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鉄道模型の常識を変えた…地味にすごい百貨店マン、万感の会社員人生
名古屋の地方百貨店「丸栄」の鉄道模型展は、鉄道模型のご当地化を進めた立役者。その模型展も丸栄の閉店が決まり、このゴールデンウィークで最後の開催になる。
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名古屋の地方百貨店「丸栄」の鉄道模型展は、鉄道模型のご当地化を進めた立役者。その模型展も丸栄の閉店が決まり、このゴールデンウィークで最後の開催になる。
いまや全国各地で見かける鉄道模型展ですが、ほんの15年前は東京と大阪開催ばかり。その流れを変えて地方開催を実現し、鉄道模型業界にも「ご当地」の発想をもたらした名古屋の2人の百貨店マンがいます。歴史を変えた鉄道模型展ですが、今年、最後を迎えます。影の功労者は万感の思いで語ります。「代名詞の仕事を残せてよかった」。
名古屋の繁華街、栄にある百貨店「丸栄」。
ここで毎年ゴールデンウィークに開催される鉄道模型展は、1万人が集まる人気展示です。今年で15回目を迎えます。
他部署への異動もありながら15年間、担当を続けてきたのは営業推進部担当課長の中井亮さん(48)と、特選・生活用品・催事部長の橋本宜明さん(53)。
開催のきっかけはお客さんの声でした。
「名古屋でも鉄道模型のイベントがあるといいんだけど」
そして、こうアドバイスされました。
「松屋銀座のイベントを見てきたら?」
中井さんは早速、東京・松屋銀座へ向かいました。
松屋銀座の鉄道模型イベントは、2016年まで38回開催された業界では有名なイベントです。
その日、入場制限がかかるほどの会場の熱気を目の当たりにした中井さんは、「なんとか名古屋できないか」と、鉄道模型メーカーにかけ合います。
ですがメーカーはすぐには首を縦には振りませんでした。
「1年くらい主要なイベントを見て、できるかどうか判断してほしい」。大手メーカー「カトー」の川崎太志さん(53)は、中井さんに、そう返事をしました。
東京と大阪以外の開催は、人口やマーケットを考えると難しいと感じていたことが一つ。
もう一つは、簡単に客が集まるという安易な気持ちではやってほしくなかったからです。
川崎さんの言葉を受けて、中井さんと橋本さんは各地のイベントへ頻繁に顔を出しました。
実は2人とも子どものころに鉄道模型にはまったファン。自分たちの子どもにも、鉄道を連想させる名前をつけるほどの鉄道好きでした。
そんな2人に心を動かされた川崎さんら各社メーカーは、2004年の開催を決めます。
「2人がいなかったら名古屋開催は実現しなかった」と川崎さんは振り返ります。
そして迎えた開催初日。
開店前の丸栄の外には長い行列ができていました。東海地域で人が集まるのか半信半疑だった川崎さんは「衝撃を受けました」。
さらに驚いたのが、東京大阪では真っ先に売り切れる目玉商品が売れ残ったこと。
「これ貴重ですよって言いたいくらいでした」と川崎さん。
代わりに人気を集めたのは、JR東海や名古屋鉄道など地元ゆかりの車両でした。
「名古屋愛が強いですね。丸栄での開催をきっかけに、福岡など地方都市でローカル色を打ち出す模型展が開かれ、大阪でも地域に特化するようになりました」
いまでは各メーカーが丸栄の鉄道模型展に合わせて東海地域の新商品を販売しています。
鉄道模型業界を変えたこの丸栄の鉄道模型展(5月6日まで)、実は、今年が最後の開催となります。
丸栄が6月末で閉店するからです。
丸栄の中井さんは、万感の思いで語ります。
「いつも会場を作るところからワクワクしていました。今年で終わるのは惜しいですが、代名詞の仕事を残せてよかったです」
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