IT・科学
ド素人のための「SXSW講座」 テックの祭典、ツイッターもブレイク
テックの祭典として知られるSXSW(サウスバイサウスウエスト)が3月9~18日、米国テキサス州オースティンで開催されました。かつては人気アーティストグループのPerfumeなども参加し、今年は著名な起業家のイーロン・マスク氏や映画「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカー役で知られる俳優のマーク・ハミル氏らが登壇するなど、近年、ますます注目を集めるこのイベント。日本でもITや広告などの業界を中心に、行ってみたいと考える人が少なくないですが、どのようにして参加し、楽しめば良いのか。気をつけるべき点は何なのか。今回初体験した記者が自身の経験に基づき、一般参加者目線でガイドします。
音楽の街として知られるオースティンで、1987年に音楽中心のイベントとして始まったSXSW。途中から映画やIT、ゲームなどの関連イベントも追加され、短文投稿サイト「ツイッター」が注目を集めて飛躍のきっかけをつかんだイベントとしても知られています。
行きたいと思ったら、まず最初に始めるのはバッジの購入です。インタラクティブ(要はIT関連)、音楽、映画の各大分類ごとのバッジとともに、原則全てのイベントに参加できるプラチナムのバッジもあり、早めに買えば早めに買うほど安くなります。
先日まで実施されていた来年(3月8日~17日)のバッジの先行販売では、プラチナムで1150ドル(1ドル=106円換算で12万1900円)、各大分類で825ドルとそれなりの値段がしました。一般販売の情報は夏にアップされるようですが、行く覚悟が決まったらなるべく早めに購入するのが良いでしょう。
私が参加した今回はバッジを購入する際、バーベキューイベントへの参加などのオプションを提案されましたが、会場内外に売店やフードトラックなども多数出ていますので、お金を節約したい人は申し込まなくても良いと思います。
ホテルは、SXSWの運営側が提示してくれる物件もありますが、平常時よりは高めの価格になっているようです。
主要会場が集まるオースティンのダウンタウン周辺部のホテルを押さえられると便利ですが、値段的に難しい場合もあるので、ちょっと郊外に宿を借りて、Uber、Lyft、RideAustinといったネットを通じて配車を依頼する「ライドシェアサービス」などでダウンタウンまで行き来する手もあります。
今回はLyftが「公式ライドシェア」としてPRし、最初の利用時に5ドル安くなるなどのプロモーションコードも発行していました。これらのサービスを活用したいと思ったら、日本で早めにスマホアプリをダウンロードして利用者登録をしておくと便利です。
航空機については、日本からオースティンへの直行便がないので、ヒューストンやサンフランシスコなどの経由便を使うことになります。旅行代理店にチケットの手配をお願いするか、自分でホームページで格安チケットを探す手もあるでしょう。私は、乗り継ぎ地のヒューストンで1泊し、昔からの友達と会うスケジュールにしたこともあり、代理店経由で約18万円程度でチケットを購入しましたが、もっと安く済ませる手もあったかとは思います。
なお、渡米には電子渡航認証システム(ESTA)の登録かビザが必要ですから、忘れずに申請しておきましょう。
参加予定者同士の情報交換には、facebook上のグループ「SXSWへGO!」が便利です。参加経験者たちや出展企業の「中の人」たちが積極的に情報を発してくれますし、中には各日の注目のセッション(講座)を紹介してくれる人もいます。
SXSWはなかなか全貌を把握するのが難しいほどの巨大イベントです。公式スマートフォンアプリの「SXSW GO」を利用すると、日付ごとのイベントの一覧が載り、「お気に入り」機能で注目のセッション、登壇者、会場などを登録することができてとても便利ですが、それでも「え、この時間帯にそんなイベントがあったの?」と後になって知ることも少なくありませんでした。アンテナの感度を良くするためにも、開幕前からいろんな人たちと情報交換できるチャンネルを持っておくべきだと思います。
.@HamillHimself dropped in on @rianjohnson's Featured Session with @jowrotethis to chat about his experience working on @starwars today at #SXSW 2018! pic.twitter.com/Wp3NjQRNPv
— SXSW (@sxsw) 2018年3月13日
