感動
歌舞伎町「深夜のルノアール」で起きていること…作家とホストが対談
昔は危ないイメージだった新宿・歌舞伎町も、最近では外国人観光客の定番スポットになっています。歌舞伎町を舞台にした小説を書いてきた阿川大樹さんは「人生の種類がめちゃくちゃたくさんある街」と評します。歌舞伎町でホストクラブを経営し、昨年10月には本屋をオープンさせた手塚マキさんは「深夜の喫茶店は超エモい場所」と明かします。高校時代から歌舞伎町に慣れ親しんだ作家と、無類の本好きのホストクラブ経営者が、歌舞伎町のエモさについて語り合いました。(聞き手・奥山晶二郎)
――歌舞伎町のエモさとは?
阿川さん「歌舞伎町を歩いていると、目につくのはホストっぽい人や、女装している人、酔っ払いとか、客引きの人、そういう人が目立つんだけど。見えないところで、それだけの人を食べさせている、楽しませたりしている人は、めちゃめちゃたくさんいるんです」
――阿川さんの短編『始発のアフターファイブ』の主人公は、まさにそんな街を支えるラブホテルの清掃係です
阿川さん「始発に酔っ払って夜更かしして帰る人もいるんだけど、仕事が終わって帰る人もいる。その裏と表というか、裏側にいて働いている人も同時にいっぱいいる、人口の密集度は、仕事の密集度でもあり、汗の塊でもある。この街の密集度はすごいなって思っています」
――ホストの目から見たエモい歌舞伎町とは?
手塚さん「ルノワールの面白さって歌舞伎町にいる人にも気づいていないくらい、超エモい場所なんです。始発まで待つ間の歌舞伎町のルノワール。酔っ払いもいて」
――『始発のアフターファイブ』にも喫茶店のシーンが出てきます
阿川さん「そういうところが何カ所かあって。『cafe AYA』っていうのは、今は無くなっちゃいましたけど。」
手塚さん「『始発のアフターファイブ』に出てくるお店って『cafe AYA』なんですね」
阿川さん「イメージ的には『cafe AYA』ですね。ルノワールもそんな感じですよね。『睡眠禁止』って書いてあるけど、みんな酔っ払って寝ている」
手塚さん「『cafe AYA』は区役所通りの、ほんと一等地にあったんですよ。内装も簡易なオフィスのような作りで、特徴があるメニューでもないのに、毎日店内は混み合っていましたね」
阿川さん「普通だったら、誰が行くんだろうと思うような喫茶店。そんなところなんですけど」
手塚さん「いや、めっちゃエモかったですよね」
――阿川さんにとって歌舞伎町とは?
阿川さん「歌舞伎町っていろんな人がたくさんいて、いろんな人生を抱えています。ビジターもいるし、ずっとこの街で商売している人もいる。雇われていろんな仕事している人、人生の種類がめちゃくちゃたくさんある。小説家としては、いくらでも歌舞伎町にいる人を主人公にしたり、いくらでも小説がかけたりできるということ。この、ひとことに尽きますね」
――ホストとして歌舞伎町で働いていると、他の地域とは違う職業の人が多いと感じますか?
手塚さん「僕の見ている歌舞伎町はある意味側面でしかないんですよね。僕は、すごく歌舞伎町に詳しいという立ち位置で話をしていますけど『お前なにも知らないじゃん』て言われるくらい知らないんですよ」
――全体像はわからない?
手塚さん「全体をバランスよく知っている人なんて、今まで見たことないし、そんな人はいない。僕が見てきたある一面の歌舞伎町は、その意味で紛れもない歌舞伎町です。ただ、僕が知っている範囲を飛び抜けて、いろんな方がいるんだろうな、という想像はまだまだしますね」
――ホストとして働く中で、エモい、心に残るシーンはありますか?
手塚さん「歌舞伎町でお酒を飲む時って、みんな平等な立場で飲むことって実は少ない。例えば、ホストだったらお客さんと飲んでるとか。友達同士5人で飲みにいくというよりも、働いている人とお客さんとが入れ替わり立ち替わりすることって多いんです。そうすると、立場とか年齢が違う人が同じテーブルに並ぶことになって、その時に誰か一人にスポットライトが当たる瞬間が訪れる。勝手にほろっとする瞬間ですね」
――派手なエピソードではないんですね
手塚さん「(本屋にいた男性を指さして)そこに座っている、帽子かぶっている人は、一緒に働いているんですけど。お母さんに無理やり手紙を書かせたことがあって、それが本になっちゃったんですよ。その本のPOPを中華料理屋に貼っておいたら、15年くらい前の話なんですけど、この間、行った時、まだ貼ってあって。ほろっとしました。あいつの10年以上前の手紙、貼ってあるわって」
阿川さん「不思議に残ってたりするのありますよね。誰かの人生が張り付いていて。その場所に行くと昔のまんまっていうほどには一緒じゃないのに、残っているというものありますよね」
――歌舞伎町をよく知らない人におすすめのスポットは?
手塚さん「ぐるぐる歩くのがいいと思う。お店にも、勇気を出して入ってみてほしい」
――時間帯は?
手塚さん「午前1時から2時くらい。ホストクラブとキャバクラから一斉に放出される男女が、アフターにいけるのか。その勧誘時間がめっちゃ面白い。ぜひ小説にしてほしい」
阿川さん「夕方、日が暮れる前も面白い。一生懸命電話して、出勤前の同伴相手を決めて、別の日のための種まきをして……。水商売の人の、お店に入る前と後の努力というのは大きい。そういう姿が、その辺の喫茶店から見られて。時間帯によって、人間模様が変わるのが面白い」
手塚さん「アリの巣みたいに、何層にもなっている。阿川さんが、ラブホテルの裏方に話を向けたのも面白いですね」
阿川さん「昔あったマクドナルドで朝までいた時に、午前4時くらいになると年配の人が来るんです。100円のコーヒーしか飲まない人が、5、6人かたまっていて。服装も家からそのまま出てきたみたい。夜の方がメインの人の裏方や、ビルの掃除などをしている人たちかなって。60歳を過ぎると本当に仕事がないんです。ぼくも60歳を過ぎているから、今のように小説を書いていなかったらどうなっていたかということを考えてしまう」
――街を歩くだけでも楽しい?
手塚さん「そうだと思います。お店とかに入っちゃってもいいけど、『酉の市』みたいなイベントも、面白いですよ」
阿川さん「おすすめは、誰か見つけたらその人の人生を妄想することです」
手塚さん「小説家になれますね(笑)」
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阿川大樹(あがわ・たいじゅ)東京大学在学中に野田秀樹らと劇団「夢の遊眠社」を設立。会社員勤めの後、作家に。2005年『覇権の標的』で第二回ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞を受賞しデビュー。主な著書に『D列車でいこう』『インバウンド』『黄金町パフィー通り』など。『終電の神様』(実業之日本社刊)は、文庫本で27万部のベストセラーに。
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手塚マキ(てづか・まき)歌舞伎町の有名ホストクラブでナンバーワンになり独立。スタッフ教育の一環で街のゴミ拾いをするなど地域活動にも力を注ぐ。著書に『自分をあきらめるにはまだ早い 人生で大切なことはすべて歌舞伎町で学んだ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。2017年10月、歌舞伎町に「愛」をテーマにした本屋「歌舞伎町ブックセンター」を開店。
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