IT・科学
「ゲーム依存症」の取材に行ったら「あなたもです」大人の深刻な症状
「ゲーム依存症の予備軍ですね」。4月下旬、取材で話を聞きに行った病院で、自分自身のゲームとの付き合い方を説明すると、医師は苦笑いしながら告げた。31歳、まさか社会人の自分が、依存症予備軍とは……。自分の体験を振り返りながら、ゲーム依存が広がる背景や現状を聞いた。(朝日新聞文化くらし報道部記者・山本恭介)
話を聞いたのは、日本で最初にネット依存外来を開いた国立病院機構・久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の中山秀紀医師。
私は、昨年7月、任天堂の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」を買った。
ゲーム機を買ったのは高校以来。品薄とのニュースを見て興味本位で購入したが、社会人となった今、はまることはないと自信を持っていた。その時点では……。
一緒に買ったシューティングオンラインゲーム「スプラトゥーン2」は、4対4のチームに分かれ、違う色のインクを塗り合い、最後に塗った面積が広いチームが勝利というのが基本的なルール。
まず驚いたのは、ゲーム機をインターネットとつなぎ、リアルタイムで世界の人たちと協力、対戦ができるオンライン機能だ。
高校時代に遊んだゲームは、一度クリアしたら終わりで、「ゴール」があった。ただ、今回買ったゲームはインターネットを通じてゲーム内容が毎週のように更新されて、終わりがない。
ステージや武器が追加されるたび、「少し試してみるか」とついついゲームのスイッチを入れた。
ゲームを始めるのは仕事を終えた深夜から。1試合3~5分だが、「もう1試合だけ」と続け、気づくと深夜3時。朝も仕事で6時前に起き、昼間は眠気との戦いに。休日は一日中遊び、習慣だったランニングや筋トレの時間も減った。2人で暮らす妻との遠出も少なくなった。
一方、試合で負けが続くとイライラし、コントローラーを投げそうになったことも多かった。妻には、ゲーム中は怖いから声をかけたくないと言われた。
ゲームを通じて友だちができた。オンラインゲームは、ツイッターで一緒に遊ぶメンバーを募集していることが多く、それをきっかけに知り合った。
顔も名前も肩書も分からず、ニックネームで呼び合うが、ゲームという共通の話題があるだけで盛り上がれた。無料通話アプリで通話しながら遊ぶと連携もでき、一体感も得られた。
ただ、仲良くなった人から直接の誘いが来るようになると、誘いを断りづらいことがあった。途中で抜けると迷惑がかかるので辞められないことも。
「私よりゲームね」との妻の怒りの言葉は今も胸に刺さる。ゲームを終えると、作ってくれた晩ご飯が冷めていることもあり、手作りの料理は減った。
ゲームで活躍すると、実力を示す称号が上がる。ツイッターで報告すると、仲間たちから祝福を受けた。仕事ではなかなか得られない感覚。教えを請われることもあり、うまくなりたいとの思いが高まる。1日でもやらないと下手になるという不安も生まれた。
少しでもうまくなろうと、外出先ではスマホでゲームの動画配信サイトを見た。動画ではプロゲーマーらがプレーしながら、コツを教えてくれるため参考になる。生放送もあり、視聴者が数千人を超える配信者もいた。暇さえあれば、スマホで動画を見るため、家でゲームをしていない時間もゲームに触れているような状況になった。
記者は4月の転勤を前に、完全にゲームにはまっている自分を自覚し、振り返った。ゲームを通じて友だちもでき、楽しい時間を過ごせた一方、失ったものは何か。楽しむためのゲームでイライラしていたら意味がないのでは。
新生活スタートに支障が出ると考え、ゲーム機をインターネットから遮断。段ボールに入れたままにして、1カ月が過ぎた。正直、またやりたい気持ちはあるが、うまく付き合える自信はまだない。
世界保健機関(WHO)は6月に公表する国際的な病気分類の改訂案で初めて、ゲーム依存症を「ゲーム障害」として疾患名に入れる方針を示している。
WHOの草案では、ゲームの衝動を抑えられない▽問題が起きてもゲームを続ける▽個人や家族、学習、仕事に重大な問題を引き起こしていることなどを具体的な症状とする。
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