本番では、各会場に入るのにバッジの提示が必要です。可能ならば、開幕前日にオースティン入りし、早めにバッジをもらっておきましょう。開幕してからだと、バッジの受取場所が混み合ってもらうのに時間がかかり、行きたいイベントに間に合わなかった、ということも起こりえます。
なお、受取場所では、資料が入ったトートバックももらえます。開催期間中に買ったりもらったりしたものを入れるのに便利ですから、忘れずにもらいましょう。
SXSWの華と言えば、大物が続々登場するセッションでしょう。
今回はマスク氏、ハミル氏のほか、映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏、俳優のイーサン・ホーク氏、元大リーガーのアレックス・ロドリゲス氏などの著名人や、Microsoftの人工知能(AI)研究やIBMのブロックチェーン技術の担当者らも登壇。原則、質疑応答の時間が設けられ、登壇者たちに直接マイクで、もしくはsli.doというネット上の質問サービスを通じて、自分の疑問点を投げかけることができます。
また、だいたいの登壇者とはセッション終了後に、名刺や中国のコミュニケーションアプリ「WeChat」の連絡先の交換をしたり、直接会話を交わしたりすることもできます。登壇者側にとっても、そうした場での知識の共有、意見交換を通じたフィードバックを求めていると言えるので、臆せずにアプローチする姿勢が大切です。
私のケースを挙げましょう。あるセッションでは、アラブ首長国連邦ドバイの進める「スマートドバイ」構想の担当者が登壇。公文書管理のために、改ざんが難しいとされるブロックチェーン技術を活用していることなどを説明しました。「日本では、国の機関が公文書を改ざんしたことが問題となっている。日本もブロックチェーン技術を活用すれば良いと感じた」と言うと、「全ての国がブロックチェーンを活用するべきだ」と笑顔で言われました。
また、ドバイからのその登壇者たちは名刺を持たず、スマホ画面いっぱいに大きく表示されたQRコードを読み取らせると、iPhoneの連絡帳機能に名前やメールアドレスが自動で打ち込まれる仕組みを活用していました。そうした新しい海外技術を知ることができるのも、SXSWのメリットです。
別のセッションでは、AIを研究するスタンフォード大学の教授が「次世代のAIは、社会科学や人間性の観点からも研究を進めなくてはいけない。アーティストや法律家なども巻き込み、AIを孤立化させないようにしないといけない」などと説明。
私も、人と会話をするAIボット「りんな」や犬型の愛玩用ロボット「aibo」(双方とも、今回のSXSWでは、セッションや展示で紹介されていました)の登場を受け、AIに何を学習させるべきで、何を学習させてはいけないのか、など哲学や倫理学の要素が今後重要になってくると感じていました。
ただ、日本では、社会科学などの文系学問の関連予算が削られる傾向にあります。その懸念を教授に伝えると、「それは、世界的に同じ状況になってきている」との認識を持っていることを教えてくれました。
日本だけで物事を見ていると、世界の中での位置付けを把握しかねるところがあります。
セッションで「世界の状況はこうなのだ」と学ぶことも大切ですが、メーカーや起業家の視点に立つと、新しく生み出した自らの製品が世界で通用するか、を試す経験が何よりも必要です。
SXSWでは、そうした新規サービスや製品をPRできるトレードショーという展示市も催され、日本を含めた世界のスタートアップ企業がどのようなサービスを生み出しているのか、を見ることができました。
東京大学発ベンチャーの取り組みをSXSWに持って行こうという「Todai to Texas」という活動があり、片耳だけ聞こえない人向けに骨伝導で聞こえない側の耳からも音が聞こえるようにする眼鏡型デバイス「asEars」や、飛ばずにケーブルを伝わることで省電力化を図るドローンである「Ninja Drone」などの取り組みが出展されていました。これらの取り組みが紹介されたセッションでは、終了後にそれぞれの発表者たちの前に行列ができ、来場者の関心の高さがうかがえました。
ちなみに、海外からの展示の中には、何の企業なのかは厳密には分からなかったのですが、「我々はコミュニケーションの企業だ」として、マッサージをしてくれるブースもありました。それぞれ、自分たちを売り込むために色々と知恵を絞っているようです。
