去に向けた技術の開発を進める「アストロスケール」(東京、岡田光信CEO)は、人工衛星を打ち上げて、宇宙ゴミを察知・捕獲することを目指しているそうです。
政府の動きもあります。防衛省は、宇宙ゴミをはじめ、攻撃を仕掛けてくるような不審な人工衛星を監視するため、航空自衛隊に「宇宙部隊」を新設する準備を進めています。
また、外務省は他国に対し、「宇宙先進国」日本の立場や技術をアピールしようと力を入れます。
「宇宙ゴミを取り除く技術そのものは、他の国の人工衛星を攻撃することにも使えます。でも、日本は他国を攻撃するような技術の使い方を一切しません」。こう語るのは、外務省宇宙・サイバー政策室の山口勇室長。だからこそ、「日本はゴミ問題をはじめ、宇宙の平和づくりをリードできるはず」と期待します。
「そのためにも、平和目的の利用をはじめ、まずは今ある国際ルールをきちんと守って、良い例を積み重ねることが大事。官民が協力し、そういう姿勢を世界に見せて、他の国にも理解を広げていきたいですね」
外務省のいう日本の姿は、他の国を攻撃する意志がなく、自国の行動に抑えが効いている、と言えそうです。
こういう外交上の姿勢について、国際政治が専門の遠藤誠治・成蹊大教授は「日本の資産」と呼びます。遠藤教授によると、平和な国際関係をつくる際、日本には他の国にはない強みがあります。
それが、憲法の平和主義です。第2次世界大戦後、専守防衛を貫いています。こうした「資産」は、他の国との争いごとにつながりにくく、むしろ信頼関係をつくるために生かせます。世界の協調のために有効と言えます。
遠藤教授が言います。「中国の台頭に見られるように、国際政治の舞台は時代とともに大きく姿を変えています。グローバル化が進む中、世界のみんなで共有し、利害の絡む事柄が増えています。みんなで管理すべき『共有地』があるのです」
「共有地」は宇宙をはじめ、インターネットや海洋といった空間が最近では注目されています。遠藤教授は続けます。
「対立や衝突が心配される国際政治の場で、自ら進んで信用を築こうとする役割が日本には求められていますし、できると思います。約束を守らない国、何を考えているのか分かりにくい国がいるのは事実です。簡単ではありませんが、チャンスとも言えます。宇宙ゴミの問題で、日本は世界に存在価値が示せそうですね」
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