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カシス男子なぜ増えた?データが語る「平成お酒事情」激変一杯目市場

深夜のJR新宿駅で酔いつぶれたサラリーマン風の男性=1994年12月
深夜のJR新宿駅で酔いつぶれたサラリーマン風の男性=1994年12月 出典: 朝日新聞

目次

<ヘイセイデータ>数字で振り返る平成経済

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 忘年会シーズン真っ盛り。来年で30年になる平成の経済の浮き沈みの中で、お酒の飲まれ方も大きく変わりました。「1杯目市場」の覇者だったビールの没落。甘いお酒大好きなカシス男子を生んだ「子どもの舌」。データには表れにくい日本酒ブームの実像。世界20カ国以上のお酒を飲み歩いたという「酔っぱライター」の江口まゆみさんと振り返ります。

ビール、ピークから6割減る

――ビールの消費量は1994年度がピークでした。アサヒ「スーパードライ」は87年、キリン「一番搾り」は90年にそれぞれ登場し、人気を伸ばしました。ただ、90年代後半から右肩下がりで2015年度はピークから6割減。居酒屋に行っても「とりあえず生」という人が減ってきますよね。

「『1杯目市場』は、ビールとハイボールがパイを奪い合っています。ビールの苦みが苦手な人に、スッキリしていて飲みやすいハイボールが受けているんです。背景にあるのは健康ブーム。ビールに含まれるプリン体や糖質を避けたいと、女性だけでなく、かつてビール党だった中年男性にもハイボールが広がっています」

「ビールの苦さを嫌い、甘いお酒を好む男性も増えています。『スイーツ男子』という言葉もはやりましたよね。そういった男性は例えば、カシスオレンジとかカルピスハイ、生搾りグレープフルーツなどを飲んでいます。濃いめの味付けの外食に慣れ親しんだ世代で、そういう食べ物を食べ続けた結果、大人になっても、舌が子どものままなんです」

――ビールの消費量が減る一方で、90年後半は発泡酒のブームがあり、最近は「第3のビール」の消費量が増えています。

「景気悪化の影響ですね。バブル崩壊やリーマン・ショックで、外でお金を使わなくなり、飲食店が減っていきました。本当は外で楽しく飲みたい、でもお金がないからと自宅でお酒を飲む、いわゆる「宅飲み」が増えていきました。ワンコインで買える『500円ワイン』も一時期はやりましたよね」

酔うためではなく、楽しむため

――この30年でお酒への付き合い方はどう変わったのでしょうか。

「お酒を飲む目的が変わってきているように感じています。バブルが崩壊するまでは、終電近くになると、駅の周りには酔いつぶれて寝ている人がゴロゴロいましたよね(笑)でもいまは見なくなりました。『朝までいこー!』という人も減った」

「『酔うために飲む』ではなく『楽しむために飲む』に変わってきている。いろいろな種類のお酒を飲みたいとか、高いお酒をちょっとだけとか。お酒の個性や中身が重視されてきています。もはや一種のレクリエーションです。だから1杯目でビール以外のものを頼むのでしょうね」

深夜のJR新宿駅で酔いつぶれたサラリーマン風の男性=1994年12月
深夜のJR新宿駅で酔いつぶれたサラリーマン風の男性=1994年12月 出典: 朝日新聞

――焼酎の消費量は、2003年度に日本酒を逆転しました。消費者の嗜好の変化と何か関係はありますか。

「焼酎といえば、芋臭い焼酎をお湯割りにしてチビチビと飲むのが主流でした。焼酎造りが盛んな九州地方ではそうでしたね。それが味が良くなり、臭みのないすっきりとした焼酎が出てきた。それを東京で売り出すときに、オンザロックで飲む提案をしたんです。おしゃれなイメージで若い女性にうけ、それまで焼酎を置いていなかった銀座のバーやすし店などにもメニューとして定着していきました。おしゃれ、という点がウケたんです」

「ただ、日本酒も大量生産のパック酒は売れなくなってきているのですが、純米大吟醸酒や大吟醸酒といった質の高いお酒は売れています。『獺祭』が有名ですね。高くても良いお酒が飲みたい、という気持ちの表れです。消費量は少ないかもしれませんが、消費額は上がっているのではないかと思います」

――ワインに代表される「果実酒・甘味果実酒」の消費量は1998年度に急増した後、右肩下がりに。08年度以降は増加に転じ、15年度がピークになりました。

「98年に消費が伸びたのは、赤ワインブームですね。ポリフェノールが入っている赤ワインが健康に良いのではないかという噂が広がったためでした。赤ワインだけで、白ワインはそれほど売れていないんです。同じごろに消費を引っ張ったのは、値段のわりにおいしいと評判になったチリのカベルネ・ソーヴィニョン、いわゆる『チリカベ』ですね」

「いま国内でワイナリーが増えています。日本国内で栽培されたぶとうを使用し、日本国内で製造された『日本ワイン』ブランドとして日本はもちろん、世界から注目されています。日本酒と同じように、消費者が本物志向、より良いものを求める動きがみてとれます」

クラフトビールにクラフトウィスキー…個性もっと強く

――今後、お酒の市場はどうなっていくでしょうか。

「日本ワインやクラフトビールだけでなく、最近では各地でクラフトウィスキーも広がっています。これからのお酒は、細分化する消費者の好みに合わせ、個性がさらに強まっていくと思います。消費者が高くてもより質の良いお酒を求め、メーカーもそれに応えていく。そんな循環が広がり、おいしいお酒が増えていくと良いですね」

自宅には100本以上のお酒があるという江口まゆみさん
自宅には100本以上のお酒があるという江口まゆみさん 出典: 朝日新聞

     ◇

 えぐち・まゆみ 酒紀行家。これまでに20カ国以上を訪ね、酒や食、旅に関するルポやエッセイを手がける。訪ねた日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーなどのつくり手は、100軒以上にのぼる。近著に「ビジネスパーソンのための 一目おかれる酒選び」(平凡社)。

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