また、ゲームをスポーツとしてとらえる「eスポーツ」について、日本でも五輪競技化を視野に入れた統合団体の誕生なども受けてじわじわと報道されるようになってきましたが、SXSWでも「SXSW Gaming」と題して展示、eスポーツ対戦会や関連セッションなどがあり、海外での盛り上がりの高さを肌で感じることもできました。
こうしたセッションや展示の会場は、オースティンのダウンタウン周辺のホテルなどに点在しています。歩き回っているうちに足も疲れますし、スマートフォンの充電も心配になってきます。
そんな時のために、食べ物や飲み物が無償提供されたり、充電器が置かれたりする休憩所も各企業などが立ち上げています。この期間だけのために、既存の建物やお店などを借り上げるなどしているようです。
もっとも、各企業もボランティアでそうしたことをやっているわけではありません。自社製品のPRのためという目的がありますし、入場するにはメールアドレスなどの個人情報を登録する必要がある休憩所もありました。
後々になって、そうした企業たちから大量のPRメールが来て煩わしく感じることもあるかもしれませんので、その点はしっかり考慮に入れた上で活用する必要があるでしょう。
また、そのようにSXSWでは何らかのサービスが無料で振る舞われるケースが少なくないことを逆手に取ったような人たちもいて、私もヒヤリとしたことがありました。
ともに主要会場であるオースティンコンベンションセンターとJWマリオットホテルを結ぶ人通りの多い道を歩いている時のことでした。カジュアルなファッションに身を包んだ歌手と思われる大柄な男性がCDを配っていました。
何気なく手に取ると、「アーユージャパニーズ?トモダチ」などと握手を求められ、CDにサインを入れる。名前を聞かれたので、「篤史」と伝えましたが、海外の人にとっては分かりづらい名前なので、CDに自分で書いてくれ、と言われて書き入れ、「サンキュー」とその場を立ち去ろうとすると、「チップ20ドルが必要だ」という。
「それなら要らない」と返そうとすると、「名前を書いただろう。トモダチ」と言われて、体を寄せられる。体格差があるので、暴力を振るわれるとひとたまりもありません。「2千円程度なら」と支払ったところで解放されましたが、「ここは日本とは違うアウェーなのだ」という感覚は常に抱き続けていないといけない、ということを改めて痛感しました。
私は会期の大半に渡る開幕からの8日間を経験しました。
日本だけにいると分からない視野が開かれる印象もあり、とても有意義だったと思います。
ただ、有名なテックの祭典だからと言って、そこに行くだけで何かが変わるわけではなく、自分が試される場所でもあると感じました。
全体像の把握が難しいくらいにセッションやイベントが各所で開催され、かつ、サプライズ登壇などもあるので、事前準備とともに、その場その場の情報収集のアンテナの感度の高さが必要です。
マスク氏のセッションも、前日にアナウンスがあったのを他の日本人参加者のfacebookの投稿で偶然知ることができたため、早起きして整理券配布に備えることができました。ハミル氏も「SXSWを訪れるらしい」という噂がネット上にあって、おあつらえ向きの「スター・ウォーズ」最新作の監督が出るセッションに足を運んでみたところ、想定通りの「サプライズ」登壇に出くわすことができました。
セッションも、ただ聞いているだけよりは、登壇者に直接疑問を投げかけることで深みも増しますし、仕事でその人たちに改めて接触を持つ必要が出た際も、名刺の連絡先に「SXSWでお話しした者です」と一文を添えてアプローチした方が、全く面識がない人よりはスムーズに物事も進むでしょう。
また、「思ったより面白くないぞ」というセッションも、あるはあります。その場合は早めに見切りをつけて違うセッションを覗いてみたところ、セレンディピティというか、新たな発見を得られたことが何回かありました。
たまたまセッションや休憩所で隣の席に座った人との会話が弾むこともあり、日本や日本の文物への海外の人たちの関心は予想以上に高いんだな、と再認識する機会にもなりました。
なお、たくさんのボランティアの人たちが運営のサポートをしていますが、これだけの巨大イベントになると、ボランティアの人たち自身も把握していないことがたくさんあります。あるボランティアに尋ねて答えが得られなくても、また別のボランティアに改めて聞くと知っている、ということもあります。彼ら・彼女らもベストを尽くそうとはしてくれているので、こちら側も粘り強く調べる姿勢が必要なところはあるかと感じました。
この記事が多少なりとも、来年以降の参加を考えている方々の参考になりましたら幸いです。
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